『黒歴史ノート』 ~直哉の章~ 其の一
『ベータ』の拠点の一つを攻略した俺は、近くの町へと戻っていた。
先ず俺がやるべき事は、妹・・・火燐こと、香織と合流する事だ。
しかしこのゲームには、フレンドチャットというものが存在しない。
いや、存在はするのだが、それは『ウインドチャット』という魔法としてなのだ。
俺と香織は、当時、隣り合ってプレイしていたので、その魔法は必要なかった。
「こんな事ならば、風魔法の習得を薦めておいた方が良かったな。」
とりあえず出来る事は、拠点として使っていた町に行く事だったが、そこでも合流は出来なかった。
ならばと思い、『ベータ』の拠点を攻略して回るという選択肢を取った。
これならば、『ベータ』の進行状況を見た香織が、俺が攻略している事に気が付き、いずれ合流できるだろう。
幸い、『ベータ』の拠点の情報は、町等で情報収集すれば簡単に手に入る。
しかし、合流出来たとして、最後の拠点のボス・・・『ガーディアンベータ』は攻略出来るのだろうか?
『ガーディアンベータ』は、『ファンタジースターオンライン』がサービス中一度も攻略されなかったボスだ・・・
まあ、考えていても仕方がない。
俺は、休息を取り回復アイテム等を準備すると、次の拠点を目指した。
「次の拠点は・・・この村の先の筈だ。」
前の町から半日程歩いて、漸く小さな村に到着した。
もう、陽は傾きはじめている。
「今日はここで休ませて貰おう。」
当然、こんな小さな村に宿屋なんて無い。
俺は、一番大きい家・・・たぶん村長の家と思われる家の扉を叩いた。
コンコンコン・・・
「すみません、旅の者ですが、陽も傾いて来たので、一晩泊めていただけないでしょうか?」
がちゃ
扉が開き、白い髭を蓄えた老人が姿を現した。
「おお、何も無い処ですが、どうぞゆっくりしていって下さい。」
と、中に招き入れてくれた。
「この部屋を使って下され。」
聞くと、旅の方にこの部屋を使ってもらっているとの事だった。
「ありがとうございます。これは、少ないですけど・・・」
俺は御代として、幾らかばかりのお金を渡した。
荷を解き、部屋で休んでいると、扉がノックされた。
コンコンコン
「騎士殿、少し話を聞いては下さらんか?」
ピコーン
と、システムメッセージを受信した音が鳴った。
「どうしましたかな?」
「あ、ああ・・・すみません。」
「話とは?」
当然、村長にはピコーン何て音は聞こえる筈が無いわけで・・・
確認するとクエストが発生して、内容が確認できるとのメッセージだ。
クエスト名『竜の花嫁』
内容 竜にさらわれた村長の孫娘の救出。
報酬 10000メメタ+村の宝
見た事が無いクエストだ。
恐らく、メインのストーリーに絡むクエストではないサブクエストの類で・・・
・・・しかも、隠しクエストなのではないだろうか?
「騎士殿、実はうちの孫娘が竜にさらわれまして、助けて欲しいのです。」
「当然、出来る限りの報酬は払います。なにとぞ・・・なにとぞお願いします。」
パソコンの画面ならいざ知らず、こうして目の前で頼まれると断りずらい感があるな・・・
それに、隠しクエスト・・・興味がある。
正直に言うと、村の宝・・・というのにもだ。
「分かりました。詳しく話を聞きましょう。」
(クエスト『竜の花嫁』を受託しました。)
システムメッセージがそう告げた。