39話 好物もほどほどが、一番かもしれない
お菓子の国で迎えた朝。
私とネロは、昨晩借りた部屋の窓から外を眺めていた。
「ねぇ、ネロさん」
「なんだ」
「ここからは、よくアミューズメントエリアが見えるね」
「…そうだな」
「えっと、行きたい?」
…朝、窓の外から見えたのは、アミューズメントエリアに向けて、長く伸びる行列だった。
初めは行く気満々だったのだが、あの列を見て冷静になろうということになった。
ここから見る限りだと、観覧車やジェットコースターが見える。
楽しそうではあるんだけど。
「行かなくていいんじゃないか?」
…ネロも仕事を放棄した
そして、私とネロは、あのレベルでは混雑しないであろう、エリア6の森エリアに行くことにしたのである。
行先を決め、部屋から出て、ベニエさんに挨拶をするため、リビングへ向かう。
「おはようございます」
「良く寝られました?」
「はい、ぐっすり」
「それはよかったです」
朝から、ほのぼのするベニエさんの空気に癒される。
朝食にと、用意されたのは、二段のパンケーキ。
ふわふわのパンケーキに幸せを感じながら食べ終え、行く準備を済ませる。
「今日はどちらに?」
「アミューズメントエリアに行こうと思ってたんですけど、人が多そうなので、森エリアに変更しました。」
「確かに、アミューズメントエリアは、朝一に並んでいる人多いですから」
いろんなアトラクションに乗りたければ、それもそうかと思う。
「森エリアも面白いところなので、ぜひ楽しんできてください」
「はい」
ベニエさんに見送ってもらい、私とネロは森エリアに向かった。
森エリアに入ると、木がとにかくたくさん生えている。
その木は、チョコレートで出来ていて、葉の部分は緑のチョコレート、枝や幹はミルクやダークチョコレートで出来ているらしい。
少し進むと、チョコレートの滝。
こういう所でチョコレートフォンデュやってみたい。
滝の下の岩部分もチョコレートで出来ているみたいだ。
森エリア、これは完全にチョコレートの森だね。
これ、同じような景色が続くから、迷いそうだな。
ネロとはぐれないようにしないと。
旅行マップを見ると、カフェスペースが近くにある。
借りていた宿舎から、森エリアまで結構歩いて、いい時間になっているし、お腹もすいた。
「ネロ何か食べよ」
「いいな」
ネロもお腹がすいていたみたい。
素直に私の話に乗ってきてくれる。
わたしとネロの意見が一致し、二人でカフェスペースに向かった。
「ネロ、私分かった気がする」
「奇遇だな、俺もだ」
机の上には、カフェで注文した、本日のおススメのチョコレートワッフル。
「ネロも気づいたんだ」
「ここまで続けば、さすがに分かる」
観光客のリピーターが来ない理由。
それは、
「胃もたれだな」
「胃もたれだね」
ネロと言葉が被る。
昨日の夜のフレンチトースト
今日の朝のパンケーキ
そして、カフェスペースでのチョコレートワッフル。
定員さんに言い、メニューをもう一度受け取り、見てみたが、見事にすべてお菓子。
観光マップに載っている食事処も、紹介メニューはスイーツ。
もしかして、そういう甘い系のメニューしかない、とか?
私も甘いものは好きだけど、ここまで続くと胃にやさしくない。
飲み物で口直しできればいいけど、飲み物もココアとか、甘いジュースだし。
私が思うに、食というのは、意外と大事なのである。
見た目、匂い、味、食感、食材から出る音。
食というのは、人が感じる五感というものをフルに使われているわけで。
そういった一つ一つが、記憶に残りやすい原因を作っている。
地球にいたころ、私の友人が海外に留学したことがあったのだが、食が合わず、ほんとに苦労したと言っていた。
日帰り旅行なら関係ないかもしれないが、ミシュティは滞在客が多いはず。
昨日、部屋を借りることが出来なかったのも、きっと滞在する人が多かったからだろう。
私たちは、1日目、たくさん観光をするために、ご飯という存在をすっかり忘れてしまっていたが、もし、1日3食しっかり食べて、一泊二日滞在する予定なのであれば、この甘いスイーツが6食分になるのだろう。
しかも、この世界は常に甘いにおいが漂っている。
それも相まって、胃もたれを加速させているような気がする。
観光地で楽しい思い出を作っても、ご飯が朝昼晩とスイーツだったら、胃もたれで具合が悪くなり、いい思い出も消えて行ってしまいそうである。
というか、私は、消える。
これが、この国の特徴であると言われてしまえば、そこまでなのだが。
うっ……
「大丈夫か?」
「平気なんだけど。というか、ネロは平気なの?」
「いや、しっかり胃もたれしているな」
そんな平気な顔をして、ワッフルを食べながら言われても、説得力ないんですけど。
ここにいると、出来立ての甘いにおいがしてきて、きつい。
「ネロ、ちょっと外に出ていてもいい?」
「駄目だな、ちょっと待て」
今いいって言ってくれる流れだと思っていたんだけど。
大人しく、ネロの言うことを聞き、食べ終わるのを待ってから、カフェスペースを出ることになった。
もちろん、私の胃は大ダメージを負った。
甘い物、ほんとに好きなのに、しばらくはいいやと思わせるミシュティの力……
すごすぎませんか?
「ほんとに大丈夫か?」
どこに行っても甘いにおい。
これは、一度胃もたれというデバフを負ってしまうと、滞在困難になるな。
だって、どこも甘いから。
できるだけ、建造物がない場所を探して、森の奥に進んでいく。
すると、ミシュティを囲んでいた外壁にたどり着いた。
結構、奥まで来てしまったみたいだ。
「あれ?」
「なんだ?」
「ここの壁、チョコレートの切り株で隠されてるけど、見て」
切り株の後ろから僅かながら、光が漏れている。
チョコレートの森は、どちらかというと薄暗い。
「この外壁の向こう側」
「何かあるな」
その切り株に触れてみる。
すると、切り株に触れることが出来た。
触れられるということは、すでに魔力本体から切り離されているということ。
そして、この切り株は、動かすことができるということだ。
いままで、立ち入り禁止の所には、触れることも、入ることもできなかった。
ということは、ここは、何かの隠しスポットということなんだろうか。
ネロのほうを見てみると、ネロは、面白い物を見つけたと言いたげに笑っている。
そして、多分私も、悪い顔をして笑っているんだろうな。
ネロと二人でその切り株に触れ、それを押してずらす。
すると、そこには、人ひとりが入れるくらいの小さな穴が開いていた。
ネロのほうを見て、お互い頷き合い、私とネロはその穴を通って光の向こう側へと入っていった。
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