15 恐怖!キャラかぶりデスマッチ!!
「このステージ、何なの!? なんで急に動くのよ!」
わたしはかなりの高さまでせり上がったステージの上で、ミヤっちにそう怒鳴った。でも、黒いマントに身を包んでいるミヤっちは「ええと……わたしは詳しく知らないのですが……」としどろもどろ。向こうから勝負を挑んてきたくせに、気弱なミヤっちは緊張しているみたいだ。
「それはステージではない! そなたとミヤっちが雌雄を決するためのリングじゃ!」
ウカちゃんの幼い声が、どこからともなく響き渡った。
「どこにいるのよ、ウカちゃん!! 姿を現しなさーい!!」
わたしがそう叫ぶと、「間抜けな踊りの女神め! 神使のニワトリにいくら屋上を探させても、わたくしは見つからにゃいぞ! ふはははは!」と若干噛みながらもウカちゃんは大笑いする。
「この声は――頭上からだ!!」
わたしは空を見上げた。そこには、神使のキツネたちにまたがったウカちゃんとそして――猿田くんがいた。
「ずっと空でわたしたちを見下ろしていたのね!? とっとと猿田くんを返しなさいよ!!」
「サぁータヒコは、そなたがミヤっちに勝てたら返してやる」
ウカちゃんと猿田くんはキツネの背中からひらりと飛び降り、ステージ……じゃなくてリング(?)の上に着地した。
……猿田くんの様子がおかしい。目が虚ろだし、死人みたいに顔に表情がないような……。
「ウカちゃん! あなた、猿田くんに何かしたわね!?」
「逃げ出されたら困るからの。命婦にサぁータヒコの体を乗っ取らせた」
「な、なんてひどいことをするのよ!!」
「ただ、サぁータヒコの意思が強すぎて、完全には憑依できていないようでなぁ~。ミヤっちとポッキーゲームをさせようとしたら、全力できょぜちゅ……こほん、拒絶しおった」
「ぽ、ぽぽぽぽぽぽポッキーゲームぅ~!? おい、こら、狐耳ロリ女神!! なんて破廉恥なことを猿田くんにやらせようとしているのよー!!」
「うるしゃい、黙れ! チーム稲荷大神の神たちが五人全員そろうためにも、ミヤっちの恋をじょじゅ……じょじょ……成就! させるためにも、そして……わたくしの家族が仲良く暮らすためにも、そなたには消えてもらうじょ!!」
ウカちゃんはそう言うと、ミヤっちを左、猿田くんを右に従えて、
「我ら五柱そろってチーム稲荷大神!!!」
そう叫び、右手をパーにして天に突き上げた。同時にミヤっちと猿田くんも片手を天に掲げる。
ドーーーン!!
三人の背後で小さな爆風が起こり、ウカちゃんは「フッ……決まった」とドヤ顔で呟いた。
「いや、ぜんぜん決まってないし。なにそのダサいポーズ? 第一、五柱そろってないじゃん。今いるの三人だけじゃん。残りの二人の神様はどうしたのよ」
高天原でオモイカネから聞いた話によると、稲荷大神五柱の残りのメンバーには田中大神、四大神という神様がいるらしい。でも、目の前にはウカちゃん、ミヤっち、猿田くんしかいない。
「……た、田中くんは田んぼの神じゃからな。『そろそろ稲刈りの時期だから忙しい』という理由で欠席じゃ」
「じゃあ、四大神とかいう神様は?」
「七年ほど前、『自分探しの旅に出る』と言って出かけたきり、まだ帰って来ぬ……」
神様でも自分探しの旅とかするんだ……。ていうか、人間だったら失踪宣告の申し立てができる時期だよね?
「チーム稲荷大神、みごとにバラバラじゃん」
「や、やかまちいわ! そんな話はどうでもいいのじゃ!」
いや、ウカちゃんが「我ら五柱そろってチーム稲荷大神!!!」とか言ってカッコをつけるから……。
「うずめよ! このリングでミヤっちと『キャラかぶりデスマッチ』をしてもらうぞ!」
「キャラかぶりデスマッチ? 何よそれ」
「このリングは、キャラかぶりしている者同士が、どっちがより優れているか雌雄を決するためのリングなのじゃ。今からミヤっちとうずめには、『どちらが神様界最高のアイドルか』を決める勝負をしてもらう。……審査員は、このデパートの屋上にいる人間たちじゃ!」
ウカちゃんは珍しくスラスラとセリフを言い……と思ったら、手に持ったメモを見ながら話していた。
なるほど……。つまり、アイドルのオーディション対決っていうことね。
踊りの女神であるアメノウズメ――つまり、わたしは仲間の神々や人間たちに愛されて、アイドル的存在だった。そして、ミヤっちも人々に和をもたらす女神としてアイドル的な人気があったらしい。そんなわたしたちが、「どっちが真の人気者のアイドルか」を決めるために戦うわけだ。
この間は「ミヤっちとキャットファイトをしてもらう!」みたいなことを言っていたから、どんな対決をさせられるんだろうと少し不安だったけれど、そういうことならわたしのほうが断然有利だね。だって、わたしは踊りも歌も得意な芸能の女神だもん。それに比べて、ドジっ子のミヤっちはダンスなんてできそうにないし。
「……いいわよ! その勝負、受けてあげるわ! わたしが勝ったら、約束通り猿田くんを返しなさいよ!?」
「よくぞ言った、アメノウズメ!」
そう言うと、ウカちゃんは神使のキツネに飛び乗った。命婦に操られている猿田くんも、もう一匹のキツネの背中にまたがる。
キツネたちが空を駆けてリングから離れると、ウカちゃんは懐からリモコンを取り出して「ゲームスタート!!」と叫びながらリモコンのボタンを押した。すると、突如としてリングを包み込むようにドーム状のガラスの壁が出現して、わたしとミヤっちを閉じこめたのである。
「うわっ、何これ!?」
この壁、一見するとただのガラス製っぽいけれど……何だか禍々《まがまが》しいエネルギーを感じる。普通のガラスの壁じゃない!!
「ルールを説明しよう! 勝負が終わるまで、そのリングからは脱出しゅることはできぬ! そして、対決に負けた者は、勝者に霊力を根こそぎ吸収されて死ぬ! これが『キャラかぶりデスマッチ』じゃ!!」
「ええ!? アイドルの審査対決で負けたら死ぬ~!?」
「そ、そんなの聞いていません、ウカ様!!」
わたしとミヤっちは顔を真っ青にして、ほぼ同時に叫んでいた。
……ミヤっち、仲間なのに聞かされてなかったの? うわっ、かわいそう……。
「心配するな、ミヤっち! デパートの神として祀られているそなたが、デパート内で戦って負けるはずがない! ミヤっちの勝利は揺るがにゅ……けほん、勝利は揺るがぬ! ふはははは!」
えっ? ミヤっちがデパートの女神?
……そういえば、ミヤっちは昔から商売繁盛の神として祀られているってトヨちゃんが言っていたような。日本にデパートができた時に、商売繁盛の女神であるミヤっちがデパートの経営者たちに信仰されるようになったのかしら。
でも、いくら有利だと言われても、「負けたら死亡!」なんてデスゲームは嫌に決まっている。ミヤっちは半泣きになってウカちゃんに抗議をした。
「いったいどこでこんな物騒なアイテムを入手したのですか? 戦って負けたら死んじゃうデスマッチ用のリングなんて、まるで黄泉国(死者の国)の外道極まりない鬼たちが使っているような道具じゃないですかぁ~!」
「うむ。実は、黄泉国の大手通販サイトYomizonで買ったのじゃ」
死者の国にも通販サイトあるんかい!!
「ていうか、黄泉国の鬼たちが利用している通販サイトを神様のウカちゃんが利用できるものなの!?」
「黄泉国と葦原中国(人間世界)の出入りを封じていた結界が弱まっているのはそなたも知っているじゃろう。だから、神であるわたくしも利用できるようになったのじゃ」
「あんたねぇ~……。黄泉国のこんな危険なアイテムを買ったことがばれたら、アマテラス様に叱られるわよ? お尻ペンペンものだよ!?」
「うぐっ……。う、うるしゃいうるしゃい! 伯母上のお尻ペンペンなんて恐くはにゃいぞ! ……さ、さあ、キャラかぶりデスマッチを始めりゅじょ!!」
アマテラス様の名前が出て動揺しているのか、噛みまくるウカちゃん。
くっ……。まさかガチで命をかけることになるなんて……。
「うずめ様! そんな危険な勝負、やったらダメですコケ! 今すぐ、僕がそこから助け出すコケーっ!!」
「うずめぇーーーっ!! そんな薄い壁、このオレ様の怪力でぶっ壊してやる!!」
わたしが思わぬ事態に焦っていると、半蔵が羽をバサバサバサー! と必死に上下させながら飛んできた。ステージの下にいたタヂカラオも、人間離れした(まあ神様なんだけど)ジャンプ力で跳躍し、ガラスの壁を突き破ろうとする。
バリバリバリ、バリーーーっ!!!
「こ、コケーーーっ!?」
「うぎゃぁーーーっ!!」
ガラスの壁にふれた途端、半蔵とタヂカラオは激しい電撃によって真っ黒焦げになってしまった!!
「タヂカラオ! 半蔵! 大丈夫!?」
わたしは、落下して倒れているタヂカラオと半蔵にそう呼びかけた。でも、二人はピクリとも動かず、気を失っているみたいだ。
「ひとつ言い忘れておったが、キャラかぶりデスマッチ中に第三者がリングに入ろうとしたら、神でも気絶してしまうほどの電流が流れる! 気をつけることじゃな! ふはははは!」
「そーいうことは、もっと早くに言わんかい!!」
つまり、トヨちゃんやタヂカラオがそばにいても、手出しできないっていうことね……。
「ウカ様! さすがにこれはやりすぎです! 仲間である神と神が命をかけて決闘をするなんて、アマテラス様がお許しになりませんわ! 今すぐこの戦いをやめさせてください!」
トヨちゃんが強い口調で抗議をしたけれど、ウカちゃんは「いやだプー!」と憎たらしく言ってあっかんべーをした。
「あなた様の大事なお仲間であるミヤっちが死んでしまう可能性もあるのですよ!?」
「今のうずめは半分は人間の小娘! 神の力を上手く引き出せるはずがにゃい! うずめが負けるのは決定的に明らかだもんねーだ!」
そう言って、げらげらと笑う狐耳ロリ女神。く、くっそぉ~! 馬鹿にしやがってぇ~!
完全に調子の乗っているウカちゃんは、審査員の人たちやオーディションの司会のお姉さんの目の前にキツネを着地させた。隠形の術を使っているらしく、人々はウカちゃんや猿田くん、キツネたちが見えていないようだ。みんな、突如としてせり上がったステージを呆然と眺めている。中にはステージの上に立つ瓜二つの少女二人――わたしとミヤっちを指差して「ドッペルゲンガーか!?」と騒いでいる人もいた。
「さあ! オーディションの司会の姉ちゃんよ、とっとと司会を続けるのじゃ! 稲荷神秘儀、おキツネ憑依!!」
ウカちゃんはそう叫び、片手でキツネの影絵を作った。すると、ウカちゃんを乗せていたキツネが司会のお姉さんに飛びかかった。
その直後、お姉さんは一瞬だけよろめいて、次の瞬間には猿田くんと同じように血の気の失せた顔になっていた。どうやら、キツネに憑依されてしまったらしい。
そして、お姉さんは死人みたいな顔のまま、
『みなさーん、落ち着いてくださーい♪ これはアイドル公開オーディションの特別企画『本当の女神様はどっちだクイズ』です♪
ステージ上の二人の内、一人は天界から舞い降りて人間のアイドルたちを見守ってくれているありがた~い女神様! もう一人はアイドルの女神様に化けて悪さをし、日本中のアイドルグループを全部解散させようと企む極悪の邪神! もしも偽者の邪神が本物の女神様をやっつけちゃったら、アイドル業界は大変なことになっちゃいます!
どちらが本物のアイドルの女神様なのか見分けられるのは、今ここにいるみなさんたちだけです! どうかみなさん、日本の全てのアイドルのために本物はどっちか当ててください! もちろん、正解した人たちには後で素敵なプレゼント――本物の女神様との握手券を進呈させていただきますのでがんばってくださいね♡』
と、ハイテンションで一気にまくしたてた。たぶん、キツネに体を乗っ取られて、あんなことを言わされているのだろう。
「何だ、やっぱりただの演出だったのか」
「アイドルの女神様という設定かぁ~。面白そうな企画じゃんか。あの二人、双子の姉妹なのかな?」
「どっちにしろ二人とも可愛いし、オレはこのイベントに参加するぜ」
「美少女と握手できるせっかくの機会だしな!」
……う、うわぁ~。みんな見事にだまされてる……。アイドルオタクたち、ちょろい……。
「君! なに勝手なことを言って……ごふっ!?」
審査員の人たち数名が司会のお姉さんの勝手なふるまいを止めようとしたけれど、キツネにとりつかれているお姉さんは止めに入ったおじさんたちを殴ったり、股間を蹴ったりして、黙らせた。
「う、うわぁ~……。大変なことになっちゃてるよ……」
わたしがリングの上からウカちゃんのやりたい放題を呆然と見下ろしていると、
バサッ!
隣のミヤっちが急に黒いマントを脱ぎ棄てた。マントの下は、ピンクの可愛らしい制服――エレベーターガールのかっこうをしていた。で、デパートの女神様だから、その服装なのか!!
「……もうこうなったら、ヤケです。死にたくありませんので、なりふりかまわず全力でいきます」
「負けたら死ぬ」と聞かされてからずっと震えていたミヤっちだけど、ついに吹っ切れたらしい。もしかして、追いつめられると大胆になるタイプ……?
「うずめさん、ごめんなさい! わたし、あなたに勝ちます! あなたという壁を乗り越えるためにも!」
ミヤっちはわたしに向き直り、そう宣言をした。
「壁って何? ……わたしたち、似た者同士なんだし仲良くやれるんじゃ……」
わたしは戸惑いながらもミヤっちと向かい合い、そこまで言いかけた。
でも、次の瞬間、わたしは、わたしと瓜二つなミヤっちの中に、わたしとぜんぜんそっくりじゃないところを発見してしまい、驚愕した。
「……お、おま……そ、その、おっぱ……」
「……え? どうかしましたか、うずめさん」
首をかしげるミヤっち。それと同時にたわわんと揺れる胸。
「何だよ、その五穀豊穣な胸はっ!!!」
叫んだ瞬間、わたしは頭の血管が千切れそうになった。
<雑談コーナー:うずめ×鈴>
うずめ
「作者、胸の話ばかりしてる……」
鈴
「おっぱい大好き星人ですね」
うずめ
「女性経験ないくせに……」
鈴
「彼女いない歴=実年齢のくせに……」