18話 試験を受けなくても、割と人生どうにかなってきたのに
身分証を獲得し、コスモスにいることが認められた私と、フェリシアさんとネロは、企画宣伝課に戻ってきた。
もちろん、転送装置を使って。
いや、ほんと楽。
この楽さに、全然慣れないんだけど
元の世界にいたときなんて、徒歩で行けるところは行き、電車やバスという文明の利器によって移動していた。
1時間移動とか普通でむしろ短いくらいに思っていたのだが、それが5分と待つことなく、目的地に着く。
文明の利器は素晴らしいが、私の中で起きた異世界革命により、文明の利器はどこかに追いやられた。
転送装置に慣れ切った私が、いざ、元の世界に帰り、一時間移動しろと言われたら絶対に耐えられない気がする。
一度楽を覚えると、それ以上のことは絶対できなくなる。
絶対そう!
企画宣伝課のオフィスの中に入ると、イケおじに首と足に絡んで遊んでもらっているであろう、アンジュ君とアンヘル君が見えた。
「チヒロ、お帰り」
「どうだった?」
二人は、私のことを見つけると、イケおじ課長に絡むのをやめ、トタトタと私の方へ走ってきてムギュっと抱き着いてくる。
首をコテンとかしげる様子とか、かわいい物好きには、たまらんのではないですか。
そして、毎度のことながら、ちょっと痛いという。
「無事、パーソナルカードを受け取ることができました!」
二人に向かって、カードを見せるとキラキラした目で、おめでと。と言って、微笑んでくれた。
はい、かわいいです
「よかったね」
奥の方から課長さんが首や肩をコキコキ鳴らしながら、声をかけてくれた。
あぁ、痛かったんだな、多分。
「挨拶遅れてしまってすまないね。僕は、アルバート・ファウストといいます。一応、企画宣伝課の課長をやっているよ」
「しっかり、課長をしてください」
課長をするって新しい。
フェリシアさん、キレッキレですね!
「はじめまして、有間千紘です。今回はほんとにありがとうございました。アルバートさんがいろいろ調べてくれたおかげです」
「あぁ!そのことは、大丈夫!そろそろ人員不足に耐えられなくなったから、それに比べたら、あれくらい調べるのは造作でもないさ」
人員不足に悩んでいるのは、前々から伝わっていたけど、素直にお礼言いにくいんだが。
あーあ、フェリシアさんたちも深く頷いちゃってるし。
「そこで、企画宣伝課に正式に入ってもらうには、もう一つやってもらうことがあるんだよね」
異世界就職は、先が長いらしい
「それが!観光部、必須のアイテムである観光者ライセンスの取得」
「そういえば何度か、話に出てきてましたよね、契約の時にも言われましたし」
確か、観光者ライセンスの中に、ステータスみたいなものがあって、それによって特典が付いたり、行ける場所が増えたりするって言ってたような
「そう、それを取得してもらうために、研修を受けてもらい、試験に合格してもらう必要があります」
試験?
ここに来て、その言葉を聞くとは…
確かに、日本でも就職活動があり、面接とか筆記試験とかあるのは知っているけど、異世界の就職でも、そういうのは、ちゃんとあるんだな。
確か、大学2年生から就活セミナーみたいなものがあったけど、まじめに聞いた気になっていたが、今思うと全然頭に残ってない。
そして、就職活動が本格化する前にコスモスに来た私は、その活動に深くかかわっていない。
しかもだが、私は試験というものにもあまり縁がない。
学校内のテストとかは、ちゃんとまじめに受けるのだが、節目節目の大きい試験は、全部スルーしてきた口なのだ。
例えば、大学入試。
高校で、内申点が完凸していた私は、試験を受けず、推薦を獲得。
大学入試という勉強をせずに、大学入学をいち早く決めていた。
高校入試も、しかり。
よって、必要に迫られるはずの試験を、全く受ける必要がなかった私は、今に至るのである。
まぁ、私の2年生までの大学生活は、人生の休息時間として、浮かれに浮かれ、キャッキャウフフして無残に砕け散ったわけですけど。
とにかく、試験を避けに避けてきたため、その言葉を聞くと、なんか痒くなる。
試験アレルギーかな…
でも、私には後がないわけで、これに通らないと違約金で人生詰むわけだからやるしかない。
「何するんですか?」
「チヒロに合った試験にしたいんだよね、そうだなぁ」
もしかして、今決めてます?
そんな行き当たりばったりな試験をしなくちゃいけないの?
嫌すぎる…。
「試験内容は、研修先の感想を書いてもらうとかどう?」
かんそうって感想?
感想を書くだけでいいの?
「あー、いいんじゃないですか。今後、頼みたい仕事内容ともあってますし」
フェリシアさんも納得ということは、ほんとにそれだけでいいんだ
「じゃあ、現場試験官はネロに任せようかな」
「なんでこいつのおもりを、毎回俺にやらせるんだ」
「別にいいだろ?現在、魔力がないチヒロちゃんのフォローができるのもネロだろ」
「フォローなんてしていいのか?不正だろ」
「今回はイレギュラー尽くしだから、すべて僕に一任されてるんだよ。そういう細かいところは。ネロの判断で、本当に必要と思ったら、フォロー入れてあげて。そういう所、信頼してるんだから」
アルバートさんの言葉に、ネロはそっぽを向く。
でも、気になっているのはそこじゃない。
会話の中で、フォロー、フォローと何回も出てきたけど、何させられるの?
「じゃあ、明日の朝、研修先に案内しようかな」
「チヒロちゃん、頑張ってくださいね」
「研修楽しんできてね、チヒロ」
「今日は早く寝るんだよ」
みんなの優しい微笑みがとても、怖いのですが。
ほんとに何させられるのだろう。
異世界に来て、有間千紘、就職試験を受けることになりました。
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