13 アイドル公開オーディション・前編
運命の日曜日がとうとうやって来た。
「え? 愛野さんやトヨちゃんもオーディションに参加するの? あちゃ~、ライバルがこんなにも増えてわたし受かるかなぁ~。…………ねえ、うずめちゃん。今からでもオーディションの参加取り消さない?」
待ち合わせ場所の駅前の書店に着くと、雪音ちゃんがわたしの後ろにいるトヨちゃんと鈴ちゃんを見て、そう言った。少しでもライバルを減らして、自分が合格する確率を上げようという魂胆なのだろう。えぇ~……自分が「一人だと心細いから一緒に受けて」って言ったくせに……。
「山路さんはヒトの参加不参加を気にするより、自分のその姿を気にしたほうがいいと思うのですが……」
鈴ちゃんが冷静にツッコミを入れると、わたしとトヨちゃんはコクコクと頷いた。
「ほへ? わたし、変?」
「変というか……気合いを入れすぎと言うべきか……」
たしかに、そんなゴテゴテしたフリルいっぱいのゴスロリファッションはやりすぎだよねぇ……。
「で、でも、それを言うのなら愛野さんもおかしくない? アイドルのオーディションを受けるのに、なんで巫女服なの?」
「わたしは巫女ですので。歌って踊って祝詞をあげられる巫女アイドルが、信仰心を失い心が荒んでしまった現代日本人には必要なのです」
「い……意味わかんねぇ……」
雪音ちゃんは困惑してそう呟いたけれど、真顔で語る鈴ちゃんにそれ以上は何も言い返すことができなかった。
ちなみに、わたしとトヨちゃんは特におしゃれはせず、セーラー服。トヨちゃんが「せっかく女学生に変装しているのですし、セーラー服で行きたいです」と言ったためだ。
まあ、わたしの目的はアイドルのオーディションではなくて、デパートで待ち受けているウカちゃんから猿田くんを取り戻すことだし、ぶっちゃけ服装はどうでもいいんだよね。むしろ着慣れているセーラー服のほうがいざという時に動きやすいし。
……それにしても、たくさんの人が集まるデパートで、ウカちゃんはどんな罠を仕掛けて来る気なんだろう? あんな性格でもれっきとした五穀豊穣の神様なんだし、人間を傷つけるようなマネだけはしないと思うけれど……。
☆ ☆ ☆
デパートの屋上は、アイドルのオーディションを見物しようと集まった人たちでごった返していた。
屋上はけっこう広くて、いくつかの遊具、駆け出しの歌手や芸人が立つ屋上ステージなどがある。そして、隅っこには小さな祠が建っている。どうやらあれが稲荷神を祀る祠らしい。小さいながらも祠の周辺はキレイに清掃されていて、大事にお祭りされているようだ。
時刻は午後一時ちょい過ぎ。ウカちゃんが指定していた午後二時までまだ一時間ある。
「アイドルのたまごのみなさん。本日はご当地アイドルの公開オーディションに参加してくださり、ありがとうございます。今日はみなさんの全てを出し切り、審査員や観客のみなさんにアピールしてください」
屋上ステージに立った中年のおじさん(アイドルのプロデューサーとかかな?)がマイクを手に持ってそう言うと、わーっ! という喚声が見物人たちからあがった。
わたしたちオーディションの参加者は、ステージの裏側にいて自分たちの出番が来る時を待っているわけだけれど……。
「なんでここにあんたがいるのよ、タヂカラオ!! ていうか、そのかっこうは何!?」
セーラー服を着たタヂカラオと出くわし、わたしは発狂していた。
てめぇ、何だその犯罪的なかっこうは。
サイズがぜんぜん合っていないから、上着は胸のあたりまでしか着ることができていない。毛むくじゃらのお腹は丸見えだ。そして、スカートの下もすね毛がぼーぼー……!
「ウカ様がいつ襲って来てもいいように、うずめのそばにいようと思ったんだよ。入院したアメノイワトの分までうずめを守らなきゃいけねぇからな。どうだ、似合うか?」
「似合う似合わない以前の問題だってば……。せめて髭ぐらいは剃りなさいよ……」
タヂカラオの見た目があまりにも強烈すぎて、他のオーディション参加者の子たちは怯えた目で髭面のセーラー服女子(?)を見つめている。
「ぜんぜんダメでござる! タヂカラオ様はこれっぽっちも女子になりきれていないでござる。見てくだされ、それがしの美少女っぷりを!」
わたしがタヂカラオの女装にダメ出しをしていると、エントリーNO.2の可愛らしい長髪の女の子が話しかけてきた。あれ、その口調はもしかして……。
「もしかして、藤吉!?」
「え? なんで分かったでござるか!? 完璧な美少女に化けているのに!」
「……いや、ござるござる言っていたら分かるよ。あと、美少女は大股になって太ももをぼりぼりかいたりしないからね? サル丸出しだよ?」
「う、う、う……。それがしの変化の術もまだまだでござるぅ~」
藤吉(見た目は美少女)が悔しがってスカートの裾で涙を拭くと(パンツ丸見えだからやめろ!!)、藤吉(見た目は美少女)の長い髪の中に隠れていた彦太郎がひょっこりと姿を見せ、「もっと人間を観察するのだ。ゲロゲロ……」とアドバイスした。
彦太郎と藤吉は、ウカちゃんに捕まった猿田くんのことが心配で、駆けつけたのだろう。でも、別にアイドルのオーディションに参加する必要はなかったんじゃ……。
「うずめちゃん。そこの変わった人たちとお知り合い……?」
雪音ちゃんが怪訝そうな表情でわたしに聞いてくる。
「えっ、いや……その……」
「うずめの幼馴染の盛々《もりもり》筋肉子でぇ~す♪ よ・ろ・し・く、ね☆ うふっ♡」
「…………」
さすがの雪音ちゃんもタヂカラオの野太い声でのかわいこぶりっ子にはドン引きしたのか、無言のまま硬直してしまっていた。
そういえば、タヂカラオと雪音ちゃんは初対面じゃないけれど、学校での記憶はトヨちゃんが消していたんだっけ……。
☆ ☆ ☆
とんでもない参加者が混じってしまったけれど、アイドルの公開オーディションがとうとう始まった。わたしは雪音ちゃんに付き合って参加しているだけなんだけど……やっぱりちょっと緊張するかも。
「これから順番にアイドルのたまごのみなさんに自己紹介とアピール、そして歌を歌ってもらいます。エントリーNO.1の方、ステージの上にどうぞ~!」
司会のお姉さんがそう言うと、トップバッターの参加者が「はい!」と返事をした。おっさんみたいな野太い声で。
そう、エントリーNO.1は……。
「エントリーNO.1、盛々筋肉子です☆ アピールポイントは、この鍛え上げた肉体です♡」
ステージ上のタヂカラオはそう自己紹介すると、観客たちに「チュッ!」と投げキッスをした。あちこちから「お、おえぇぇぇぇ!!」という嘔吐する声が聞こえてくる。
「あれが……俗にいう男の娘というものなのでしょうか?」
鈴ちゃんが声を震わせながらポツリと言う。たぶん違うと思うよ……?
「あたしはぁ、歌が歌えないのでぇ~、かわりにマッスルポーズをとりたいと思いまぁ~す☆ …………うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
バリバリ、バリー!
タヂカラオがマッスルポーズをとって気合いを入れると、セーラー服の上着があっという間に破れ、スカートだけになってしまった。どこかで子供が「うわーん! おかーさん、こわいよぉー!」と泣いている。
その直後、ちょっと強めの風が吹き、タヂカラオのスカートがはらりとめくれた。
「い、いやーーーん☆ みんな見ないでぇ~♡」
「おええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
オーディションの会場は、阿鼻叫喚……。ショックのあまり卒倒する人が続出してしまうのでした……。
<雑談コーナー:うずめ×藤吉>
うずめ
「ところで、その長髪の美少女の姿は誰がモデルなの?」
藤吉
「うずめ様のお母様・笑美沙織さんの若い頃の写真を見て、変身したでござる!」
うずめ
「えっ!? お母さん、昔はこんなにも美人だったんだぁ~! ……でも、藤吉がなんでわたしのお母さんの若い頃の写真を……」
藤吉
「前、うずめ様のふりをして家で留守番していた時、鈴ちゃんと一緒に古いアルバムを沙織さんに見せてもらったでござる!」
うずめ
「へぇ~、そんなことがあったんだぁ~。わたしも今度見てみよーっと」
藤吉
「鈴ちゃんは、うずめ様の二歳頃の裸の写真を見て、鼻血をたらして喜んでいたでござるよ!」
うずめ
「…………」




