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7 因果応報

 

 ――何故死なない!?

 


 戦いの中、ヘラクレスは困惑していた。


 このギガントマキアは、斬りつけた相手にありとあらゆる状態異常を刻みつける特性を持っている。

 

 ヒュドラに匹敵する猛毒をはじめ、五感の消失や石化、凍結に幻覚、魅了、果ては即死まで、様々な状態の変化を一斉に浴びせることが出来る斧なのだ。



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」



「どうした? 速度が落ちてきたぞ、ヘラクレス」



 なのに、何故この男はそれを平然と素手で弾き続けている。


 何故状態異常が効かない。


 しかも。



「かあっ!」



 ――ぶんっ!



「ほら、腹ががら空きだ」



 ――どごっ!



「がはっ!?」



 この練度の高い体術はなんだ。


 たかが人間風情が、何故神であるヘラクレスをここまで追い詰めることが出来る。


 分からない。


 分からない。


 分からない。



「何をしている、ヘラクレス!? おぬしの力はそんなものではなかろう!?」



 さすがのヘパイストスも焦りを感じたのだろう。


 耳障りな檄を飛ばしてくる。


 だが確かに彼の言うとおり、ヘラクレスの力はこんなものではない。


 神ではない人間如きにこれを使うのは癪だが、いい加減遊びは終わりだ。



「燃え尽きろ、人間ッ! ――《プロメテウスブレス》ッ!」



 ヘラクレスの口から集束された炎が吐き出される。


 全てを溶解させる神の炎――ヘラクレス最大の奥義だ。


 が。



「うおらあっ!」



 ――ばしゅうっ!



「――っ!?」



 やつはそれを右手で受け止めただけでなく、



「《サン・オブ・ジ・エンペラー》ッ!」



 同じ火属性の攻撃で押し返し始めたではないか。



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」



 足を踏ん張り、全力を以て炎を吐き続ける。


 こんな馬鹿なことがあって堪るか。


 人間の力が、ヘラクレスたち神を上回ることなどあるはずがない。


 いつもそうだったはずだ。


 様々な世界の強者たちを、ヘラクレスは圧倒的な力でねじ伏せてきた。


 勇者を、魔王を、神を自称する者たちですら、戦神たるヘラクレスには到底及ばず、その全てを這い蹲らせてきたはずだった。


 なのに!


 なのに!


 なのに!



「何故貴様はああああああああああああああああああああああああああっっ!?」



 その理由も分からず、ヘラクレスの身体は炎の渦に呑み込まれ、そして消え去っていったのだった。



      ◇



「見た目の割りに大したことのないやつだったな」



 すでに再生を始めていたヘラクレスの肉塊を手に、俺はその権能を剥奪する。



 ――ぶちゅっ。



 と同時に肉塊を握り潰し、やつの生命活動を永久に停止させた。



「ば、馬鹿な……」



 まさか最高傑作と自負する武器を与えられたヘラクレスが倒されるとは思ってもいなかったのだろう。


 燃え盛る人間プラントに囲まれながら、ヘパイストスが愕然と後退る。



「――がっ!?」



 そんなヘパイストスの顔を容赦なく鷲掴みにした俺は、ヘラクレス同様、やつからも権能を奪う。



「――《アブゾーブ・グランドギフト》」



「ぎゃああああああああああああああああっ!?」



 そして無力となったヘパイストスを、俺はゴミのように放り投げた。



「――ぐふっ!? な、何故じゃ……。何故儂の最高傑作がこんな男に……」



 だがやつは自身の力を失ったことよりも、ギガントマキアが通じなかったことの方がショックだったようだ。



「あの武器が状態異常を付加するものだということは一目で分かった。だからわざわざ素手で相手をしてやったわけだが、なんの価値もないクソみたいな武器だったよ」



「なんじゃと!? 貴様、儂の作品を愚弄する気か!?」



 地を這いながら、ヘパイストスが声を荒らげる。



「ああ、そうだ。本当に、この世に存在する必要のなかった最低の武器だ」



「き、貴様……っ」



「だからお前はその責任をとらなければならない。確かお前は――〝子ども〟が好きだったな?」



「何……っ!?」



「――《バニッシュメント・イーター》」



 術名を口にした後、俺は踵を返してその場を去っていく。


 すると、次々に地面が隆起し、中からやつの犠牲となった子どもたちが這い出してきた。


 もちろん全員が死人――つまりはゾンビである。


 たとえ原形が残っておらずとも、この術は死人を元の形に近い状態で召喚出来るのだ。



「な、なんじゃ貴様らは!? よ、寄るな!? 儂に近づくで……あぎゃああああああああああああああああああああああっっ!?」



 そしてこの術最大の特徴――それは対象者を〝食い殺す〟ことである。


 それもゆっくりと。


 時間をかけていたぶるように。



「クックックッ、これはまた随分と惨い処刑方法を選んだな」



 今までどこにいたのか。


 ふと俺の右肩に白蛇が現れる。



「なんだ? 不服なのか?」



「いや、やつにはお似合いの最期だろうよ。ただお前がああいう使い方をするのは珍しかったのでな」



「……別に深い意味はない。ただあの斧に浮かんだ顔が頭に残っていただけだ」



「そうか」



 一言そう呟いた白蛇に、俺は「ところで」と話題を転換させる。



「この世界はすでに死に体にあると言っていたが、世界というのは生まれ変わるものなのか?」



「ああ。数多の生命と同じように、死してもいつかは別の世界として再生する。だからお前が考えているとおりのことをすればいいさ」



「……分かった」


 頷き、俺は次の獲物を求めて歩みを進める。


 それからしばらくの後、一つの世界がオリュンポスの管轄内から消え去ったのは、言うまでもないだろう。


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