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うずめちゃんの神様days!  作者: 青星明良
第1巻 ウェディングドレスですよ、女神様!
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4 女神様とか言われても……

主人公うずめの正体(?)が明かされる回です。


どうぞご覧ください(ぺこり)

「わたしが説明させていただきましょう。うずめ様は、本来は人間ではなく、太陽神アマテラス様にお仕えしていた天津神あまつかみのお一人のアメノウズメ様という女神で……」


「おい、ちょっと待て」


国津神くにつかみのサルタヒコ様と結婚なされた後は、日本各地で夫婦の神として信仰されるようになり……」


「だから、待ってってば」


「ご夫婦はあつあつの結婚生活を送っていたのですが、ある日、サルタヒコ様が不幸な事故で黄泉国に堕ちてしまい……」


「待ちなさいって言っているでしょーが! なんでカエルがしゃべっているのよ! そっちのほうが気になって、話が頭の中に入ってこないってば!」


 わたしは、テーブルをバン! とたたき、頭の血管がプチンと切れそうなぐらい興奮して言った。すると、さっきからわたしのひざの上にのっているニワトリが、


「まあまあ、落ち着いてくださいコケ、うずめ様」


 と、わたしをなだめた。


「ニワトリまでしゃべったよ! ああ、目まいがしてきた……」


「大丈夫か、うずめ。つかれたのなら、オレのひざを枕にして少し休むか?」


「猿田くん、あんたねぇ……」


「サルタヒコ様、少し自重してください。うずめさんの頭の血管が切れたら大変です」


 鈴ちゃんに注意をされて、猿田くんは「う、うむ……」とうなずく。


「うずめさん。こちらのカエルさんとニワトリさんは、神様のお使いを役目とする神聖なる動物たちで、神使しんしと呼ばれる存在なんですよ」


「鈴殿の言う通りです。わたしは、サルタヒコ様の神使、彦太郎ひこたろうと申します」


 カエルがそう自己紹介をして、ゲロゲロと鳴いた。このカエル、ゲロゲロという鳴き声は普通のカエルと同じだけれど、人間の言葉を話している時はなかなか渋い声である。


「僕は、アメノウズメ様……つまり、あなた様にお仕えしていた神使、神鳥かんどり半蔵はんぞうですコケ。うずめ様、おなつかしゅうございますコケ」


 小学生の男の子が話しているような、幼いけれど元気いっぱいの声でニワトリが言った。


「語尾にいちいちコケをつける話しかた、ちょっと変よ?」


「ひ、ひどいコケ! 『普通のしゃべりかたじゃ面白くないから、語尾にコケをつけてよ』って、神使になりたての僕にそう命令したのは、うずめ様ですよコケ~!」


「へ? それは悪いことをした……わけないでしょ! わたしはアメノウズメ様じゃなくて、ただの人間の女の子の笑美えみうずめだもん。突然、あなたは女神様だとか言われても……」


 わたしがそう言うと、カエルの彦太郎が「無理もありません」と、悲しげな声で言った。


「すべての事の発端は、サルタヒコ様が不幸な事故に遭い、死者の国である黄泉国に堕ちてしまったことでした」


「その不幸な事故って、何? 神様が死者の国に堕ちちゃうって、よっぽどのことでしょ?」


「それは……」


「よせ、言うな」


 猿田くんが、なぜかあわてて彦太郎を止めた。でも、


「サルタヒコ様は、あの日、海で釣りをしていたコケ。なかなか釣れなくてボーっとしていたら、貝に手をはさまれ、ビックリして海に落ちたコケ。それで、溺れちゃったコケ」


 ニワトリの半蔵がそう言い、猿田くんは「う、ううう……」と恥ずかしそうにうなった。耳が真っ赤である。たぶん、お面の下の素顔も完熟トマトみたいになっているだろう。


「そんなことで、黄泉国に堕ちちゃったんだ。だ、ださい……」


「……あの時は不覚であった。し、しかし、幸いにも、オレは、黄泉国から復活する術を会得していたのだ。それが、『よみがえりの術』だ」


 よみがえりの術? つまり、蘇るっていうことか。


 あっ、もしかして、「蘇る」という言葉って、「黄泉から帰る」っていう意味?


 へー、ひとつ勉強になったかも。


「ですが、サルタヒコ様の『よみがえりの術』は、ぼう大な神の力と、ひじょーに長い時間を費やす必要がありました。この世界に戻って来るのに、三千年はかかる予定だったのです」


「さ、三千年!? そんなにかかるの!?」


 彦太郎の説明を聞き、わたしはビックリした。


「神といえども、死者の世界から帰還するのは簡単なことではないのだ。……だが、オレが黄泉国から戻って来るまでの間、妻であるおまえを一人ぼっちにしてしまった……」


 猿田くんは涙ぐみながらそう言うと、


「すまなかった! 今までさびしい思いをさせて、本当に申しわけない!」


 と、わたしに頭を下げた。


 ……そう言われましても、わたしはアメノウズメ様とかじゃなくて、ただの人間なんですけれど……。猿田くんの言っていることが本当だとは、にわかには信じられないよ。目の前でニワトリとカエルがしゃべっている事実すら、まだ受け入れかねているのに。


「うずめさん。サルタヒコ様の話を信じてあげてください。すべては本当のことなんです」


 鈴ちゃんが、わたしの心を読んだかのように、そう言った。


「でも、わたしには人間の両親がいるんだよ。自分が女神様で、愛する夫と離ればなれになってしまった記憶なんて……」


 わたしはそこまで言いかけて、いつも夢に出て来る、自分の「運命の人」のことを思い出した。


 夢では、わたしはその人のことが大好きで、いつも一緒にいたいと願っていて、二人で仲良く暮らしていた。でも、夢の最後で、彼は必ずわたしを置いてどこかに行ってしまうんだ。


 もしかして……猿田くんが……。い、いや、まさか! そんなまさか……。


「うずめ様が、神としての記憶を失い、人間の女の子になったのには、理由がありますコケ」


 また頭痛がして、わたしが頭をおさえると、半蔵が羽をバサバサさせながら言った。


「うずめ様は、二千年近い歳月をずっと、ずーっと待っていたコケ。サルタヒコ様の帰りを一途に待ち続けていたコケ。

 でも、十三、四年前、この神社に、若い夫婦が来て、『なかなか子どもが授かりません。どうか、わたしたち夫婦に元気のいい子どもをお授けくださいと』とお祈りしたコケ。


 夫婦が一生懸命お祈りをしている姿を見ていたうずめ様は、その願いを叶えてやるために、若い妻のお腹の中に入り、自分が夫婦の子どもになったコケ。

そして、その夫婦に育てられているうちに、だんだんと自分が人間だと思いこんでいって、神様であることやサルタヒコ様のことをすっかり忘れてしまったコケ……」


 夫婦って、わたしのお父さんとお母さんのこと?


 そういえば、昔、お母さんから、こういう話を聞いたことがある……。


「うずめ。あなたが生まれたのはね、鈴ちゃんちの神社にまつられている夫婦の神様のおかげなんだよ。わたしたち夫婦にはなかなか子どもができなくてね、あそこの神社で『子どもが授かりますように』ってお祈りしたの。そして、すぐにあなたが生まれたのよ」


 それで、夫婦の神様に感謝の気持ちをこめて、アメノウズメ様から名前をもらい、わたしのことを「うずめ」と名づけたそうだ。……は、話のつじつまが合ってる……。


「『よみがえりの術』は、三千年の時間を要する術だったのだが、なぜかこの数年の間に、黄泉国とこの世界を隔てている結界の力が急激に弱まり、予定よりも千年早く、オレは帰還することができたのだ。……しかし、うずめがこんなことになっているとは……」


「サルタヒコ様、元気を出してください。いつかきっと、うずめさんの記憶は元に戻ります」


 落ちこむ猿田くんを鈴ちゃんがなぐさめた。


「……そういえば、鈴ちゃんは、猿田くんの言っていることを信じているの? 何かすごく協力的だけれど」


「当たり前です。わたしは、うずめさんと初めて出会った時から、あなたのことをアメノウズメ様だと気づいていました」


「それって、巫女さんが持つ霊感とか神通力みたいなパワーで分かるの?」


「鈴は、大昔、女神であるうずめに仕えていた巫女の子孫なのだ。鈴の両親や姉はその力を受け継いでいないが、鈴には、彦太郎、半蔵などの人間には見えない神使の姿が見える」


 猿田くんがそう言うと、鈴ちゃんがこくりとうなずいた。


 そういえば、鈴ちゃんは、出会った当初、わたしのことを「うずめ様」って呼んでいた。毎日、わたしの前でお祈りをしていたのも、わたしのことを神様だと思っていたからなのか……。


「うずめさんが神としての記憶を失っている事情は、ずっと以前から半蔵さんと彦太郎さんから聞いていて、知っていました。そして、つい先日、サルタヒコ様が黄泉国から帰還されて、うずめさんの記憶を取り戻す手助けをしてほしいと頼まれたのですが……」


 鈴ちゃんはそこまで言うと、わたしをじっと見つめた。


 鈴ちゃんだけでなく、猿田くん、半蔵、彦太郎も、わたしのことを穴が開くほど見つめる。


「ここまで話して……何か、ちょっとでも、思い出しましたか、うずめさん?」


「いんや、まったく」


 わたしが、あっさりとそう言うと、みんなはハァ~と盛大なため息をついた。


 そ、そんながっかりされても、仕方ないじゃん!


「第一、わたしが女神様だなんて、ぜーんぜん信じられないもん。猿田くんが神様でわたしの夫だっていう話もね」


「いったい、どうしたら信じてくれるというのだ」


「そうだなぁ……。あっ、そうだ。わたしを神様が住んでいる世界にでも連れていって、あなた以外の神様と会わせてよ。そうしたら、信じてあげる」


 どうせそんなの無理だろうと考え、わたしがそう言うと、


「よし、分かった。今から行こう」


 と、猿田くんはヤル気満々、威勢よく立ち上がった。


「夫婦そろって、久しぶりに高天原に行き、アマテラス様にごあいさつするのだ」


「え? ち、ちょっと……」


 猿田くんはわたしの手をつかむと、「いざ、高天原へ!」とさけぶのだった。


 ま……マジで……?

<うずめの一口メモ>

サルタヒコを溺死できしさせた貝は、比良夫貝ひらふがいっていうんだって。

本居宣長という偉い学者さんは、比良夫貝とは「タイラギ」という貝のことじゃないかと推測しているそうよ。

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