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うずめちゃんの神様days!  作者: 青星明良
第1巻 ウェディングドレスですよ、女神様!
15/67

14 消えた花嫁

ついにダブル結婚式……と思ったら、思わぬ事件が起きそうです。


それでは、続きをどうぞ!

 ダブル結婚式が行なわれる前日の夜。


 お父さんがお弟子さんたちの稽古を終えて、家の敷地内にある道場から戻って来ると、


「お父さん、お母さん。ちょっと聞いてほしいことがあるんだけれど」


 わたしはそう言い、二人をおどろかせた。


「どうしたんだ、うずめ。そんなあらたまって正座なんてして」


「落語でも始める気なの? うずめ?」


 お母さん。どこの世界に、親の前でいきなり落語を始める娘がいるのよ……。


「いや、そうじゃなくってさ。……ええと、その、あれだよ。……お父さん、お母さん。この年まで育ててくれて、ありがとうね。大好きだよ」


 わたしは、耳まで真っ赤にしながら感謝の気持ちを伝えると、「は、話はそれだけだから」と言い残して、ダッシュで自分の部屋に逃げた。


「は、恥ずかしかった~! でも、記憶を取り戻すための形だけの結婚式とはいえ、両親に『今まで育ててくれてありがとう』くらい、言っておきたかったし……」


 お父さんとお母さん、ぽか~んとした顔をしてたなぁ。


 ごめんね、二人とも。事情は話せないんだよ。


 アマテラス様が、わたしの両親も結婚式に紹介しようって言ってくれたんだけれど、思慮深い知恵の神のオモイカネが、


「自分の娘が神だと知ったら、うずめの人間の両親は激しく動揺する可能性があります。もし、今までの親子関係に変化が生じてしまったら、うずめがかわいそうでしょう」


 そう言って止めたから、その話はなしになったんだ。


 たしかに、お父さんとお母さんが、わたしが女神だと知った時の反応が想像できない。


 神社の家に生まれた鈴ちゃんとその家族ならまだしも、二人はごく一般人だし。


 わたしの正体を受け入れてくれたとしても、「神様だから」という理由で、わたしに対して遠慮をするようになる可能性もある。


「うずめ、また寝坊したのか? 早く準備しないと、遅刻するぞ?」


「うずめ。料理を手伝ってくれるのはうれしいけれど、また皿を割らないでね?」


 そんなふうに叱ったり、注意したりしてくれることがなくなるかもしれないんだ。


 それは、子どもとして、とてもさびしいから……。


「本当のことを言えなくてごめんね。これからも、二人の娘でいさせて?」


 わたしは、窓から見える三日月を見上げながら、そうつぶやくのだった。



            ☆   ☆   ☆




 翌日。運命のダブル結婚式の日。


「う……うずめさん! ここが、神様の国……高天原たかまがはらなんですか!? す、すごいです! すごいです! すんごぉーーーいですぅーーーっ!!」


 あらかじめ今日の結婚式のことをわたしから知らされていた鈴ちゃんは、わたし、猿田くん、それから神使しんしの半蔵、彦太郎と一緒に高天原に来ていたのだ。


 天のはしごは、原則、神様と神使しか利用できない(人間が登ろうとしたら、はしごが消えるらしい)のだけれど、今回はアマテラス様の特別許可がおりた。


「鈴という巫女の娘も、姉の結婚式を両親と一緒に祝福したいでしょう。いいですよ」


 で、今、鈴ちゃんは高天原の都の中にいるわけだけれど……。


 鈴ちゃんの「別人?」と疑いたくなるほどのハイテンションに、わたしは若干引いていた。


 冷静沈着でおしとやかな鈴ちゃんが、「すんごぉーーーいですぅーーー」なんて鼻息荒く絶叫するところ、生まれて始めて見たよ……。ていうか、できれば見たくなかった……。


鈴ちゃんは信心深い巫女さんだから、神様とたくさん会えてうれしいんだろうなぁ。


「うずめ。その子が、あなたの神社の巫女ですか?」


 星が流れる川の近くまで来た時、アマテラス様とトヨちゃんにバッタリ出会った。


「アマテラス様。お仕事は終わったのですか?」


 猿田くんがそうたずねると、アマテラス様はフッ……と笑った。


「ええ。ようやく……。久々に吸うシャバの空気は最高ですね……」


「アマテラス様。神様が、刑務所から出て来た人が言うようなセリフを言わないでください」


 わたしがそうツッコミを入れると、鈴ちゃんは「え?」とおどろき、


「こ、このかたが太陽神アマテラス様なのですか? さ……サインください!」


 アマテラス様にサイン色紙とボールペンを手渡した。……その色紙とボールペン、どこから出したの?


「いいですよ。さらさらさら~と。こんな感じでいいです?」


「ありがとうございます! 家宝にします!」


 普通にサインに応じる日本の最高神。もう何でもありだ。


「うずめさん、サルタヒコさん。式場の教会が完成しましたよ。見に行きます?」


 トヨちゃんがそう言うと、猿田くんが「おお! ぜひ見せてください!」と喜んだ。


「本当につくっちゃったんだ。オモイカネ、今ごろ怒っているんじゃないんですか?」


「ちょー機嫌が悪いですよ。教会のひとつやふたつ、高天原にあっていいじゃないですか。クリスマスとか、日本人の生活に溶けこんでいるのに。頭が固いんですよ、オモイカネは」


 ぶつぶつ言うアマテラス様に案内されて明治時代の街なみがある都のエリアに行くと、あんまり大きくはないけれど素敵な教会が美しい花々や木々に囲まれて建っていた。


「神父も必要だろうと思って、キリスト教世界から特別ゲストを呼んだのですよ」


 アマテラス様は、教会の前に立っていた、頭に天使のわっかをつけた男性を紹介してくれた。……何か、この人、学校の歴史の教科書で見たことがあるような……?


「日本にキリスト教を伝えた、フランシスコ・ザビエルさんですよ」


「ふ……フランシスコ・ザビエル!? すごい歴史の大物じゃないですか! そんな人が、よく来てくれましたね!」


 わたしがビックリすると、ニコニコと温和な笑みを浮かべているザビエルさんが言った。


「天国でお昼寝していたら、タヂカラヲという日本の怪力の神様に眠ったまま縄でしばられて運ばれて来たでござる。そして、目が覚めたら、ここにいたというわけでござる」


 それって、誘拐じゃないですかー! 何やってんのよ、あの怪力の神!


「タヂカラヲは、『あいつの脳みそは筋肉でできている』とウワサされるくらい、思考回路が体育会系ですからね。連れて来いと命令されたら、ぐるぐる巻きにしてさらって来ちゃうんですよ。あはは~」


 アマテラス様! あはは~じゃないですよ! ザビエルさんにあやまりなさい!


「あらあら。タヂカラヲさんったら、そんな乱暴な方法でザビエルさんをお連れしたんですか? それは申しわけありませんでした」


 変人奇人ぞろいの神様の中では常識人のトヨちゃんが、ザビエルさんにあやまった。


「いいえ。わたしは日本人のことが好きでござる。この結婚式の神父の役目、やらせていただくでござる」


 ザビエルさん、日本語の発音うまいけれど、なんで「ござる、ござる」言っているの?


 ……ああ、そうか。ザビエルさんが日本に来たのは戦国時代で、武士たちが活躍していた時代だからだね。



            ☆   ☆   ☆



「おーい! 花婿のオリバーと奏の両親を連れて来たぞ~!」


 ドタドタという騒がしい足音と、怒鳴り声が聞こえてきた。この声はタヂカラヲだ。


「な~んか嫌な予感がするなぁ~」


 ザビエルさんを乱暴に連れてきたタヂカラヲだ。オリバーさんや鈴ちゃんの両親も大変な目に……。いや、さすがにタヂカラヲでも、普通の人間相手にはそんなことしないか。


「むぐぐ~! むぐ~!」


 タヂカラヲは、右手にオリバーさん、左手に鈴ちゃんと奏さんの両親を軽々と持っていた。しかも、三人とも縄でぐるぐるとしばられ、口にはガムテープがはられていたのだ!


 嫌な予感、大・的・中!


「何やってんのよ! この脳みそ筋肉! あんたは誘拐犯か!」


「なんかさぁ、オレが『ヤッホー! 今から結婚式をするからついて来い!』って言ったら、ビックリして逃げようとしたんだ。だから、無理やり連れて来た」


 タヂカラヲは雲をつくような巨人だ。しかも、筋肉ムキムキ。そんなやつがいきなりあらわれて、わけのわからないことを怒鳴り散らして言ったら、だれだってビビるだろう。


「サルタヒコ。三人の縄をほどいてあげてください」


 アマテラス様がそう言うと、猿田くんは「はい」と答えて、三人の縄をほどき、口のガムテープもはがした。


「こ、ここは、いったいどこなんだ! あんたたちは、何者なんだ!」


「い、命だけは助けてください!」


 タヂカラヲにろくな説明もされていなかったらしく、鈴ちゃんの両親の雄介さんと栄子さんはパニックになっていた。オリバーさんもぼう然自失状態で口をぽかんと開けている。


「お父さん、お母さん。落ち着いて。ここは、高天原――太陽神アマテラス様の都よ」


「す、鈴? おまえもここに来ていたのか。高天原だって? 本当にそんな場所があったというのか……」


 タヂカラヲにかつがれて、天のはしごを登って高天原まで来たのだから、ここが普通の場所ではないことぐらい、雄介さんにも分かるだろう。雄介さんは、娘の言葉をおどろきながらも信じたようだ。


 鈴ちゃんは、両親が少し落ち着くと、わたしの正体やダブル結婚式について説明をした。


「ま、まさか、鈴の友だちがアメノウズメ様だったなんて……。しかも、奏のためにダブル結婚式をしてくれるというのですか? それはありがたい話です」


 もともと奏さんとオリバーさんの結婚には反対ではなかった栄子さんが、わたしに手を合わせて、涙ぐみながら言った。


「やめてください、栄子おばさん。わたしはこれからもずっと鈴ちゃんの親友なんですから」


 わたしはあわてて手を振り、そう言った。わたしの言葉に鈴ちゃんがうれしそうにほほ笑む。……そんなふうにいい感じだったのだけれど……。


「いくら神様でも、娘の結婚に口出しされるのは迷惑です。オレは結婚なんて認めません」


 雄介さんが、そう言い出したのだ。


「え!? わたしと猿田くんが『結婚オーケー!』って言っているのに、まだ納得しないの!?」


 雄介さん、言ってたじゃん! アメノウズメ様とサルタヒコ様が外国人との結婚なんて認めないって! わたしたちがオーケーって言ったら、雄介さんもオーケーじゃないの?


「つまり、あれだ。可愛い娘を嫁にやりたくない、というのが本音なんだろう」


 猿田くんがわたしに言った。


 そんなぁ~。せっかくここまで準備したのに~!


 鈴ちゃんも、雄介さんのあまりの頑固っぷりに、はぁ~とため息をついている。


「愛野雄介、よく聞きなさい。あなたはまちがっています」


 アマテラス様が、威厳のある声で急にしゃべりだし、わたしたちは「え?」とおどろいた。


「人間……いいえ、わたしたち神々でさえも一人では生きていくことはできません。人と人の運命的なつながり……えにしによってめぐりあい、絆を結んだ人たちと支え合って生きているのです。あなたも、妻と縁あって出会い、今まで夫婦で助け合って生きてきたのでしょう?」


「は、はい。それは、アマテラス様のおっしゃる通りです……」


 アマテラス様はいつにない真剣さで雄介さんを真っ直ぐと見つめ、語り続ける。


「奏とオリバーの愛もまたえにしによって結ばれた、かけがえのない絆なのです。それをあなたは、自分が気に入らないという理由で簡単に断ち切ってもいいのですか?」


「そ、それは……」


「親子、夫婦、恋人、友人……。どんな関係であろうと、縁あって結ばれた絆を大切にしない者は幸せになどなれませんよ。あなたは、娘を不幸にしたいのですか?」


「そんなことはありません! オレは奏に幸せになってほしいと願っています!」


 雄介さんがそう言うと、オリバーさんが雄介さんの前で正座をして頭を下げた。


「お父さん! 奏さんを必ず幸せにします! どうか結婚を認めてください!」


「む、むむむ……」


 雄介さんは唇をキュッと結び、しばらくの間、「むむむ」とうなっていたけれど、やがて、


「……分かった。結婚を認めよう。ただし、奏を泣かせたら、絶対に許さないからな」


 と、言ったのだ。


「やったー! よかったね、鈴ちゃん! お姉さん、これで結婚できるよ!」


「はい! うずめさん! アマテラス様、ありがとうございました!」


「ふぃ~。やっぱ、真面目な話をするとつかれるわ~。トヨちゃん、バナナジュースつくってぇ~」


 アマテラス様、早速、ぐーたらモードに戻って、トヨちゃんに甘えております!


「これでようやく、オレたちの二度目の結婚式ができるな」


 猿田くんもそう言って喜び、わたしの手をギュッとにぎった。


「ち、ちょっと! なんで急に手をにぎるのよ?」


「昔は、しょっちゅう手をにぎって、一緒に散歩をしていたじゃないか」


「だ~からぁ~、わたしはまだ記憶が戻っていないって……」


 みたいな感じで、わたしと猿田くんがさわいでいると、


「い、一大事です~! アマテラス様、一大事です~!」


 トブトリーナ2世が、大あわてでバサバサ飛んで来たのだ。


「トブトリーナちゃん、久しぶりコケ! 会いたかったコケ!」


「半蔵さん、ちょっと邪魔です!」


 何か知らないけれど急いでいるトブトリーナ2世は、彼氏の半蔵を足蹴りして吹っ飛ばし、アマテラス様の前に着地した。


「どうしたんです? いつも優雅なトブトリーナ2世らしくないですね」


「アメノイワト様が、結婚式のために奏さんを迎えに行ったのですが、そこにヨモツコという黄泉国の鬼があらわれて……奏さんをどこかへ連れ去ったのです!」


 ええ!? 奏さんが、ヨモツコにさらわれたの?


「アメノイワトは都の門を守る、強い神様なんでしょ? 奏さんを守れなかったの?」


 おどろいたわたしがそう聞くと、トブトリーナ2世は「戦ったけれど、負けてしまったみたいです……」と言った。


「アメノイワトは、無事なのですか?」


「はい、アマテラス様。今は高天原病院でケガの治療をしています。アメノイワト様の話によると、ヨモツコという鬼は、大量のけがれによって異常にパワーアップしていたそうです」


「急いで奏を助け出さなくては。黄泉国の食物を食べさせられたら、奏は黄泉国の鬼になり、葦原中国あしはらのなかつくににはいられなくなります」


 そ、そうだった! 黄泉国の鬼は、太陽がある葦原中国では生きていけないんだ!


 何とかしてヨモツコを見つけ出して、奏さんを救出しなくっちゃ!

<うずめの一口メモ>

神使の名前は主人の神様たちがつけているそうです。

トブトリーナ2世って、アマテラス様のネーミングセンス……。

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