23話 VS(バーサス)カニもどき
敵を知るためには、まずよく観察をしなければならない。
ずっと、カニもどきを見続けたため、感覚がマヒしてきて、なんか慣れてきた。
体に対して、左のハサミは重すぎるのか、本来のハサミの使い方をしておらず、上から下に向かって叩きつける鈍器のような使い方をしている。
なんで、あのような進化をしてしまったのだろうか。
左のハサミ使いにくそう。
それに対して、右側の鎌はとても器用で面白い使い方をしている。
きれいにカニもどきの甲羅を捌いている。
落ちていた殻には、ほとんど身が残っていないし。
めちゃくちゃお行儀のいい食べ方。
それに、なんか移動もしにくそうである。
手のひらサイズの本体に、足16本はやっぱ多いと思う。
あーあ、足絡んでるし。
うーん
カニもどきがカニもどきを食べるのは分かったし、どういうやり方で、狩りを行ってるのかもわかったんだけど、あの集団からどうやって捕まえてくるのがいいのか。
手元にあるものは先ほど採った貝。
チョココロネみたいな殻が巻いてあって、とんがり帽子みたいな貝。
元世界では、見たことない貝だけど、しっかり中身が詰まっているみたいなので、たくさん採った。
とんがり帽子貝、長いので私は、帽子貝と呼んでいるが、これらを採っているときに、あのカニもどきと遭遇してしまったのである。
食べるかな…
気になった私は、実験で帽子貝をカニもどきの集合体のちょっと手前に投げてみた。
すると、見る見るうちに貝は、カニもどきの群れに飲まれていった。
食べるのかい!
これはもう、作戦決定ですわ。
名付けて
「撒き餌で意識をつり、穴に落とします」戦法。
そのまんま?そんなんじゃないし。
作戦が決まったからには、即行動。
早くしないと日が暮れちゃう。
まずカニもどきの集合体から、一直線上に離れた所に穴を掘る。
そして、支給品の中に入っていた丈夫なヒモを結びながら、ハンモックみたいな網を作る。
これを落とし穴の上に乗せ、上に砂を戻したときに落ちないように、布をかぶせる。
布が見えないように、砂をかぶせて、罠1は完成。
そして、ひもの端っこに、帽子貝をいくつか括り付けて、罠2は完成である。
あとは、カニもどきの集団のほうに、この罠2を投げ、気を惹き、捕まらないように、罠1まで誘導できればいいわけだ。
……
チラリとネロを見る
「なんだよ」
「囮やらない?」
笑顔で問いかけると、嫌な顔をされる。
わかっていましたとも。
私の研修だし、私がやりましょう。
決意を固め、再びあの岩場の陰の方へ行く。
相変わらず、お互いをモグモグしているカニもどき、今度は私がモグモグしてやるんだからな。
心の中で宣戦布告をして、さっきと同じように、カニもどきの集団の手前の方に、罠2を投げる。
若干、私の心が怯えているのか、罠2は大分前に落ちた。
んー…もう一度
気を取り直して、もう一度投げると、今度は実験で投げた時より、ちょっと手前のいい位置。
実験時は、カニもどきに飲み込まれていったけど、今度はこれで、一匹だけついて来てくれたら儲けもの。
ヒモをゆすって気を惹くと、カニモドキの一匹が食いついてきた。
きた!
私は、カニもどきに追いつかれないように、でも、離れすぎないように走り出した。
ここで気を付けることは、私が罠1に落ちないようにすること。
罠はもう目の前。
これは、私の勝ちでしょ。
勝利を確信したその時、カニもどきが舞い上がり、私の頭上を通過した。
えぇ?カニもどき空浮くの!?
どんな仕組みですか
あれじゃあ、落とし穴の手前に落下してしまう。
落とし穴が…
しかも、これは、先回りされて私が食われるやつでは?
その時、落とし穴の方に向けて、放物線を描くように、何かが飛んでいる。
カニもどきは、その動くものに反応し食いついた。
着地した場所は…落とし穴の上
カニもどきは、そのまま穴に吸い込まれて落ちていった。
何が起こったんだ?
穴の中を覗いてみると、カニもどきの他に帽子貝が落ちている。
はっとして、ネロの方を見ると、ネロはなんでもなさそうな顔をしながら私を見ていた。
カニもどきが私に反応して上に飛んだ時、帽子貝を投げて、穴の上に誘導してくれたんだ。
…助けられちゃったなぁ
何だか複雑である。
でも…
「ありがと、ネロ」
「なんのことだよ」
しっかりお礼は言わせて貰おう。
そして、カニもどきの方はというと、網を引き揚げて無事ゲット
今晩の食料の調達に成功したのである。
拠点に帰ってみると、ろ過した水がしっかり鍋にたまっていた。
よし、カニもどきを茹でよう。
カニもどきをろ過した水で洗う。
どうせ煮るし、この工程は大丈夫でしょ。
たまっていた水を、煮沸して、鍋の中にカニもどきを入れる。
カニもどきの色が変わってきた。
カニ…って色が変わればいいんだっけ?
カニもどきを茹で上がったことにして、鍋のふたにカニもどきを移す
カニもどきの足の一本をもいで、殻を向くと中は、カニっぽい気がする。
匂いをかいで、恐る恐る食べてみた。
1日食べてないし、おいしい気がするけど
こうなると、塩が欲しい。
明日はもっと、いろいろできることが増えるから、塩づくりも視野に入れようかな。
もう一本もいで、ネロに渡す。
ネロはじっとカニもどきの足を見つめている
「毒見したから、一応大丈夫だと思うけど」
「そういうことじゃない」
私の言葉に嫌そうな顔をして、カニもどきの足を私の手からひったくる。
無言でモグモグしてる姿は可愛い。
見た目は、カニの足を食べてる猫であるが。
「おいしい?」
「味がしない」
「ほんとにね。塩とかほしいよね。」
何の味付けもしていない、茹でただけのカニもどきだったけど、お腹も心も満たされた気がした。
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