13 笑う門には福来たる?
今回はナオビという新しい神様が登場します。
また、うずめの知られざる力(?)も判明します。
では、続きをどうぞ!
「神と人間がダブル結婚式なんて、とんでもない! 前代未聞だぞ! 前例がない!」
仕事をさぼってばかりのアマテラス様の監視をずっとしていてストレスMAX状態だったオモイカネが、とうとうプッツン切れて爆発してしまったようだ。今日出会った本物の鬼のヨモツコよりも千倍くらい恐い鬼の形相である。
「お、オモイカネ、落ち着いてってば。あんた、知恵の神なんだから、そんなつまらない常識にとらわれないでよ。神も人も恋をして結婚するんだから、何のちがいもないって」
「オレもうずめの言う通りだと思う。前例がないのならば、つくればいいだけだ。うずめとオレの結婚も、前例のない天津神と国津神の国際結婚だったのだから」
猿田くんがわたしの意見に賛成してくれた。猿田くんがわたしと同じ考えだと知ると、何だかうれしいような、ホッとするような、温かい気持ちになるから不思議だ。
「型破りな性格のうずめはともかく、おまえまでそんなことを言うのか、サルタヒコ。神と人間のダブル結婚式など、アマテラス様が許すわけが……」
「いいですよ」
「え!?」
「いいですよ、うずめ。やっちゃいましょう、ダブル結婚式」
「あ、アマテラス様、冷静になってください! いくら長時間労働で頭がつかれているからって、正気を失わないでください!」
「わたしは冷静ですよ。オモイカネこそ、ちょっとクールダウンしたらどうです? あんまり興奮すると、体に悪いですよ」
アマテラス様がそう言うと、オモイカネは「だれのせいで興奮していると思っているんですか……」とつぶやき、がくりとうなだれた。
「わたしたち神々の喜びは、幸福な人間の笑顔を見ることです。その奏とオリバーという人間が幸福な結婚をするために、われわれ神も力を貸しましょう」
「あ、ありがとうございます! アマテラス様も、たまにはいいことを言うんですね!」
「え? 今、何か言いました? たまには?」
「いえ、何でもありません」
い、いけない、いけない。余計なことを言っちゃった。
「そうだわ。せっかくだから、ウェディングドレスを着てみない? それで、高天原の都の中に教会をつくって、教会の鐘が鳴る中、式をあげるんです」
「あ……アマテラス様。そ、それは、さすがに……」
顔色の悪いオモイカネが、胃のあたりを手でおさえながら、死にそうな声で言った。そろそろ、オモイカネの胃に大きな穴が開くかもしれない。
「日本の神様が、ヨーロッパ風の結婚式をあげても怒られないんですか? 教会って、キリスト教でしょ?」
ウェディングドレスは着てみたいけれど、日本の女神がウェディングドレスで結婚式だなんて、それはさすがにやりすぎじゃないかと心配したわたしは、そうたずねた。
「日本で一番偉い神様のわたしがやろうって言っているんですから、だれも怒らないですよぉ。わたし、ウェディングドレスを着た女性を一度でいいから実際に見てみたかったんです。女の子だったら、だれでもあこがれちゃうじゃないですか」
そうですか。女の子ですか……。アマテラス様って、いったい何千歳……もしくは何万歳なんだろう?
それはともかくとして、わたし&猿田くん、奏さん&オリバーさんのダブルウェディングが行なわれることがめでたく(?)決定したのである。
☆ ☆ ☆
アマテラス様にダブル結婚式の許可をもらった後、わたしと猿田くんは、
「ちょっとお使いを頼んでもいいですか? いつもお使いをしてくれているトブトリーナ二世が、別の用事で葦原中国に出張中なもので」
と、アマテラス様に頼まれて、黄泉国対策係すぐやる課の神様たちが働いている建物に向かった。その建物は、現代の日本の大都会を再現した街のエリアにあるそうだ。
「うわぁ、立派なビル! ここが黄泉国対策係すぐやる課がある建物ね!」
「いや、ちがうみたいだぞ。その隣にある小さなプレハブを見てみろ」
猿田くんが指差した、ちょっと強風が吹いたら飛んで行ってしまいそうな建物を見ると、「黄泉国対策係すぐやる課」と書かれた看板がかかっていた。
「ぼ、ぼろい……」
「黄泉国の鬼たちの対策にあたっている役所が、こんなぼろっちい建物で大丈夫なのか?」
猿田くんが心配してそう言いながら、プレハブのドアを開けた。すると、
どささ~!
たくさんの書類が雪崩のごとくあふれてきて、わたしと猿田くんは、「ぎゃー!」と悲鳴をあげ、その雪崩にのみこまれてしまったのである。
アマテラス様も大量の書類に囲まれて大変そうだったけれど、ここはその数百倍だよ!
「すみません。大丈夫ですか? 書類の処理が追いつかなくって、こんなことに……」
建物の中から声がしたので、わたしは「い、いちおう……」と答える。
「あら? その声は、アメノウズメさんじゃないですか。お久しぶりです」
「ごめん。わたし、神様だったころの記憶がなくってさ。今は人間の女の子なのよ。……あなたはだれ?」
「記憶喪失? それはお気の毒に……。わたしは、穢れを払うエキスパートの神、直毘神です。ナオビとお呼びください」
ナオビの体は書類の山の中に埋もれてしまい、声は聞こえても顔は見えない。男か女かも分からない。でも、可愛らしい声で女の子っぽいしゃべりかただから、たぶん女の子だろう。
「穢れって、何なの? 服の汚れ?」
「ちがいます。穢れとは、黄泉国の世界にあふれている邪気です。その邪気を吸うと、神聖な力を持ったわたしたち神以外は、人も鬼も凶暴な性格になってしまうんです。他人を恨み、憎み、弱い者をいじめようという負の感情が芽生えて、悪いことをしてしまうのです」
そうなんだ。じゃあ、今日出会ったヨモツコも、黄泉国の穢れのせいで、あんなにもいじけちゃっているのか……。何だか、かわいそう。
「また、その穢れは黄泉国からあふれかえって、葦原中国にも大量に流れこんできます。それに、人間が落ちこんだり、怒ったりなどの負の感情を抱くと、その人間からも穢れが発生してしまいます」
「じゃあ、穢れって、わたしたち人間の身近にたくさんあるのね。それを浄化するのがナオビのお仕事ってこと? そいつは大変だねぇ」
「はい。毎日、毎日、穢れを払う仕事におわれ、挙句の果てに、イザナギ様がつくった結界が破れたせいで黄泉の国の鬼たちが日本全国に出没するようになってしまい……ご覧のありさまです。書類の山で窒息死しそうです」
ナオビはよほどつかれているのか、アハハ……と弱々しい声で笑った。
わたしの手元にあった書類を読むと、黄泉国の鬼の目撃情報やどこでどんな悪いことをしたかという情報が、ビッシリと記されている。
……小さい子のお菓子を奪ったとか、横断歩道を信号無視して渡ったとか、ジュースの空き缶をポイ捨てしたとか……。パッと見、けっこうしょぼいことばかりやっているみたいだけれど、中には「小学生の男の子に黄泉の梨を食べさせて鬼にしようとした」っていうものもあるから放ってはおけないのだろう。
黄泉の鬼にも、真面目に働いて(?)人間を鬼にしようとするヨモツコみたいなのと、しょうもないイタズラをして楽しんでいるナマケモノがいるのかな?
「この役所、ナオビ以外の神様はどうしたの?」
「こんなブラック企業みたいなところで働いていられるかと言って、みんな逃げてしまいました。わたしが一人で穢れや鬼の出現場所を調べ、一人で事件の解決をし、一人でアマテラス様への報告書を書いています」
う、うわぁ……。ナオビって、やっかいごとを友だちから押しつけられちゃうタイプ?
「そんな忙しい中、言いにくいんだけれどさ、アマテラス様から『今日の報告書まだできてないの~? 早く提出してよ~』って催促だよ。……大丈夫?」
「うふふ、うふふふ……。自分は仕事サボり魔のくせに、人使いは荒いんですよねぇ、あの太陽神様……。あと一時間以内に提出すると伝えてください。不眠不休で働いて今にも過労で倒れそうなナオビが報告書を届けに行きますとね! はぁ~。……自分の家に帰りたい……帰りたいよぉ……しくしく……。もう一週間以上、自分の神社に戻っていない……。ぐすっ、ぐすっ」
な、泣き出しちゃった……。オモイカネといい、ナオビといい、能天気でサボり魔のアマテラス様のまわりには苦労人が多いなぁ~。
「わ、わたしに手伝えることがあったら、言ってよ。人間になっちゃったわたしにできることがあるかは分からないけれどさ……」
「うう……ぐすっ。いいんですか? うずめさんは、昔と変わらず優しいんですね。……では、うずめさんの神社の近くで出没情報がある鬼の始末をお願いできますか? 一匹だけですので」
「それって、ヨモツコのこと? 始末って、こ、殺すの!?」
さらりと恐いことを言われ、わたしはビビった。
「そんな乱暴なことはしませんよ。鬼の体内にたまっている穢れを払ったら、鬼たちも大人しくなります。穢れを払い、黄泉国に帰るように言い聞かせてやってください」
「な、なぁ~んだ。ビックリさせないでよ。でも、穢れを払うって、どうすればいいの?」
「ワッハッハッハッ! ……こんな感じで笑えばいいと思います。ワッハッハッハッ!」
いきなり壊れたみたいにナオビが笑い出したので、わたしは(働きすぎで頭がおかしくなったんじゃ……)と心配になってしまった。
「……ナオビ、病院に行こう? あなた、つかれているのよ……」
「わたしの頭は正常ですっ! うずめさんは、笑いで邪気を吹き飛ばす神の力を持っているんですよ。『笑う門には福来たる』と言うじゃないですか。笑いには、魔を払い、福を呼ぶ効果があるんです」
「え? そうなの? マジで!?」
も、もしかして、わたしが昔から笑ったり、人を笑わせたりするのが好きだったのって、そんな神の力を持っていたからなのかしら?
「そうかぁ。笑うって、人を元気づけるだけでなく、そんなパワーもあったんだね。わたしの力でヨモツコを救えるのなら、試してみるよ」
あのヨモツコって子、根は素直でいい子だとわたしは思うんだよ。戦っている最中に、わたしのウソをあっさり信じちゃうんだもん。
鬼といっても、話し合えるのなら話し合いたい。仲良くしたい。
せっかく知り合えたのに、ケンカなんかしたくないものね。
あっ、でも、ヨモツコが今どこにいるのか分からないんだった。居場所が分からなかったら、穢れを払ってあげることもできない。……う~ん。どうしよう?
わたしはのんきにそんなことを考えていたけれど、ヨモツコはすぐに現れるのだった。
しかも、とんでもない大事件を起こして!
<うずめの一口メモ>
ナオビ(直毘神)は、本来は性別不明の神様なの。でも、この作品では(たぶん)女の子として登場しました。ただし、素顔を見せないので真相は不明!
<作者コメント>
ところで、角川つばさ文庫で人気の『いみちぇん!』という小説の主人公の名前が直毘モモちゃんといい、名前の由来となったのが「直毘神」だと思われます。
ミコトバツカイの「当主さま」となってパートナーの矢神くんとともにマガツ鬼という邪鬼を退治する――というストーリーなんですが(モモちゃんが漢字の知識を活かして戦うのがユニークであり、勉強になる)、作者のアキラはこの作品が好きで「直毘神=女子」というイメージができてしまっていたので、自分の小説でも直毘神は女(かも知れない)としました。




