7 イシコリドメが語る、問題児スサノオ様
はるか太古の昔。
イザナギ様とイザナミ様という夫婦神がおったんじゃ。
二人はまず日本の国土となる島々を国産みし、後にたくさんの神々を産んだ。しかし、妻のイザナミ様は最後に火の神・カグツチを産んで、わが子の炎によって火傷して死んだ。
悲しんだイザナギ様は、亡き妻と再び会うため、死者の住む黄泉の国へと向かった。じゃが、黄泉の国の食べ物をすでに食してしまっていたイザナミ様は体が腐敗して変わり果てた姿になっていたのじゃよ。
その恐ろしい姿を見ておどろいたイザナギ様はこの世とあの世の境である黄泉比良坂まで逃げ、大岩で生と死の境界線を塞いだんじゃ。この結界によって、黄泉の国の鬼たちは人間界に足を踏み入れることができなくなった。……まあ、今はその結界が壊れてしまっているようじゃがな。
黄泉国から戻ったイザナギ様は身を浄め、左目から太陽神アマテラス様、右目から月の神ツクヨミ様、鼻から海原の神スサノオ様を生み出した。
そして、アマテラス様に天上界の高天原、ツクヨミ様に夜の世界、スサノオ様に海原を支配するように命じたのじゃが、スサノオ様は「死んだ母上に会いたい」と泣き続けてイザナミ様を怒らせたのだ。
イザナギ様によって海原から追放されたスサノオ様は、母のいる黄泉国に行く前に、姉であるアマテラス様に一目会っておこうと高天原にやって来た。
しかし、ここでスサノオ様は、その荒ぶる神の本性を発揮し、高天原でやりたい放題、あちこちで乱暴やイタズラをして暴れ回ったのじゃよ。本当にもう、困った暴れん坊将軍じゃった……。
アマテラス様に仕える者たちは、次々とスサノオ様の不良行為をアマテラス様に報告したが、弟のことを信じたいアマテラス様はスサノオ様をかばい続けたんじゃ。
「アマテラス様! スサノオ様が神殿でウンコを漏らしました!」
「それはウンコではなくて、き、きっと、酒に酔っぱらってゲロっただけよ!」
「アマテラス様! スサノオ様が田んぼの畔(水田と水田のさかい)をめちゃくちゃにして、溝を埋めました!」
「そ、それは、耕したら田んぼにできる土地をああしておくのはもったいないと思ってしたことよ。たぶん、きっと、おそらく!」
「アマテラス様! スサノオ様が……!」
「あーもう! 弟も何か考えがあってしているのよ! 私はスサノオを信じるわ!」
といった感じで、アマテラス様も次第にストレスをためていったのじゃが、とうとう心優しい女神様がブチ切れるときが来たのじゃ。
ある日のこと、機屋(織物を織る建物)でアマテラス様が機織女に衣を織らせていた時、突然、
ドッカーーーーーーーンっ!!!
という、けたたましい音とともに屋根に大穴が開いて、みんなビックリした。
そして、なんとそこから皮を剥がれた馬が落っこちてきたのじゃ!(グロ注意!!) もちろん、犯人はスサノオ様じゃ。
「うぎゃぁーーーっ!!! す、スサノオぉーーー!!! 何すんのよぉーーーっ!!!」
機屋は大パニックとなり、不幸にも機織女の一人がこの騒動で死んでしまったのじゃ。哀れ……。
ついに死人が出てしまい、いままでスサノオ様の悪行三昧を我慢していたアマテラス様も激怒し、天岩戸という洞窟に引きこもってしまった。
太陽神であるアマテラス様が天岩戸に隠れてしまうと、高天原だけでなく人間たちが住む葦原中国までもが真っ暗闇となり、終わりのない夜が始まった。そして、邪神たちが騒ぎ出し、あらゆる凶事があちこちで起きたのじゃ。
「やばいことになった。さて、どうしよう」
われわれ神々が話し合った結果、「天岩戸の前で騒いで、アマテラス様を何とかして岩戸から引きずり出そう」という知恵の神・オモイカネの提案が採用された。
そこで登場するのが、うずめ――あんたじゃよ。
うん? そこから先の話はオモイカネからもう聞いとるのか? まあいい、ここまで話したのだから最後まで語ろう。
神たちが岩戸の前に集まって様々な儀式を行なったり、ニワトリをコケーと鳴かせたり、占いをやったりなどして、踊りが得意なうずめが着ている服がはだけるのも気にせず踊りまくったのじゃ。
……何? 自分はそんな破廉恥なことはしないじゃと? ノリノリじゃったぞ、お前さん。第一、それは別に恥ずかしいことなどではなく、神聖な儀式のようなものじゃから気にするな。
で、うずめの面白おかしい舞を見ていたワシら神々はドッと大笑い、その笑い声は天岩戸の中のアマテラス様の耳にも届いた。気になったアマテラス様はそっと岩戸をほんの少し開け、外の様子をうかがったのじゃ。
アマテラス様が岩戸から外へ身を乗り出したとき、怪力の神・タヂカラオがアマテラス様を引っ張り出し、天岩戸を封印した……というわけじゃ。
こうして、天地に太陽の光が戻り、スサノオ様は高天原から追放された。
めでたし、めでたし。
と思ったら、その直後にスサノオ様はオオゲツヒメ殺害事件を起こしたのじゃがな……。どこまでいっても問題児なお方じゃよ。
<雑談コーナー:うずめ×イシコリドメ>
イシコリドメ
「この話、児童小説向けにぼかした部分もあるが、神話の時代に実際にあったノンフィクションじゃからな?」
うずめ
「え!? これでぼかしてるの!?」
イシコリドメ
「くわしく知りたい人は、自分で古事記や日本書紀を読むか、ネットで調べてみい」
うずめ
「機織女の死因……」




