24.5話 番外(ネロSide)なぜだか景色が変わった
今回は、千紘ではなく、ネロ視点です。
こいつは、横になるとすぐ寝てしまうやつなのだろうか。
チヒロのことを覗き込むと、ゆっくりと呼吸をしながら眠っている。
さんざん言いたいことを言って、寝るチヒロを見て、ため息をつく。
チヒロに対する俺の第一印象は、馬鹿なやつだった。
自分の不注意でコスモスの事情に巻き込まれた、バカなやつ。
帰れなくなって、どうするのかと思いきや、案外図太いやつだった。
研修で島に連れてこられて、それはより強く感じた。
観光部が常に人員不足なのは、この研修を突破できずに、観光者ライセンスを取得できないからである。
いきなり連れてこられて、戸惑うかと思いきや、貰った支給品を漁りだし、行動を決めた。
俺の助けを必要とせず、魔力も使わず、次々と必要な物を作り出す。
火を起こそうとしていた時、チヒロのあまりの必死さに俺は、思わず声をかけてしまった。
チヒロは、少し考え俺の言葉をいらないと拒否をした。
俺の思わず出た言葉を、チヒロは見透かしたように、自分の強い意志を伝えてきて、俺を諭した。
チヒロの決意が俺には、少し眩しかった。
「俺の人生、やりたいことをやる…」
必死な姿と、必死な言葉が今も頭から消えない。
チヒロの、やろうと思えばできる、その言葉通りあいつは、火をつけた。
俺はその火から目を離せなかった。
食べるものを採りに行ったとき、マウントクラブに出会い、渋そうな顔をしていたが、捕獲を決めると、じっとマウントクラブを見つめて観察する。
切り替えが早くて、意外と頭のキレるやつ。
その後、詰めが甘くて、食べられそうになっていたが。
採ってきた、マウントクラブは全く味がしなかったが、なぜだか温かく感じた。
味はしなかったが。
1日の作業を終え、寝るのかと思いきや、チヒロは、また作業を始めた。
作業をし出すと、集中しているのか、他のことには、まったく見向きをしなくなる。
俺は、声をかけずに外へ出た。
外に出ると、すでに真っ暗で、その暗さが、すべてを飲み込もうとしているように感じる。
冷たく暗い夜。
そんなことを考えながら、空を眺めていると隣にチヒロが座ってきた。
作業がうまくできたのか、顔がすっきりしていて嬉しそう見える
チヒロも空を見上げた。
そして、こいつはまた、こう言うんだ。
夜みたい、と。
一番初めに言われたのは、オフィスだった。
瞳の色を見て、夜の色だといった。
夜の色。
俺の目は、そんなに冷たく暗い色なのだろうか。
そう思ったが、チヒロの顔からは悪い印象が見えなかった。
むしろ、輝いた眼で俺の目を見てきた。
今回は、何を見て夜だと思ったのだろう。
そして、チヒロは俺を、夜みたいに優しいと言った。
チヒロの中では、夜は優しいイメージなのか
こいつの頭の中は、どうなってるんだよ。
そのときの様子を思い出して、笑ってしまう。
そして、チヒロは寝落ちる前に、故郷の話をしていた。
花火か。
チヒロの故郷には、こういう抜けたやつがたくさんいるのだろうか。
バカだが、意外とキレるやつ
でも、最後に抜けてるやつ。
チヒロを見てると、飽きない
こいつを見ていると、昔のことを思い出す。
チヒロは、俺の家族にも等しい友人によく似ているからだと思う。
あいつは、無事だろうか。
他のやつらも。
いまだにチヒロは砂浜の上でぐっすり寝ている。
こいつ今日ここに寝る気か?
せっかく拠点を作っといて、寝ないとかあんまりだろ。
再びため息をつき、俺は虎から姿を変え、人の姿になる。
俺の本来の姿。
久しぶりに戻った気がする。
やはりこの姿のほうが、魔力を消費しない分、楽だな。
虎の姿は、魔力を使い続けているから。
いずれ、この姿を見せる時が来るだろうか?
俺の中での問題が片付かないと難しいだろうが…
そうしたらチヒロは、この姿を見てどう思うだろうか
………。
今までのチヒロの行動を思い出し、顔が引きつる。
…考えないようにした方がいいだろうな。
そろそろ戻るか。
このままだと冷えるだろうし、こいつを拠点に連れて行かなければならい。
まったく、のんきに寝やがって。
俺は、チヒロを脇に抱え、拠点に戻る。
冷たく暗い夜の景色が、なぜだか全く別の景色に見えた。
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