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うずめちゃんの神様days!  作者: 青星明良
第2巻 日本最凶の姉弟ゲンカですよ、女神様!
31/67

10 そして世界は暗闇におおわれた (鈴ちゃん視点)

 うずめさんたち神様のみなさんがアマテラス様の失踪しっそうにパニックになっていた頃、葦原中国あしはらのなかつくに――人間界は朝を迎えようとしていました。


「う、ウキ~……。それがし、なにゆえうずめ様の部屋に監禁されているのでござろう? しかも、うずめ様に化けているのに、うずめ様の大親友のはずの鈴ちゃんに縛られてしまったでござる。…………これはもしやイジメ!?」


 昨日の夕方からうずめさんに化けている藤吉くんが、白みつつある空の景色をうずめさんの部屋の窓から眺め、ため息まじりにそう言うと、


「ちがうコケ! 藤吉が全部悪いんだコケ!』


 と、監視役の半蔵くんが全身を名古屋コーチンみたいに赤くして怒りながら、藤吉くんを叱りました。


 わたしは、「はぁ……」とため息をつき、「うずめさんとサルタヒコ様がお戻りになるまで辛抱していてください」と藤吉くんに言いました。


 親友のうずめさん(の姿に化けたおサルさん)を縄で縛っているのは心がズキズキ痛みますが、あんなに大暴れされたら仕方ありません……。



            ☆   ☆   ☆



 昨夜、藤吉くんは、隠形おんぎょうの術で姿を消している(神使も、神様みたいに姿を消すことができるのです)半蔵くんとわたしの助けもあって、夕食を終える頃までは何とかうずめさんを上手に演じてくれていました。


 しかし、食後、うずめさんのお父様の勇太さんがリビングのテレビをつけると、動物たちがたくさん登場するバラエティー番組がやっていて、それが原因で大変なことが起きてしまったのです。


「今日遊びに来てくれた動物くんは、皿回しと踊りが得意なミツヒデくんで~す!」


 テレビ画面では、ミツヒデくんというおサルさんが見事な皿回しを披露し、拍手喝采はくしゅかっさい、番組のゲストの若い女優さんに頭を撫でられていました。


 その映像をたまたま見て、藤吉くんのサルとしての対抗心に火がついてしまったのでしょう。


「ウキーッ! それがしにも、あれぐらいできるでござる! ウキャキャー!」


 うずめさんの姿をした藤吉くんは、食器の後片付けの手伝いをしていたわたしから皿を奪い、器用に体のバランスをとりながら左右の手の人差し指と右足の親指で皿をビューン! ビューン! と回し始めたのです。


「うずめ……。お前、何をしているんだ……?」


 うずめさんのご両親は、あっ気に取られた顔で一人娘(に化けた子ザル)を見つめました。


「何しとるんじゃコケー! うずめ様がご両親に頭の心配をされちゃうじゃないかコケーーーっ!!」


 隠形の術でご両親には姿が見えない半蔵くんが、慌てて止めに入って藤吉くんに体当たりし、バランスを崩した藤吉くんはズダーン! と尻もちをつきました。


 パリーン!


 た、大変! 藤吉くんが落っことした皿が全部割れてしまいました! これはうずめさんがやったことになるので、何も悪いことをしていないうずめさんがお母様の沙織さんに怒られてしまいます!


 でも、騒動はそれだけでは終わらず……。


「さあ、ミツヒデくんの次の芸は大得意のヒップホップダンスです! 見てください! このリズミカルなダンスを!」


 テレビの画面の中のミツヒデくんというおサルさんが踊り出すと、またもや藤吉くんは興奮してしまい……。


「こ、今度こそは、あのミツヒデとかいう生意気なサルを越えてやるでござる! ウッキャキャキャー!」


 藤吉くんは、自分がうずめさんに化けているのも忘れ、ソファーの上で腰をふりふり、横に座っていた勇太さんのあごをしたたかに蹴りながら逆立ちし、バック転で後ろへジャンプして食卓用のテーブルに着地、「服が邪魔ウキぃ!」だとか叫びながら上着とスカートを脱ごうとして、再び止めに入った半蔵くんをうっかり殴り飛ばしてしまい、ブレイクダンスを踊り続けようとしたのです。


 ……いい加減にしてください! わたしの大親友のうずめさんは服を脱いで踊り出すようなHENTAIではありません!


 愛する親友の姿をしたおサルさんの醜態しゅうたいはたえがたいものがありました。とうとう静観していられなくなったわたしは、藤吉くんの背後に素早く回りこみ、勇太さんの道場で教わった回し蹴り(護身術)で藤吉くんをテーブルから叩き落とし、テーブルの下に倒れた藤吉くんの首をこれまた勇太さん仕込みのチョークスリーパー(護身術)で締めつけて捕獲、


「うずめさん? わたし、今日は疲れちゃいましたから、もう寝ましょう? うふふ……」


 そう笑顔で言いながら、目を回している藤吉くんを引きずって二階へと逃げたのでした。


「う~ん……。うずめも筋がいいが、鈴ちゃんもなかなかの技の切れだなぁ」


 愛弟子の成長を喜ぶ勇太さんのワハハハハと笑う声が聞こえましたが、沙織さんは「あの子たち、いつもと様子がおかしくない?」と不審がっている様子でした。


 ふ、ふぅ~。うずめさんと一緒に勇太さんから護身術を教わっておいて本当に助かりました……。



            ☆   ☆   ☆



 以上、回想終了です。


「あんなことをしたら、娘の頭がおかしくなったとうずめ様のご両親が心配しちゃうコケ! 病院にでも連れて行かれたら、どうする気コケ! ……おい、藤吉。何をしているコケ……?」


「う~んと……。よし、縄抜け完了でござる!」


 半蔵くんの説教をうんざりとした顔で聞いていた藤吉くんですが、知らぬ間に体をくねらせて縄をほどいてしまい、自由の身になっていました。


「部屋でじっとしているのはもう飽きあきでござる。ちょっと朝の散歩をしてくるでござる」


 藤吉くんはそう言いながらガラリと窓を開けると、身を乗り出して外へ飛び降り、うずめさんのお気に入りのピンクの寝巻(ウサギの柄が可愛い)を着たまま逃げ去ってしまったのです。


 さすがはおサルさん、軽々とした身のこなし……!


「ちょっ、おま……! 職務放棄しょくむほうきするなコケーーーっ!!」


「半蔵くん、追いかけましょう!」


「わ、分かりましたコケ!」


 半蔵くんは窓から飛び立ち、低空飛行しながら藤吉くんを追いかけました。わたしも玄関で靴をはき、笑美えみ家から飛び出します。寝巻から着替えているヒマなんてありません。藤吉くんが、うずめさんの姿のまま外で奇行に走ったら、笑美家の娘さんは変人だというウワサがご町内に広まってしまうことでしょう。


 何とかして、町内の人たちが起き出す前に藤吉くんを確保しないと! そうしないと、うずめさんが社会的に死んでしまう……!



            ☆   ☆   ☆



 藤吉くんは、陽が昇りつつある東の方角へと走りながら逃走中。


 わたしと半蔵くんは必死になって追いかけていましたが、すばっしこい藤吉くんになかなか追いつけずにいました。


「アマテラス様、おはようございます! 今日もいい日になりますように! ウッキー!」


 藤吉くんが東の空に手を合わせてそう叫ぶと、


「なるわけないコケーーーっ!! 戻るコケーーーっ!! うずめ様に成りすますという役目を放棄させてなるものかコケーーーっ!!」


 翼がちぎれるほど激しく上下させながら飛行している半蔵くんがそうわめきました。半蔵くんはまだまだ未熟な神使のニワトリですが、主人の留守をちゃんと守らなければとがんばっているのです。


「およよ!?」


「うわっ、ぷっ!!」


 藤吉くんはなぜかあっさりと止まり、半蔵くんは藤吉くんに衝突して地面に落っこちました。


「き、急に止まるなコケ!」


「は、半蔵……。何だか変でござる……」


 藤吉くんが、東の空を震えながら指さしました。


 いったい何事だろうと思いながら、わたしと半蔵くんが日の出の方角を見ると――。


 無かったのです。太陽が。


 突如としてわき起った巨大な黒い雲が太陽をおおい隠していました。


「こ……これは……!」


 わたしは、息をのみました。


 黒雲は見る見るうちに空全体へと広がり、やがて、禍々《まがまが》しい姿をした化け物たちがどこからともなく現れて町のあちこちを歩き回り始めたのです。


 早朝の町には早起きの人たちがジョギングや犬の散歩、または出勤のためにすでに外にいて、何の前触れも無く空が暗闇に覆われたことをおどろいていましたが、化け物たちの存在には気づいていない様子でした。彼ら化け物は霊力を持たない人間には見えないようです。


 人差し指と中指に目を持った巨大な手の怪物。


 甲高い声で泣きじゃくりながらさ迷う赤色の肌をした一ツ目の小男。


 空中を泳ぐ人間の女の顔を持ったヘビ。


 そして、民家の屋根の上からじっと人間たちを観察している大きなかさをかぶった毛むくじゃらの鬼……。


「な、何だコケ、こいつらは! く、くさっ……!」


「とてつもないけがれを感じます……!」


 世界が暗闇と化し、正体不明の化け物たちがわが物顔で地上を歩き始め、半蔵くんと藤吉くんはすっかり恐くなって抱き合って震えました。藤吉くんは、恐怖のあまり、うずめさんの姿から本来のサルの姿に戻ってしまっています。


 巫女の力を持ったわたしも、突然生じた周囲の邪気に身がすくんでしまい、吐き気までしてきました。き、気持ち悪い……。


 そんな時、神社で留守番をしていたカエルの神使・彦太郎さんが、一度の跳躍で三十メートルというすごいジャンプ力を発揮しながら、わたしたちのもとに駆けつけてくれたのです。


「ゲロ、ゲロ! 一大事です、鈴殿!」


「ひ、彦太郎さん! これはいったい何が起きているのですか!?」


「これは、数千年前にアマテラス様が天岩戸にお隠れになったときと同じ現象……『永遠の夜』またの名を『常夜とこやみ』。この化け物どもは、アマテラス様の太陽の守護を失った地上に災いを起こそうと現れた邪神たちなのです。このまま放置すると、この国のいたるところで不幸な事故、事件、争いが発生してしまいます! ゲロゲロ……!」



 彦太郎さんは、後輩の神使たちである半蔵くんと藤吉くんをかばい、邪神たちとにらみ合いました。


 でも、数千年の眠りから目覚めた邪神たちの邪気は恐ろしいほど強大なもので、神使たちではとうてい対抗できません。


「彦太郎さん。こんなことになったのは、アマテラス様の身に何かが起きたということですよね? じ、じゃあ、いま高天原にいるうずめさんやサルタヒコ様たち神様は……」


「今は何も考えず、ただひたすら神社まで走りましょう。サルタヒコ様は本来の力を失い、うずめ様も神として完全に目覚めていない状態ですが、夫婦神が再会して一か月が経って次第に神社の結界も回復しつつあります。神社なら、邪神たちも簡単には侵入できないはずです。ゲロ、ゲロ!」


 なるほど。一か月前には黄泉の国の鬼・ヨモツコの侵入を許してしまいましたが、うずめさんの女神としての力は少しずつ回復しつつあります。今なら、神社にも結界が微弱ながら張られているはずです。


「わかりました! 行きましょう、半蔵くん! 藤吉くん!」


「は、はいコケ~!」


「ウキー!」


 わたしたちは、神社めざして逃走を開始しました。


 カエルでありながらとても勇気のある彦太郎さんは、わたしと後輩の神使たちを守るために少し遅れて逃げています。


「す……鈴ちゃん! 踏切を越えようとしているあの子は将太くんじゃないのかコケ!?」


 わたしの横を低空飛行している半蔵くんがそう叫び、わたしがカンカンと鳴り響いている踏切のほうを見ると、踏切の遮断機をかいくぐって線路内に侵入しようとしている男の子がいました。


 あれは、間違いなく将太くん! しかも、よく見ると、緑色の肌をしていて額に一本のツノがある不気味な邪神が将太くんの手をぐいぐいと引っ張って、線路の中に招き入れようとしているみたいです!


「将太くんはあの邪神に操られているでござる! このままだと、将太くんは電車にはねられてしまうでござる!」


「仕方ありません……。わたしがあの邪神を将太くんから引き離しますので、半蔵くんと藤吉くんは将太くんを踏切の外へ逃がしてください!」


「え!? 鈴ちゃん、邪神相手にだいじょうぶコケ!?」


「見たところ、あの緑色の邪神はそれほど強い霊力を持っていません。人間のわたしでも、巫女の力で何とかやっつけることができるはずです」


「……わ、分かったコケ! 藤吉、行くぞコケー!」


「ウキキーーー!!」


 わたしは全速力で走り、遮断機を飛び越えると、渾身の霊力をこめた膝蹴り(ニー・キック)を邪神の顔面に喰らわせました。


「どうですか! うずめちゃんのお父様直伝の護身術の味は!!」


「ぐげげーーーっ!?」


 わたしの必殺技(護身術)をまともに受けた邪神ははるか遠くへと吹っ飛び、消滅してしまいました。邪神が消えたのを見届けると、わたしは素早く踏切の外へと逃げます。


 そして、半蔵くんも、


「もう、護身術が何なのか僕には分からないコケーーー!」


 そう叫びつつ口ばしで将太くんの服の襟をくわえて引きずり、踏切の外へ避難させようとしました。藤吉くんもウキキーと鳴いて将太くんの背中を押していますが、まだ意識が朦朧もうろうとしているらしい将太くんはなかなか動きません。


「ゲロゲロ! 何をしている! 早くしないと、電車が来るぞ!」


 遅れてやって来た彦太郎さんがぴょーーーんと大ジャンプをして、将太くんの肩にのり、べろりと将太くんの顔をなめました。


「あ、あれ……? 僕はいったい……?」


 彦太郎さんにべろべろと三回ほどなめられて、将太くんはようやく気がついたようです。半蔵くんに引っ張られ、後ろから藤吉くんにも押され、何とか踏切の外へと出ることができました。


 その直後、電車が線路を通過し、わたしはホッと胸をなでおろしたのでした。


「良かった! 将太くん! どうして、こんなにも朝早い時間に一人で外出していたんですか!?」


 わたしが将太くんを抱き寄せながらそう言うと、将太くんは、


「僕……どうしても今日は晴れてほしいから、神様にお願いしに行こうと思っていたの……」


 将太くんは今にも泣き出しそうな顔をしながら、暗黒の雲におおわれた空を見上げました。


 そっか……。わたしの家の神社に行こうとしていたんですね……。


「だったら、わたしもお祈りしますから一緒に行きましょう。二人で一生懸命お祈りしたら、アメノウズメ様とサルタヒコ様が将太くんの願いを必ず叶えてくれますよ」


「うん……」


 将太くんはポロリと一筋の涙を流すと、うなずきました。


「ゲロ、ゲロ……。心配することは何も無い。サルタヒコ様とうずめ様ならば、きっと何とかしてくださる」


 彦太郎さんは、完全に黒い雲におおいつくされた天をにらみ、そうつぶやいていました。


 うずめさん……。サルタヒコ様……。


 どうかご無事で……っ!!

<雑談コーナー:うずめ×鈴×半蔵>


半蔵

「お二人に質問コケ! 護身術って何ですかコケ!?」


うずめ

「え? そりゃぁ、痴漢や暴漢たちから自分の身を守るための技のことだよ」


「そんな当たり前のことをなぜ聞くのですか、半蔵くん?」


半蔵

「ええぇぇぇ……」


うずめ

「かかと落としは護身術。いいね?」


膝蹴り(ニー・キック)も護身術ですから」


半蔵

「…………はい」

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