11 永遠の夜を終わらせろ!!
「数千年ぶりにやばいことになった。さて、どうしよう」
天地の異変に気づき、キラキラ瞬く星々が流れる天の川の川原に大集結した八百万の神様たちに、オモイカネがそう言った。頭に巻いている包帯が痛々しい。
「そもそも、なぜアマテラス様は天岩戸に引きこもることができたんじゃ? 天岩戸は、アメノイワトが結界を張って厳重に管理していて、あいつだけが知っている呪文を唱えなければ天岩戸の扉は開かないはずなのじゃが……」
イシコリドメがそう言いながら首をかしげると、猿田くんがこう答えた。
「アメノイワト殿はスサノオ様のスポーツカーにぺちゃんこにされて、現在入院中だ。彼の霊力が急激に弱まったせいで、天岩戸の扉が開いてしまったのだろう」
「くそ、胃が痛い……。全部、スサノオ様のせいということだ。あのお方が何もかんも悪い! ……とにかく、この事態を解決する策を早く練らなければならないな。葦原中国(人間界)はもう朝だ。このままでは、太陽が失われて暗闇におおわれた世界で、人間たちが大パニックになるだろう」
オモイカネがそう言うと、わたしは「え!? もう朝? 日付が変わっているの!?」とビックリした。
ああ、そうか。あたりが暗いから、まだ夜だと思っていたけれど、今は太陽神がいなくなってしまって「永遠の夜(常夜)」の状態なんだ……。
「ど、どうしよう……。天気が晴れるどころかずーっと真っ暗闇の世界になっちゃたら、夢ノ貝祭りが中止になるかも……。将太くん、お姉さんと一緒に遊ぶの楽しみにしていたのに……。わたし、神様なのに将太くんのささやかな願い事ひとつも叶えてあげられないの……?」
わたしは動揺してそんな弱音を吐いてしまった。すると、猿田くんがわたしの肩をポンとたたき、
「いつも強気なお前らしくないぞ、うずめ。人間たちが困っている時に、オレたち神まで悩んでいたらダメじゃないか。それに、八百万の神々の仲間がいるのだから、お前一人が悩む必要なんてないんだぞ。
オレたち神もたった一人では完璧ではない。八百万の神々それぞれの長所を生かし、短所は仲間の神たちに補ってもらい、協力して人間を助け導いて行くのだ。人間たちの社会と同じように、オレたち神もチームワークで問題を解決するんだ」
と、励ましてくれた。
「そうじゃ、そうじゃ。ワシたちはずーっと昔から力を合わせて高天原(天上界)や葦原中国(人間界)を守ってきたんじゃぞ。そして、だれとでも仲良くなれる人気者のうずめはワシたち神々の友情の要といっていい存在だった。そんなあんたが弱気になっていたら、ワシたちの調子まで狂ってしまうよ」
そう言ってくれたのは、イシコリドメだった。
神様も、チームワークで解決していく。そして、わたしはそのチームの要……。
そっか……。わたしにも、八百万の神々の中で重要な役目があったのね。
「分かったよ、猿田くん。イシコリドメ。……わたしがみんなの音頭をとって、この事件を解決してみせる……!」
学校でもチアリーディング部でみんなの応援をしていたわたしは、神様の世界でもみんなを応援して結束を固める……そんな存在だったのね!
よーし! そういうのなら得意だ!
じゃんじゃんみんなを応援して、神様たちのやる気を出させるぞ~!!
「みんなー! 笑み美しき女神のアメノウズメちゃんが全力で応援しちゃうから、協力してがんばろーう!!」
わたしが拳を振り上げてそう叫ぶと、八百万の神様たちは「おおーーーう!」と気合の入った声を返してくれた。
さあ、張り切って問題解決しちゃおう!!
☆ ☆ ☆
というわけで、神様たちの大会議の始まりだ。
「まずは、この永遠の夜を終わらせることが先決だね! 数千年前と同じように、アマテラス様を天岩戸から引っ張りだす儀式をやりましょう! そして、もう一つ、大きな問題なのは……」
「トヨウケビメ殿の救出だな」
オモイカネがそう言うと、わたしはコクリと大きく頷いた。
今、トヨちゃんは、死者が住む黄泉の国と葦原中国(人間界)の境目の黄泉比良坂をさ迷っているはずだ。
もしも黄泉の国の鬼と遭遇し、あそこの死者の世界の食物を食べさせられたら、トヨちゃんは太陽の下では生きられない体になってしまい、アマテラス様のもとへは戻って来られない。黄泉の鬼の仲間として死者の国で暮らさなければならなくなってしまう。
そうなったら、アマテラス様は絶望して、天岩戸から出て来ても太陽神としての役目を放棄してしまうおそれがある。
「長きに渡って伊勢の地で共にまつられてきたお二人の姉妹のような絆を思えば、トヨウケビメ殿の救出は絶対だ。彼女が死の国に堕ちれば、アマテラス様の心は永遠に癒されない。……だが、黄泉比良坂は、アマテラス様のお父上・イザナギ様ですら命からがら逃げ出したほどに危険な地だ。下手をしたら、救出に行った神も高天原へは戻っては来られないかも知れない。……だれが、トヨウケビメ殿の救出に向かう?」
オモイカネの重々しい言葉に、神様たちは「むう……」とうなって黙りこんだ。みんなもトヨちゃんのことは心配だけれど、黄泉比良坂に行くのは恐いみたいだ。
先月の黄泉の鬼女・ヨモツコの騒動でも分かるように、黄泉の鬼たちは油断ならない相手だ。そんな奴らがうじゃうじゃいるところに行くのだから、神様たちでもおいそれと「自分が行く!」とは宣言できないのだろう。
トヨちゃん救出任務に名乗りをあげる神はなかなかあらわれなかった。
……いや、ただ一人だけいた。
「このオレが行こう」
「さ、猿田くん!?」
わたしは、前に進み出てそう宣言した猿田くんにおどろき、「だいじょうぶなの!?」と思わず叫んでいた。
「一度死んで黄泉の国に堕ちちゃった猿田くんは、黄泉の国から脱出するために『よみがえりの術』っていう大技を使って力をほとんど使い切り、今は大した霊力がないんでしょ? もっと適任な神様がいるんじゃ……」
「いや、おそらく、トヨウケビメ殿救出の任務はオレが一番適任だと思う。なぜなら、一度死んだ経験があるおかげで、他の神たちよりも黄泉の鬼たちへの対処方法をたくさん知っているからだ。オレなら、奴らにそんな簡単にはやられないだろう」
「いや、あんた、ヨモツコにわりとあっさりやられてたじゃん……」
「あ、あいつは鬼女の中でも特別強かったからで……」
猿田くんは慌ててそう言いわけすると、コホンと咳をして、天狗のお面を外した。
「い、いきなりお面外してどうしたのよ……」
猿田くんの少し憂いをふくんだ端正な顔がわたしの瞳に焼きつく。
え、ええ……? き……急にどうしちゃったの? そんなイケメンな素顔でものすっごい真面目な表情をされちゃうと、何かドキドキしちゃう……。
「よく聞いてくれ、うずめ。お前との結婚を後押ししてくださり、仲人になってくれたアマテラス様は、オレたち夫婦にとって恩人だ。そのアマテラス様が、いま、大切な親友を失おうとしているのだ。だから、オレは一度死者の国に堕ちた経験を活かし、トヨウケビメ殿を救出したい。お前には毎回心配させてしまって、申し訳ないと思っているが……。しかし、必ず戻るからオレを信じて待っていてくれ。愛する妻よ……」
「あ、愛す……///」
い、いきなりド直球で……しかも、八百万の神様たちが見ている前で「愛してる」とか言うなよぉ~!
不意打ちすぎるわ!!
「だ……だったら、わたしもついて行って……」
わたしは耳まで真っ赤になりながらそう言おうとしたけれど、何だかしどろもどろになってしまって、うまくしゃべれない。言い終える前に、猿田くんに指で口を塞がれてしまった。
て、天狗のお面を外した途端にいちいち行動がイケメンになるのは何!?
カウボーイのかっこうまでかっこよく見えちゃうなんて……わたしって、もしかして、けっこうちょろい……!?
「うずめには、天岩戸に引きこもったアマテラス様を救い出す仕事があるだろ? 夫婦で、アマテラス様とトヨウケビメ殿を救おう」
「う、うん……」
わたしはしおらしい声でそう言い、頷いてしまっていた。
ち、ちくしょう……。わたしはなんでこんなHENTAI天狗なんかにドキドキしてるんだ……。
「リア充爆発しろ! リア充爆発しろ! リア充爆発しろーーーっ!!」
わたしと猿田くんが二人だけの世界になっちゃっている間、タヂカラオたちうずめファンクラブの会員の神様たちは、血の涙を流しながら猿田くんに怨嗟の声を吐き続けているのだった……。
☆ ☆ ☆
「トヨちゃんを連れて無事に戻って来てくれなかったら、絶対に許さないからね! 絶交だからね!」
「ああ、分かっているさ。……いざ、黄泉比良坂へ!」
猿田くんがそう叫ぶと、猿田くんのまわりをたくさんの黒い羽が飛び始め、衣装はカウボーイの服から山伏みたいなかっこうに変化した。
「うわぁ! すごい! ヒーローが変身したみたい!」
「うずめだってできるはずだぞ。私服から神の仕事着に服装を変化するのは、そんなに難しい術ではないからな」
猿田くんはそう言いながら、手のひらに出現させた愛用の「導きの矛」をぎゅっと握って天にかざした。
「あれ? その武器、ヨモツコとの戦いで溶かされちゃったんじゃなかったっけ?」
「これをふくめて予備があと三つある」
神様の秘密道具なのに、予備がそんなにもあるんだ……。何だかありがたみがないなぁ。
「今回は、ヨモツコに誘拐された奏とはちがい、トヨウケビメ殿の居場所は黄泉比良坂とはっきりしている。だから、必要な『導きの神の力』も前回の半分ほどで済むと思う。失敗してオレが消滅してしまう恐れはまず無いから安心しろ」
「うん、分かった。わたしたちはアマテラス様のほうを何とかするから、トヨちゃんのことお願いね!」
「おう! ……導きの矛よ! われを正しき道へと導きたまえ!」
猿田くんが、右手に持った導きの矛でえいやっと空を突くと、
ズゴゴゴゴゴゴ!!!
という大きな音とともに空間に裂け目ができ、猿田くんはその裂け目に飛びこんで高天原を後にしたのだった。
「みんな! わたしたちも、天岩戸へ行くわよ! アマテラス様をあそこから引っ張り出さなきゃ!」
猿田くんを見送ったわたしはそう言い、オモイカネたち八百万の神々とともに天岩戸に向かおうとした。
でも、その行く手に待ち受けていたのは、なんと……スサノオ様だったのだ!!
<雑談コーナー:猿田×鈴×藤吉>
鈴
「サルタヒコ様。わたし、思ったのですが、常にお面を外していたら、うずめさんのハートをわりと簡単にゲットできるのでは……?」
猿田
「し、しかし、お面をしていないと恥ずかしいのだ(/ω\)」
藤吉
「でも、サルタヒコ様! 今のところ、うずめ様がサルタヒコ様に惚れる要素は顔しかないでござるよ!」
猿田
「藤吉……。お前の今月の給料、無しな」
藤吉
「う、ウキキーーー!?」




