009
「佐伯です。よろしくお願いします」
ぼくは新しい学校、新しい教室、新しいクラスメイトの前でいった。こうゆう風に自己紹介をするのも慣れてきたものだ。ぼくは新しい生活のスタートなのにも関わらずまったく不安だとか期待だとかといった気持ちはまったくなかった。
ぼくは幼い頃より家庭の事情で転校を繰り返していた。新しい学校に移ってはそこで新たな人間関係を構築し、そして別れるということを繰り返していくことにうんざりしていた。どうせいなくなることになるのだから友達なんか作ってもしょうがないと思ってぼくは新しく友達を作るのをやめた。ここでもぼくは友達なんか作らず静かに生活し、誰にも悲しまれずに静かに去っていくことになるだろう。担任の先生に指示された席につくと隣の女の子が挨拶してきたが、ぼくは素っ気なく返事をしただけだった。
朝のホームルームが終わるとクラスメイトたちがぼくの周りに集まり、どこから来たのだとか趣味は何だとかいろいろ質問してきたがぼくはどの質問にもちゃんと答えず、君たちと仲良くする気はないよという態度を取り続けた。昼になるとこの態度が伝わったのかぼくに話しかけてくるクラスメイトはいなくなり、皆ぼくが来る前のいつもどおりの日常に戻っていた。隣の席の女の子だけはぼくの態度に気づかないのかまだ話しかけてきていたが。
ぼくは購買でパンを買い1人で静かに昼食をとれる場所はないかと校内を歩き回る。クラスメイトが賑やかに友達同士で仲良く昼食を楽しんでいる教室で食べることだけは避けたかった。すると屋上へと続く階段を見つける。屋上に出入りする生徒の姿はなく、周りが賑やかなのに対しこの階段付近だけはまるでここだけ別世界のように静かだった。
ぼくはその階段をのぼり、扉を開け屋上へと出る。やはり屋上には誰もいない。ぼくは学校の屋上というものは普通生徒で賑わうものなのではないかという疑問を抱きながらもこのように景色のいい場所で1人でいられるのは好都合だと思い、柵に手をかけパンを食べ始める。
「君も1人なの?」
ふいに声がかけられた。ぼくはびっくりして声の方を見るとそこには1人の女の子がいた。リボンの色を見るかぎり1年生だろうか。この学校では入学時に学年色を与えられその色を3年間、学校指定のジャージだとか制服のリボンだとかに身につけ生活をするらしい。彼女のリボンの赤色はたしか今年度入学した1年生の色だったはずだ。
「まぁね」とぼくは答える。
「じゃあ、お話しようよ」彼女はぼくの目を覗き込むようにいった。




