3 雪音ちゃん、久々の登場
「うずめちゃん。今日は元気ないね。風邪でも引いたの?」
放課後。チアリーディング部の練習の休憩中、山路雪音ちゃんが心配してそう聞いてきた。
あっ、いちおう言っておくけれど、雪音ちゃんは新キャラじゃないからね? 第1巻でちょっとだけ出ているから。恋バナが趣味でちょっとお節介なわたしの友達だよ。
「風邪は引いていないけれど、ちょっと疲れることがあってね……あはは」
タオルで首筋の汗を拭きながら、わたしは誤魔化すように笑った。
ううぅ~……。腰や背中がまだ痛いよぉ~……。
「いつも元気いっぱいのうずめちゃんが疲れぎみなんて、珍しいねぇー。……あっ、もしかしたら恋の悩み? 猿田くんとケンカしちゃったとか!?」
雪音ちゃんが急に目をキュピーンと光らせ、わたしに顔を近づけてきた。雪音ちゃんはどんなことでも恋愛に結び付けようとするなぁ~……。
「よかったら相談にのるよ、うずめちゃん!」
「べ、別に、猿田くんとは関係ないよ。第一、わたしたち付き合ってなんかいないし」
「え~? うっそーん。学校で二人が別行動をしているところ、ほとんど見たことないよ? うずめちゃんがトイレに行くのもついて行こうとするぐらいなのに」
「正直、それはやめてほしい」
猿田くんは、できるだけわたしのそばにいるために、中学生のふりをして学校に通っているけれど……。奇矯な行動が多すぎて、わたしはいつも困らされているんだよねぇ~……。
転校初日から「うずめはオレの嫁だ!」とみんなの前で宣言したものだから、うちのクラスではわたしと猿田くんは半ば公認カップルみたいなあつかになってしまった。
わたしがどんなに「つ、付き合ってないし!」と否定しても、猿田くんは「うずめうずめうずめうずめうずめ」とうるさく言ってわたしにベタベタしてくるものだから、「うずめちゃんはツンデレ彼女」ということになってしまっている。
女子たちはわたしと猿田くんのことを勝手に祝福しているみたいだけれど、わたしに好意を持っていた複数の男子たちが猿田くんに敵愾心を燃やしているという話を雪音ちゃんから聞かされたことがある。
……まあ、わたしと猿田くんは本当に夫婦なのだから、百歩譲って猿田くんの言動は大目に見てあげようと思ったりすることもあったりなかったり……。
でも、わたしの彼氏面をするのなら、ファッションはもう少し気を遣ってほしいんだよね。あいつ、ファッションセンスがゼロどころかマイナスなんだもん。特に、あの学ランの魔改造!
どこから調達したのかわからない花美学園の校章がついた学ランは、転校してきてたった半月で「どこの番長だよ!」とツッコミを入れたくなるぐらいボロボロになっていた。
本人いわく、「わざとボロボロにさせるのが、若者たちの流行だと聞いたからだ」ということらしい。それって、たぶん、ダメージジーンズやわざと色落ちさせたジーンズを履いている人のことだよね……?
制服をわざとボロボロにするのはファッションじゃないんだよと言っても、あんまり分かっていないみたい。猿田くんのファッションセンスは本当に壊滅的だ。
あと、あの天狗のお面だけは本当にどうにかしてほしい。猿田くんの霊力がこもった特殊なお面で、一般人にはちょっと鼻が高めの外国人っぽい顔に見えているらしいけれど、わたしには天狗の仮面をかぶったHENTAIにしか見えない。素顔はせっかくのイケメンなんだし、堂々と顔をさらしていたらいいのに……。
「……ねえ、うずめちゃん。今、猿田くんのことを考えてる?」
わたしがぼんやりと猿田くんのことに思いをはせていると、雪音ちゃんがわたしの顔をのぞきこんで、悪戯っぽい笑みでそう言った。
「ええ!? そ、そんなわけないですじょ!!」
「うっそだぁ~。本当はラブラブなくせにぃ~」
や、やめてくれ。猿田くんのことだから、どこでわたしのことを見ているかわからないし……!
「もー! もー! あんまりからかうと怒るよー!?」
「あははは。ごめん、ごめん」
雪音ちゃんはひとしきり笑うと、「ところでさ、うずめちゃん」と言った。移り気で集中力があまりない雪音ちゃんは、こうやって唐突に話題を変えることが多い。
「今度の日曜日、駅前のデパートでアイドルの公開オーディションがあるって、知ってる?」
「ほえ? こんな地方のデパートで? 珍しいね」
「なんかねぇ、この街の出身の作曲家とか招いたりして地域活性化のためにご当地アイドルを作ろうとしているらしいよ。たしか、ろ……ろー……ろこ……ロリコンアイドル!」
「それ、たぶんローカルアイドル。ロコドルとも言うけど」
「あー、そうそう、そのローリングソバットアイドル。うずめちゃん、くわしいね」
ローリングソバットって、プロレス技じゃん。「ロー」までしか合ってないんですけど……。雪音ちゃんは基本的に人の話を適当にしか聞かないんだよなぁ……。
ちなみに、わたしがアイドルにくわしいわけではなく、実は鈴ちゃんから仕入れた知識だったりする。
鈴ちゃんは物静かで真面目な性格だけど、小さい頃からアイドルが大好き、という意外な一面がある。小学六年生の夏休みに、事務所のオーディションをわたし以外の友達には内緒で受けたことがあるぐらいだ。
「わたし、みんなに好かれて、アイドルみたいにキラキラと輝いてるうずめさんに憧れているんです。わたしも、みんなを元気にしてあげられるような、巫女アイドルになりたいです」
オーディションを受ける数日前、鈴ちゃんはそんなことを言っていた。
オーディションの結果は……「何かアピールしてください」と言われて祝詞を唱え出し、あっさり落ちちゃったけど。鈴ちゃんの中では、「わたしは巫女である」というアイデンティティーは外せないらしい。
「そのデパートでの公開オーディション、わたし受けてみようと思うの!」
「えっ、雪音ちゃんが!?」
恋バナにしか興味がないと思っていた雪音ちゃんがそんなこを言い出したので、わたしはビックリして聞き返した。
雪音ちゃんにも「輝きたい! 素敵な女の子になりたい!」っていう夢があったんだね。
なんて一瞬感心したんだけど――。
「うん。だって、アイドルになったらモテモテになるでしょ? そうしたら、わたしのファンの男の子の中からイケメンでお金持ちな子を選んで、その子とお付き合いできるじゃん!」
めちゃくちゃ不純な動機だった……。
「それでさ、わたし一人で受けるのも心細いし、うずめちゃんも一緒にオーディション受けない?」
「え? わ、わたし? いやぁ、それは……」
芸能の女神が人間界のアイドルのオーディションを受けるのって、ありなのかしら?
自分のご利益パワーで受かっちゃったら、他の真剣にアイドルを目指している子たちに悪いしなぁ……。
「ねえ、ねえ、いいでしょう? 一緒に受けてよぉ~!」
「う~ん……。ちょっと考えておくね」
わたしは曖昧に返事をしておいた。
オーディション当日、デパートの屋上で、後に神様たちの間で「女神たちのデスマッチ大事件」と呼ばれることになる大騒動が起きるとは露知らずに……。
<雑談コーナー:鈴×猿田>
鈴
「山路さん、久しぶりの登場でしたね。読者のみなさん、彼女のことをちゃんと覚えていましたか?」
猿田
「オレはすっかり忘れていた」
鈴
「サルタヒコ様は毎日教室で山路さんにお会いになっているじゃないですか……」
猿田
「何にしろ、山路雪音はあの性格を直さないとモテないと思う」
鈴
(サルタヒコ様もうずめさんに色々と迷惑をかけてしまうところを直したほうがいいと思うのですが……)




