9 失った想い
今回は、鈴のお姉ちゃん・奏の登場回です。
奏にはどうしても結婚したい相手がいるらしいのですが……。
では、続きをどうぞ!
あの後、わたしと猿田くんは、竜宮城みたいな宴会会場に連れて行かれて、宴会は大盛り上がりだった。
宴会に出てきたごちそうは、全部トヨちゃんの手作り。
日本の神様らしく和食料理が多かったけれど、トヨちゃんは人間界の最近の料理も勉強していて、ピザやパスタ、ハンバーグ、エビフライ、他にもたくさんの洋風料理があった。
「うおおお! な、何だ、このハンバーグというやつは? うまい! うますぎる! ピザも、パスタも、エビフライも、どれもこれも、ほっぺたがとろけそうだぁぁぁ!」
猿田くん、すっごくがっついています。何か、もう、全身全霊で食べているって感じ?
トヨちゃんの料理は、三ツ星レストランのシェフもかなわないような絶品ばかりなのだ。
でも、もうちょっと落ち着いて食べようよ。
ていうか、食べる時もお面は外さないのね。天狗の口から食べ物を放りこんで、むしゃむしゃと食べているせいで、お面はソースやケチャップがついてベトベトだ。汚いなぁ~。
「サルタヒコ。飯ばかり食っていないで、面白い芸でもやってくれよ。……ぜんぜん聞いてねえな……。よぉし、だったらオレが葦原中国で大人気のアイドルグループのダンスを踊るぜ!」
タヂカラヲがそう言い、神使の動物たちをバックダンサーにして、学校の女子たちに人気のAZARASIのダンスを踊り出すと、わたしは笑いころげてしまった。
大男のタヂカラヲがリズムをとって足を踏み鳴らすたび、
ドスーン! ドスーン! ドッスーーーン!
と、宴会会場が揺れるのだ。ビックリした神使たちは、ずっこけてしまっている。
しかも、音楽とダンスのタイミングがぜんぜん合っていなくて、アイドルのダンスというよりは、盆踊りみたいだった。
「あははは! へったくそだなぁ~。わたしにかわって!」
テレビでAZARASIのダンスを何度も見て、わたしは、完全にマスターしている。歌ったり踊ったりするのは小さいころから大好きだったし、チアリーディング部に所属しているおかげで、ダンスは得意なのだ。
「さすがは芸能の女神、アメノウズメだ! 相変わらず、キレッキレなダンスだぜ!」
わたしが、自分なりのアレンジを加えながらリズムに乗って踊ると、タヂカラヲが大喜びして拍手してくれた。アメノイワトたち他の神々も、やんややんやの大盛り上がりだ。
最初は、へんてこな神様たちに捕まってしまって困ったなぁとか思っていたけれど、タヂカラヲやアメノイワトたちともすっかり仲良しになっていた。わたしのライフスタイルは、
「出会った人はみんな友だち!」
なのだ。だって、もしもわたしが高天原にこうして来なかったら、アマテラス様、トヨちゃん、オモイカネ、タヂカラヲ、アメノイワトたちとは知り合えなかったんだよ? まあ、もともと友だちだったという話だけれど、わたしはそんなこと覚えていないし。
自分の人生の選択次第では会えなかったかもしれない人と、こうしてめぐりあえている。
それって、とても素晴らしいことで、奇跡と言っていいと思う。だから、この奇跡に感謝して、めぐりあえた人との友情をわたしは大切にしたいのだ!
☆ ☆ ☆
「……というわけで、神様たちと友情を温め合っていたら、ついついエキサイトしちゃって、こんな時間に帰って来ちゃいました。ごめんなさい……」
神社の滝の前でずっと帰りを待ってくれていた鈴ちゃんに、わたしはあやまった。
あたりは真っ暗。完全に夜だ。家に帰ったら、お父さんとお母さんに怒られちゃう……。
「気にしないでください、うずめさん。わたしはあなた様にお仕えする巫女ですから。うずめさんのご両親には、『うずめさんは、うちに遊びに来て、突然お腹が痛くなり、腹痛がおさまるまで休んでもらっています』と電話で連絡しておきましたので」
「鈴ちゃん、ナイスフォロー! ありがとう! ……あっ、でもさ、鈴ちゃん。ひとつだけお願いがあるの」
「はい。何でもおっしゃってください」
「鈴ちゃんは、わたしの親友だからね。女神様だろうが何だろうが、わたしにとって鈴ちゃんは、大切な幼なじみなんだよ。そんなふうに上下関係をつくったら嫌だよ」
鈴ちゃんの「あなた様にお仕えする巫女」という言葉がどうにも引っかかったわたしは、真面目な顔をしてそう言った。
「……ありがとうございます、うずめさん。そうですね、わたしたちは親友です。わたしは、うずめさんが神様ではなくても、優しいあなたのことが大好きです」
「うん! わたしも、鈴ちゃんのこと、大好きだよ!」
あまり自分の気持ちをストレートに出さない鈴ちゃんが、恥ずかしそうに頬を赤く染めながらそう言ってくれたので、わたしはうれしくなって鈴ちゃんの手をにぎった。そんな時……。
「……む? 近くで、怒鳴り合う人の声が聞こえるな。何だ? ケンカか?」
鈴ちゃんの家のほうから声が聞こえてきて、猿田くんがそうつぶやいた。その直後、
ピカーッ!
と、猿田くんの体が青白く光ったような気がした。
わたしは、「え?」と驚いて見直したけれど、光はすでに消えている。
「猿田くん。さっき、光らなかった?」
「ああ。さっきまで人間にオレの姿が見える『顕現』の状態だったのだ。だが、人の声がしたので、『隠形の術』を使い、人間には姿が見えないようにしたんだ。山伏のかっこうをした人間が暗闇からあらわれたら、不審者とまちがわれる恐れがあるからな」
天狗のお面をかぶっている時点で、すでに不審者なんですけれど……。
人間に姿を見せるのが、「顕現の術」。姿を消すのが、「隠形の術」。
つまり、普段の神様は「隠形」の状態。人間たちにお告げをしたり、猿田くんみたいに人間に化けて人前で行動を取ったりする時は「顕現」の状態になるっていうことかしら?
……ていうか、姿を消して人間には見えなくなっている神様が見えちゃっている時点で、わたしは普通の人間じゃないという事実に今さっき気づいてしまった……。
巫女の力がある鈴ちゃんにも、猿田くんは見えているみたい。でも、わたしは巫女の血筋じゃないもんね。つまり、わたしって、やっぱり……?
わたしがそんなことを考えている間にも、ケンカする声はだんだん大きくなっていった。
「あの声は……お父さんとお姉ちゃんの声です」
「え? 鈴ちゃんのお父さんと奏さんがケンカしているの? あの仲良し親子が?」
わたしはおどろき、こいつはただごとじゃないなと考えて、いても立ってもいられなくなった。「行ってみよう!」と言い、走り出した。
☆ ☆ ☆
「神主の娘が外国人と結婚だなんて、とんでもない! オレは絶対に認めないぞ!」
「神社の家の子どもが国際結婚したらいけないだなんて、頭が古くさすぎるよ! わたしは、オリバーと結婚したいの!」
「ダメだ! ダメだ! だーめーだ! おまえはこの家の長女なんだぞ。婿入りして、この神社の神主になってくれる人を探しなさい!」
「お父さん、話を聞いてください。僕は真剣に奏さんとお付き合いを……」
「君に『お父さん』と呼ばれる筋合いはない! 黙っていろ!」
う、うわぁ……。何だか、どえらいことになっているみたい。
家の玄関の前で、鈴ちゃんのお父さんの雄介さんが、奏さんとその彼氏らしい金髪の外国人男性をガミガミ叱っているのだ。
「オリバーにひどいことを言わないでよ! お父さんの分からず屋!」
「分からず屋でけっこう! 話はこれで終わりだ! さっさと、オリバーソースだかオリーブ油だかよく分からない名前のやつを神社の外に出せ!」
「僕はオリバーです!」
「うるさい! どっちでもいい! 早く出ていかないと、塩をまくぞ!」
雄介さんが、ものすっごい剣幕で怒鳴るものだから、オリバーさんはすっかりおびえて、顔が真っ青になってしまっている。
「オリバー、もう行こうよ! お父さんとどれだけ話しても、ムダなんだから!」
奏さんは、オリバーさんの腕を引っ張り、家から出て行った。
「……あら? 鈴、それに、うずめちゃん。こんなところで、何しているの?」
参拝客用駐車場の近くの大きな木に隠れて家の様子をうかがっていたわたしたちは、オリバーさんを引きずるようにして近づいて来た奏さんに見つかってしまった。
奏さんとオリバーさんには、猿田くんの姿が見えていないようだ。もし見えていたら、「うわぁ! 天狗のオバケだぁ!」とおどろくに決まっている。
「今度、クラスのみんなとこの神社で肝試し大会をするから、その準備をしていたの」
ポーカーフェイスの鈴ちゃんがスラスラと話をでっち上げて、奏さんは「ふ~ん」と納得した。奏さんはおおらかな性格だから、だいたいのことは「ふ~ん」で済ませてしまう。
そんな奏さんが、父親の雄介さんに猛反抗してでもオリバーさんと結婚しようとしているのだ。奏さんのオリバーさんに対する愛は、だれがどう見ても本物だよ。
それなのに、雄介さんはなんで分かってあげないのかなぁ。
「お姉ちゃんは、結婚のことでまたお父さんとケンカしたの?」
「うん……。オリバーとの結婚をなかなか認めてもらえなくってさ」
「ごめんな、奏。僕がしっかりしていないせいで……」
「オリバーがあやまることはないのよ。悪いのは、頭の固いお父さんだもん」
二人とも、おたがいのことを想い合って、愛し合っているんだなぁ。何かうらやましい。
「オリバーさんって、日本語ペラペラなんですね」
わたしがそう言うと、オリバーさんはうれしそうにニコリと笑い、
「日本の大学に留学したころは、日本語はまだ苦手だったんだ。でも、たまたま同じ講義を受けていて知り合った奏が、僕にたくさんの日本語を教えてくれたんだよ」
なーんて、のろけたのでした。ひゅー、ひゅー!
「わたし、あきらめないよ。オリバーと絶対に結婚する。だって、愛しているもの」
奏さんまで、ひゅー、ひゅー! 熱いねぇ!
わたしがそんなふうに思い、二人のあつあつカップルをうらやましげに見つめていると、
「あの二人は、昔のオレたちに似ている」
姿を消している猿田くんが、そうつぶやいた。
「似ているって、わたしと猿田くんが、奏さんとオリバーさんに? いったいどこがよ?」
わたしが、奏さんとオリバーさんに聞こえないように、小声でそうたずねた。
「オレたちも国津神と天津神という住む場所がちがう者同士の結婚だった。最初は、二人の結婚に反対する神々も少なからずいた。だが、うずめが神の地位を捨ててでもオレと結婚すると言い出し、その言葉に感動したアマテラス様が反対している神々を説得してくれたのだ」
そういえば、知恵の神のオモイカネが言っていた。アメノウズメとサルタヒコの結婚は、当時では国際結婚のようなものだったって。
……もしも、わたしが、本当にアメノウズメだったとして……。
自分も、奏さんがオリバーさんを愛しているように、猿田くん――サルタヒコのことを愛していたのかな。神様をやめてでも結婚したいと思うほど、大好きだったのかな。
そんな大切な想いを失ってしまっているのだとしたら……とても悲しいよ。
わたしは、何だか胸が急に切なくなり、右手で自分の胸をそっとおさえた。
<うずめの一口メモ>
ちょっとずつ恋愛要素(と言えるのか?)も入ってきて、次回に続きます!




