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うずめちゃんの神様days!  作者: 青星明良
第1巻 ウェディングドレスですよ、女神様!
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5 天のはしご

うずめは、サルタヒコ(猿田)に連れられて、アマテラス様がいる高天原に行くことになりました。今回は、うずめが高天原に到着するまでの話です。

 猿田くんは、わたしを神社の境内の奥にある滝の前まで連れて来た。


 ここは、滝にうたれてみそぎ(体を清めること)をするための場所だ。


「だ、ダメだって、猿田くん。ここは一般の参拝客は入っちゃいけないんだよ。小さい時、滝の近くで遊んでいたら、鈴ちゃんのお父さんに怒られたんだから」


「うずめは、この神社でまつられている女神だ。入っていいに決まっている」


「そうですよ、うずめさん。……それにしても、自分がお仕えしている女神様を叱るだなんて、わたしの父はなんて罰当たりなんでしょう。わたしが、後で父を説教しておきます」


 わたしたちについて来た鈴ちゃんが、冷静な彼女にしては珍しく、鼻息あらく怒っている。


 わたしは女神様なんかじゃないんだけれどなぁ……。


「さあ、日が暮れる前に高天原たかまがはらへ行こう。夜になってしまったら、天のはしごから足を踏み外す恐れがあるからな」


「天のはしごって何よ」


「滝が流れ落ちる場所から天へと昇って行く光の道が、神であるおまえなら見えるはずだ」


「光の道? ……そんなの見えるわけが……うんん!?」


 わたしが目をこらすと、天から地上に差しこむ光の線のようなものがだんだんと見えてきた。目の錯覚……とかじゃないわよね?


「あの天のはしごは、天と地をつなぐ光の道だ。日本各地の神社には、霊力の強い場所に同じ天のはしごがあり、オレたち神はこの光の道を使って高天原に行くんだ」


「……へ、へえ……。意外と気軽に行けるのね、神様の国って……」


「ただ、たまに点検をしてやらないと、天のはしごの強度が弱っていて、登っている最中にはしごが倒れる恐れがあるから、気をつけろ」


「それって死ぬじゃん! 空から落ちて死んじゃうじゃん! 安全性のかけらもないよ!」


 わたしは、漫才師みたいにビシッとツッコミを入れる。


「人間が使うエレベーターやエスカレーターも、定期的にメンテナンスしないとダメだろ。それと同じだ」


「あんた、二千年間、黄泉国にいたと言うわりには、エレベーターとか知ってるんだ」


「黄泉国にもテレビくらいはある。……無駄話ばかりしていないで、出発しよう」


 猿田くんはそう言うと、右手を頭の上にかかげ、さっと振り下ろした。すると、


 パァーーーッ!


 と、全身が光り、制服姿から山伏みたいなかっこうになった。


「す、すごい!」


「学生服というやつは、どうにも着心地が悪い。うずめはそのかっこうのままでいいのか?」


「わたし? 別にいいけれど?」


「そうか。ならば、行こう。……あと、オレのことはサルタヒコと呼んでくれ。猿田彦之進などというのは、人間に化けている時の偽名にすぎないからな」


「ふぅん……?」


 人間に化けているって、服装が変わっただけで、見た目は何も変わっていないじゃん。


「うずめさん。今のサルタヒコ様は、わたしみたいな巫女の力を持った人間以外には、姿が見えませんよ。学校では、『顕現けんげんの術』という神が人の前に姿をあらわすための術を使っていただけなんです」


「ほえ~。そうなんだ。ま、どうでもいいや。猿田くん、さっさと連れて行ってよ」


「だから、サルタヒコって呼んで……」


「晩ご飯までには家に帰りたいんだから、早くしてってば!」


「き、気が強い……。二千年前からぜんぜん変わっていない……」


 猿田くんは小声で何か文句を言ったみたいだけれど、わたしの耳には届かなかった。


「で、これはどうやって登ればいいの? はしごと言っても足をかけるところがないし、こんな垂直に立っている光の道を歩くことなんてできないでしょ?」


「普通に、こうやって光の道に足をくっつければいい」


 猿田くんは、バシャバシャとひざを濡らしながら滝まで近づき、黄金に輝く天のはしごに右足、次に左足をくっつけた。そして、一歩、二歩と歩いてみせる。


「うわ! 宙を浮いているみたい! 天のはしごに足がひっつくんだ! 何だか面白そう! よーし、わたしも!」


「うずめさん。わたしと神使しんしのみなさんはお留守番をしていますので、気をつけて行って来てくださいね」


「あいあいさー!」


 わたしは、制服が濡れるのも気にせず、水しぶきをあげながら滝まで走り、天のはしごに「えいや!」と飛び乗った。


 ぴたっ!


 わお! 本当に足がくっつく! 楽しいぞ、これ!


「うずめ。あまり足を離したり、くっつけたりしていると、天のはしごの特殊接着剤がはがれるから、やめなさい」


「これ、接着剤なの!?」


「キラキラ光っているだろ? これが高天原特製の接着剤だ。この光の道に足をつけている者が意識的に足を離さないかぎり、けっしてはがれない。ただし、そうやって遊んでいると、いつか接着性が弱まってしまうから危険なんだ」


「神様の国に行くためのはしごが、接着剤でできているとか、しょぼいよ!」


 こうして、わたしと猿田くんは、神様がたくさんいるという高天原に向かうのだった。



            ☆   ☆   ☆



 オレンジ色に染まった雲の海を越えても、天のはしごはなおも続く。


 天のはしごは、人間一人がようやく通れる幅しかなく、ちょっとでも踏み外したら地上へと真っ逆さまだ。


 わたしは、そんな危なっかしい光の道をハミングしながらスキップして歩いていた。


「うずめ、恐くないのか? 危ないから、普通に歩いたほうがいいぞ」


「ぜんぜん恐くないよ。空の上を歩けるなんて、ファンタジー小説の中に入ったみたいで、楽しいもん。こんな特別な体験をしているんだから、普通に歩いていたらつまらないよ」


「人間の娘になっても、おまえのその肝っ玉の太さは相変わらずだな」


 猿田くんが、フフッと笑い、そう言った。


 猿田くんは、わたしが足を踏み外して落っこちた時に下からキャッチするため、わたしの後ろを歩いている。


 どうしようもない変人だと思っていたけれど、優しいところもあるんだね。


「ただ、スカートはおさえて歩いたほうがいいな。さっきから、スカートがひらひらと……」


 ピタッ。くるり、とわたしは振り返る。


 腕組みをしながら、わたしは猿田くんを怒りの形相で思い切りにらんだ。


「……もしかして、あんた、わたしのスカートの中を……」


「み、見てない。見てなんかいないぞ。……で、でも、夫婦なんだし、気にすること……」


「ああん?」


「ほ、本当だ! 見たら悪いと思って、ちゃんと目をそらしていた! 信じてくれ! ……もしかして、こ、ここで、かかと落としをする気なのか? あんな技をここでまともに食らったら、天のはしごから落ちてしまう! 勘弁してくれ!」


 必死になって弁明する猿田くん。


 ……ううむ。たしかに、ここから落ちちゃったら、シャレにならないよね。


 それに、本人が「見ていない」って言っているんだから、信じてやるか。ただし……。


「前を歩きなさい」


「え?」


「わたしの前を歩きなさい。あんたに見る気がなくても、うっかり見ちゃうかも知れないでしょ?」


「わ、分かった……」



            ☆   ☆   ☆



 この後も、わたしたちは、せっせと歩き続け、そろそろ大気圏突破して宇宙に出ちゃうんじゃないかと思うくらいの高さまで登った。けれど、高天原にはなかなか着かない。


「ねえ、猿田くん。まだ着かないの? わたし、そろそろくたびれてきちゃった」


「うーん……。オレも、二千年ぶりに高天原に来るから、どれくらいかかるか記憶があいまいだな……。でも、もうすぐだと思うぞ」


「あれ? 何か、わたしたち、ピンクの雲の上に立ってない?」


 黄金(接着剤の色らしい)の天のはしごを歩いていたはずが、知らない間に、薄桃色の雲の上にわたしたちはいた。


「おお! やっと着いたぞ! ここが高天原の入口だ!」


 もくもくと広がる薄桃色の雲でできた平野を見渡すと、はるか向こうに色鮮やかな虹がかかっている。


「虹がかかっている方角に、アマテラス様がいらっしゃる高天原の都がある。行こう」


「アマテラス様って、たしか太陽の女神様だよね」


「ああ、その通りだ。日本の八百万やおよろずの神々の頂点に立つ、とても偉い神様だ」


 人間界と同じあかね色の空の下、わたしと猿田くんは、虹をめざして、てくてくと雲の道を歩いていく。高天原も夕方みたいだけれど、人間界と時間の進みかたは一緒なのかな?


 わたしがぼんやりとそんなことを考えながら歩いているうちに、かなり先にあると思っていた高天原の都は、不思議なことにすぐ目の前に近づいていた。


「うわぁ! でっかい門!」


「高天原の都の門だ。ここを通らないと、都の中には入れない」


 その門は、百人の人間が肩車をしても飛び越えられないような巨大な石の門だった。


 わたしが、「ほげぇ~」と馬鹿みたいに口をあんぐりと開けて、天高くそびえる門を見上げていると、


「そこの怪しいやつら、何者だ!」


 鉄の甲冑を着た男が、槍を片手に門の前で仁王立ちしいて、わたしたちに声をかけてきた。


「怪しいやつ! さっさと名を名乗れ!」


 男が、槍の穂先をわたしたちに向けながら、そう怒鳴る。めちゃくちゃ強そうだ。


 何だか警戒されているみたいだけれど、ちょっと頭ごなしすぎない?


 わたしは、男の態度にムッとなった。


「なーにが怪しいやつよ。あんたのほうこそ、時代劇に出てくるようなかっこうをして、怪しさMAXじゃないの。人に名前を聞くのなら、自分がまず名乗りなさいな」


「む……。なかなか強気な娘だな。いいだろう、オレのほうから名乗ってやる。オレは、天石門別神あめのいわとわけのかみ。他の神々からはアメノイワトと呼ばれている。昔から天皇が住む宮殿の門でまつられていた御門みかどの神だ。つまり、帝王の門を守護するのがオレの役目というわけだ」


「え? あんた、神様なの? ただの門番じゃなくて?」


「し、失礼なやつだな! れっきとした神だ! さあ、オレは名乗ったぞ。おまえはだれだ」


「わたし? わたしの名前は、うずめだよ」


「オレは、うずめの夫のサルタヒコだ。久しぶりだな、アメノイワト」


 わたしたちが名乗ると、アメノイワトは槍を手からぽとりと落とし、なぜか固まってしまった。……うん? 何だ? どうした?


「う……うずめ……? ああ! よく見たら、うずめだ! 身長が縮んでしまって気づかなかったが、たしかにアメノウズメじゃないか! ……う、う、うおおおおおおおおおおっ!」


「び、ビックリしたぁ~。急に何なのよ!」


 アメノイワトは、突然雄叫びをあげると、「開門!」と怒鳴った。すると、


 ゴ、ゴゴゴゴゴー!


 ビリビリと体に伝わってくるほどの激しい震動とともに、巨大な石の門が開いたのだ。


「みんなーーーっ! うずめが帰って来たぞーーーっ!!」


 アメノイワトは興奮してさけび、門の内側に走り去ってしまった……。


 な、何だったの、あの人?


「わたしたち……入っていいのかな? 門の警備をしていた神様が行っちゃったけれど」


「いいんじゃないのか? たぶん」


 あぜんとしながらも、わたしと猿田くんは、高天原の都の中に入ったのであった。

<うずめの一口メモ>

次回以降、個性豊かな神々が登場して、物語はにぎやかになっていくよ!

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