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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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相応



 リーベルトの両親は領地にいるので、早馬で手紙を出して許可の返事が届くまで早くても四日はかかる。

 許可が下りれば、決闘は申込日から一週間後に行うということになった。


 クラス内にはあまり決闘やリーベルトとプリムラ様のことに触れないように気を遣う空気が流れていた。受験生の前で「落ちる」や「滑る」などの単語を言わないように努める感じと似てる。

 当の二人も、互いに気にはしつつ気まずくて目を合わせられないというような膠着状態。


 決闘申し込みの翌々日、放課後にうちの馬車に同乗してそのままリーベルトをスカルラット邸に招いた。  

 グレゴリーと同学年騎士クラスのジークが、リーベルトの訓練相手を買って出てくれたのだ。向こうもおそらく六年の騎士クラスの知り合いに情報収集して訓練している。こっちも対策しないと。


 ――――――特訓兼お泊り会である!

 俺は正直普通に楽しみにしていた。訓練の後は一緒に夕飯食べてお菓子摘まみながらボードゲームするんだ~。


「何度も手合わせしたことがあるので、癖などもわかります。あの男、学習能力は低い割に剣の腕はなかなか良いので油断はできません」

 ジークがスッと毒舌を混ぜたのでリーベルトと俺は数秒固まった。


「……グレゴリーに何かされたことあるの?」

「いえ? 問題にするようなことは何も。ただ、私がコンスタンツェ様に気があると誤解されていた時『もっと美人を紹介する、知り合いで君と是非仲良くなりたいという令嬢がいるんだ』と何度も言い募って来るし、ネレウス様に侍ることになった時も『殿下は確かに魅力的な方だが男だぞ? 血迷わずに俺の紹介する令嬢と食事にでも行って正気に戻った方が良い』などと戯言を垂れ流す鬱陶しい男であることは確かです。リーベルト殿には是非こてんぱんにのしていただきたく思っております」


 お、おう。

 聞いた限りではちょっと無神経だが単純な親切心で絡んできている(ジーク目当ての女子に紹介を頼まれているだけかもしれないが)(同性愛は『遊び』『気の迷い』と捉える人がまだ多い)とも考えられるが、ジークからすれば大きなお世話だ。真面目なジークとは相性が悪い。地味に嫌いだったらしい。


 二人が騎士達と打ち合ったり立ち合い方を話し合うのを訓練場の端から暫し眺め、セレナに促されて俺も日課のランニングと腹筋運動、楽器の練習に移った。決闘に関して俺が協力できることはこれ以上なさそうだ。あるとしたら応援くらいだろうか。



 それぞれ風呂を済ませてから夕食。

 リーベルトは昔からちょくちょく来ているので父上と姉上、ジークは慣れたものだ。新しく家族に加わったファウント様には紹介を……しようとしたが、食事がもう運ばれるって時間にも姿が見えない。今日は別々なのかなと思ってたら、食事を乗せた台を押す使用人の後ろにファウント様が並んで部屋に入ってきた。


「今日の夕食は……カリーですよ!!!」


 ドヤ顔でそう言って姉上の隣の席に座る。


「……ファウント様、何で料理人側にいたんですか?」

「具材の研究にご一緒させてもらってましてね。夏野菜でもメラザは特に良い……! 合います! 季節の旬の物を煮込むとカリーはまた違う顔を見せてくれますねぇ……奥深い……ああ、今日は客人がおられるんでしたね、失礼しました」

「いえ、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません、グロリア子爵家三男、リーベルトと申します」

「マルガリータの夫、ファウントと申します。お見知りおきを。……リーベルト殿は、もしやまだカリーの味をご存じない!?」

「え、あ、はい。デウスから話には聞いてましたが」

「それでは是非楽しんでもらいたいですなぁ……! さあ!! 今現在ここでしか食べられない味ですよ!!」

「は、はい、いただきます」


 ガチ勢は押しが強過ぎる。お客ちょっと引いてますよ……! とハラハラしつつ見守る。

 リーベルトは(シチューとは少し違う色だしなんかどろどろしてるな……)と思ってそうな顔で恐る恐る匙を口に入れる。


「……! 美味しいです。へぇ、これが……」

「お、良かった~~……ん? いつもとちょっと違う……?」

「おわかりいただけましたか! 香辛料の配合と野菜を少しだけ変えてみたんですがどうです? アマデウス殿は嫌いな食べ物はほとんどないと伺ったのでひとまず食べてみていただこうかと」


 前世で健康のためになるべく何でも食べるようにしていたのでこっちでもそう心がけているだけで、嫌いなものがないわけではないのだが、美味しくないなと思っても幼児の頃から文句を言わず食べている。

 しかし何も言わずともアンヘンとベルにはなんとなくバレていて、そういうのは出る頻度が減ったり工夫されて出てきたりしたのだが。

 前世だと、食べられなくはないがグリーンピースとナンプラーが苦手だったな。


「いいですね、これはこれで美味しいです。少し甘めですかね?」

「ええ、マルガリータは甘めが好きなのでチロを加えてみて」

「ああ、なるほど」


 さらっと妻の好みに合わせたというファウント様。姉上が心なしか胸を張って自慢げになった。


「そうそう、カリーを国指定薬物として登録できそうですよ」

「カリーを……えっ? 何指定何?」


 聞き捨てちゃいけなそうな感じのことをさらっと言うなこの人。


「国指定薬物です。当分は限られた薬局併設店舗でしか作ることが難しくしておきましょう、香辛料の高騰や買い占めを防ぐためにも」

「や、薬物、ですか?!」

「扱いを間違えると体に悪い香辛料も入ってますからね! アマデウス殿も言ったでしょう? "薬膳"だと」

「言いましたけど……!」


 こっちの『薬膳』という言葉は病人の療養食、薬草や滋養のつく食材を使った料理みたいな感じで使われている。俺のイメージしていた『病気になる前に体調を整える』ものとは少々趣が異なる。

 まあ俺も薬膳に詳しくないしなんとなくで使った言葉だったが、まさかマジモンの薬扱いしてしまうなんて思わなかった。

 "カレーは飲み物"だったらおふざけの慣用句として前世で聞いたけど、"カレーは薬物"は聞いたことないな……。


 そして国指定難病はないが国指定薬物はある。自白薬と痺れ薬もその一種。登録したら公的には王家治癒師か王家治癒師の監修・認定を得た者しか作ることが出来なくなる。使用に注意が要る貴重な薬が指定される。

 いいのかそこにカレーを混ぜてしまって。怒られない???


「もしかして今すごく貴重なものを食べてる……?」

 リーベルトに小声で聞かれたが、「う、うーん……」としか答えられなかった。カリーパンだったら近いうちに売れると思ってたんだけど……もしやそれも延期になるか?

 大袈裟ではとも思うけどファウント様みたいにドはまりする人が現れることを考えると、これくらい慎重になった方が良いのかもしれない。



 食後は俺の部屋でリーベルトと緑茶でロネ羊羹を囲みつつゲームをした。


 サイコロを振って色付きの駒を進め先に十個ゴールした方が勝ちの双六的なボードゲーム。この国のボードゲームの中でも昔からあるメジャーな遊びだ。

 駒はシンプルに丸いのもあれば四角だったり馬の首の形になってたりもする。今使ってるのは父上が昔使ってた物を貰ったもので、シンプルに黒と白で丸くて平べったい駒。年季が入っているがよく手入れされてつやつやしている。

 これはこれで楽しいが、俺にとって双六と言えば人生ゲームとか電車で日本中を移動するやつとかのイメージなので、いつかそういう大きい絵の上を進んでワイワイ出来るのを作ってもらおうかなぁとたまに思う。案外ヒマにならないので優先度が低いけど。


 カードゲームもある。トランプみたいに五十二枚なのに、ダイヤやハートではなく、杯、剣、杖、硬貨で分かれている。詳しくないが、なんかタロットカードに近いかもしれない。ジョーカーはなく、十一から十三もキングとかクイーンではなく数字。紙ではなく薄い木札で出来ている。

 

「……よし、上がり」

「あ~~~! また負けた」

「デウスこれ弱いよね」

「そうなんだよなぁ」


 双六は一勝一敗だが、カードゲームは二回やって二回負けた。ジークや姉上ともたまにやるが勝率が低い。楽しいからやるけど。

 あと一回だけ! と頼んでカードを集める。


「……私、プリムラ様の好きな食べ物は聞いたけど、嫌いな食べ物は知らないなって、さっき思った。彼女のこと、思っていたより全然知らないのかも」


 カードに目を落としながら、リーベルトはどこか自虐的に微笑んだ。


「苦手な物とかあんまり話さなそうだもんね。弱点を晒すのが嫌なんじゃないかな」

「そういうところはあるかも。私も聞かなかった。多分……ずっと、遠慮してたんだ。都合が良いから選んでもらえただけで、私がハイライン様やペルーシュ様みたいな男前だったら彼女ももっと嬉しかったんだろうなって思ってたから……」

「そう? プリムラ様、あの二人にもアルフレド様にも興味なさげだったし、顔は重視してないんじゃない?」

「無害そうなら誰でもよかったのかな……」

「いや、誠実そうで優しくて笑顔が可愛くて成績も良くて剣の腕も良い人が良かったんじゃないの?」

「だ、誰??」

「リーベルトだけど」

「そ、そんなふうに思ってるの世界でデウスだけだよ……」

「そんなことないし!」

「他はともかく『可愛い』はおかしいでしょ、まあデウスは昔からアレだけど……」


 昔からずっとかっこかわいい親友は苦笑いした。アレとはなんだアレとは。昔からおかしいってか。


「そう言うリーベルトは、誰でもよかったの?」

「っ、誰でもなんてことは……」

「美人だったからよかった?」

「…………美人なのは確かに嬉しかったけど。頭が良くて堂々としてて、尊敬できる人だったから……そんな人が私を結婚相手に考えてくれたと思ったら、より嬉しかったというか……」

「あー、そうだ、その……決闘の勝利は不可欠だけど、勝ったからと言ってすんなり婚約者に戻れるとは限らないってのは、まあわかってるよね」

「はい、それは勿論……。私が先に"婚約解消"のカードを使った。彼女にもそれを使う権利があります……」


 俺は責めているつもりはないのだが、申し訳なさが勝ったのか敬語が返ってきた。


「だからさ、決闘に勝った後その足で愛を告白しに行くのが良いんじゃないかと俺は思う。勝利の余韻の勢いで許してもらえることを祈って」

「あ、愛を告白って何をどう……いや、内容は自分で考えるけど、デウスはどう言うのが良いと思うか参考までに教えて」

「うーん……具体的にプリムラ様のどういう所が好きで結婚したいと思ってるか、は言った方が良いんじゃないかな……あ、最初に今回の謝罪を一言入れた方が良いかも」

「確かに…………あ――~~~、今から練っても戦った後に整然と言える気がしない……」



 そろそろ寝ないと寝坊しますよ、とベルが進言するまでカードを散らかしたまま喋り倒していた。




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