007
今日は朝から雨が降っていた。こんな日は屋上には行けないから仕方なく教室で昼食をとることになる。もっとも彼女は雨が降っていようが傘をさして屋上にいるのもありえるが。いや、傘すらさしていないかもしれない。
ぼくは購買からパンと紙パックのジュースを買ってきて教室の自分の机で1人で食べる。周りはみな机を寄せ合っていくつかのグループを作り、賑やかにおしゃべりしながら昼食をとる。雨の日のいつもの風景だった。
ぼくは昼食をとり終わるといつものように静かに本を読み始める。特別本が好きなわけではないが、このように休み時間は友だちと仲良く話すことが義務のように感じられる学校の教室において人と話さなくてよい口実になるので都合がよかった。本を読み込むにつれ周りのクラスメイト達の賑やかな話し声などがだんだんと小さくなり次第には完全に物語のなかにのめりこむ。ぼくはこの感覚が好きだった。
「.....くん?佐伯くーん?」
「えっ?あ、ごめんなに?」
ぼくは読書に集中していて自分の名前が呼ばれてることにすぐに気がつかなかった。
「佐伯くんていつも本読んでるよね?読書好きなの?」と渡辺さんはぼくの隣の自分の席からぼくに質問する。
彼女はこのクラスで唯一今でもぼくに話しかけてくれる子だ。最初のうちはみなぼくに話しかけてくれていたのだが、ぼくがみなと親しくなるつもりがないことがわかるとぼくから離れていった。だが渡辺さんはぼくの隣の席ということもあるだろうが時々ぼくに話しかけてくる。ぼくに比べ渡辺さんはクラスの人みなと親しく、とても明るい子だった。
「うん、まぁね」とぼくは少し嘘をついた。説明するのが面倒だっから。
「へーそうなんだ。私も結構好きだよ。お父さんが本好きでね、その影響でけっこう小さい頃からいろいろと読んでたの」
「そうなんだ」
ぼくは素っ気なく答える。
「でも佐伯くんって昼休み雨の日以外は教室にいないよね?いつもどこで食べてるの?」
渡辺さんはぼくの素っ気ない態度を気にせず会話を続ける。渡辺さんははいつもこの調子でぼくが会話を終わらせようという雰囲気を出してもぼくに話しかけるのをやめない。ぼくなんかより他の友だちと喋っていた方がよっぽど楽しいだろうに。
「晴れてる日は屋上で食べてるんだ」
「えっ.....?」
ぼくがそう答えると渡辺さんは怪訝そうな顔をした。どうしたのだろうか。もしかして屋上に行くことは禁止されてるのだろうか。
「佐伯くんよく屋上なんか行けるね。私あれ以来怖くて一度も行ってないよ」
「あれって?」とぼくは聞き返す。
「え?あぁそっか。佐伯くん先月転校してきたばかりだから知らないんだ」




