41話 観光者ライセンスは役に立つ
「せっかくこっち側に来たんだし、案内でもする?」
えぇー…。
明らかに不審な私たちに、ここまで親切にする理由ってなに?
「私、もしかして、不審がられてる?」
「いや、どう考えても怪しい私たちのために、この場所を案内する理由は何かな、と。」
隣でネロのため息。
しょうがないでしょ
正直に言わないと、より怪しまれる可能性があるんだから。
「なるほどね。それは、私の知らないところで、歩き回られるより、私の目の届く範囲にいてもらった方が対処しやすいからかな。それに、さっきも言ったけど、外部の人がここにいるのが、嬉しくなっちゃって。」
監視の目的もあるのか。
納得。
それなら、お言葉に甘えてもいいのだろうか?
チラリとネロの方を伺ってみる。
「…いいんじゃないか?」
ネロからお許しが出た。
若干、私を馬鹿にしてそうな顔に見えなくもないんだけど。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「いいよ。でも、その前に、自己紹介しようかな。不審がられちゃったし。二人としても、よく分からない人に案内されるのは、怖いでしょ。」
確かに。
それに、私たちも名乗ってないし。
向こうも、それじゃあ、怖いだろうな。
「私は、メル。今は、この自然エリアの方で手伝いをしているの。気軽にメルって呼んで。」
「私は、コスモス観光部から来ました、有間千紘です。」
「俺はネロだ。」
私は、自己紹介を終えて、手を差し出すと、メルは目を大きく見開いてこちらを見てる。
ん?
なんだ?
そして、私の手を両手で勢いよく握った。
「ちょっと待って!観光部の人なの?ホントに?しっかりとした身分があるなら、先に言ってよ。必要以上に警戒しちゃったじゃない。」
信じてもらうために、メルに観光者ライセンスを見せる。
観光部の観光者ライセンスは、普通のライセンスと、少し見た目が異なるのだけど、そういうのがここで役に立つんだなぁ。
観光部の就職試験でライセンスを取得するのは、すごく大変だったし、こういう恩恵を受けられるなら、取得できて良かったと思う。
ミシュティが、ライセンスの通用する場所で良かったとも言えるけど。
そういえば、ベニエさんのときも思ったんだけど、異世界におけるコスモス観光部って、思ったよりもしっかりとした立場なのだろうか。
観光部の名前も知られているみたいだし、身分証明するにもいいらしい。
「お前な、今回はいいが、簡単にライセンスを見せるな。何があるか分からないんだからな。」
ネロが私の耳元に口を寄せて、こっそりと伝えてくる。
ごもっとも。
見せちゃうのが早いって思ったけど、次はもっと気を付けよう。
こうなると、もっと手軽に身分を相手に知ってもらえるアイテムが欲しいな。
名刺とか。
いままで、みんなどうしていたんだろ。
「ごめんね、疑っちゃって。」
「いやいや、明らかに不審だったし、疑われない方が、この世界の防犯対策、大丈夫かなって、不安になっちゃうところだった。」
私の言葉に、メルは何かに気が付くと、にっこり笑った。
「ネロは気付いていたみたいだから、言っちゃうけど、外壁の穴を通るときに、魔力の結界が一応張ってあってね。何かが入ってきて、その結界に触れると、分かるようになっているの。だから、私もすぐにあの場所に行けたんだよね。そのおかげで、私、ネロにずっと警戒されっぱなしだったんだけど。」
そんな仕組みがあったの?
知らなかった。
だから、ネロは、ずっと黙ってたわけね。
「我関せずネロさん」だと思ってたけど、考えてくれてるし。
わたしにも気を付けろと、ちゃんと伝えてくれるし。
そういう所、わかりにくいけど、優しいんだよなぁ。
私は、毎度ながら、さりげないネロの優しさが嬉しくなり、ネロを捕まえて、ギュッと抱き着いた。
「やめろ」
「いやです」
こういう所も、相変わらずツンツンしてて、可愛いんだけどね。
少し身分という信用をメルから得ることができて、一安心。
これで、メルに、もう一つのミシュティと言っても過言ではないこの場所を、案内してもらえるんだ。
ネロを抱き込みつつ、私はワクワクが止まらなかった。
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