第25話
「先に行け。」
力強いげんしの声が通路に響いた。僕とてつしは二人揃って、はい、と飛び上がって返事をした。それからエレベーターの方に逃げるようにして走った。
エレベーターの前に着くと、二人して後ろのげんしの方を振り向いた。目にも留まらぬ速さで戦っている。鉄と鉄が激しくぶつかり合う音は、離れた所からでも聞こえてくる。二人顔を合わせ、ほっと一息。そのまま次のフロアへ移動した。
次のエレベーターに向かう道のりは静かだった。危なかったな、とたまらずてつしが笑いながら言う。この男を見ていると、僕のリーダー像がどんどん崩れていく。
リーダーとは皆んなの先頭に立ち、仲間を守り、一番強い存在でなければいけない。と、僕はイメージしていたが、彼は違う。緊張感は無いし、仲間を守るどころか、その場から逃げる。
そう思っているのが顔に出ていたのかてつしは僕に、何か不満か、と尋ねて来た。あの締まりのない顔で。
「リーダーってもっと格好いいものかと思ってた。」
と、頭で思った理想のリーダー像をむすっとしたまま彼にぼやいた。声を出しててつしは笑った。そして、遠くを見つめ少し真面目な顔になった。
「俺の仲間は強い。俺はあいつらの事を信じてる。リーダーって先頭に立って皆んなを引っ張らないと行けないのかな?」
僕はその問いかけに応える事なくてつしを見続けた。味の薄い料理に足す塩。スパイシーで辛い料理をマイルドにする牛乳。リーダーはチームの味を決める、ではなく調える存在でもいいんじゃないか、と彼は言う。
「味を決めてしまうとな、仲間は伸びない。上手く調和させる事によって、仲間皆んな良くなると思うんだよ。その調味料になるのがリーダーじゃない?」
僕はなるほど、と思った。それと同時にこの男を見直した。こんな事も考えているんだと。
「あ、これはあいつらには内緒ね。」
僕は、うん、と頷きエレベーターの方を向いて歩いた。
最上階行きのエレベーターの前に着くと僕は先に乗り込み、てつしが作動させるのを待っていた。早く、と僕は急かすように彼に言う。待ってな、と返事が返ってくる。と同時に僕の周りは光り始めた。エレベーターの前にてつしが現れる。早く乗ってよ、と言うが彼は僕に向かって手を振っている。
「後で必ず行くから。あの子、守ってやれよ。」
それを聞き終わると、目の前が真っ白になった。




