*気づいた気持ち*
火曜日朝
2日間降り続ける雨音が、桜井の泣き顔と大嫌いの声を呼び起こさせ、胸の痛みは和らぐどころかますます酷くなった。
学校には行かなきゃ
そう思い起き上がり、着替えてリビングに向かう
朝食を食べる気分にはとてもならず洗面所で適当に身支度してすぐに家を出る
桜井と橘に会わなきゃいけないと思うと気が重いが、
これ以上部屋にとじ込もっていたらどうにかなりそうだった。
***
学校に着き、教室に入る。
いつもの登校時間より1時間早く、教室には誰もいなかった。
自分の席に座り、窓際の桜井の席の方を見る。
昨日までとはうって変わって今日は快晴で
窓からうっとおしいくらい明るい光が溢れてまぶしい。
俺の前の席からあの席へ戻っていく桜井をふと思い出す。
まだあれから1週間も経っていないのに、すごく昔のことのようだった。
がら
うしろの教室のドアが開く音がして振り向くと
桜井が立っていた。
一瞬合った目をすぐそらし、探し物をするようにかばんの中をあさるふりをした。
遠ざかると思っていた足音が途中で止まる。
「坂本」
桜井のちょっと震えた声。
でも振り向いたら負けな気がして、ばれるのを分かっていながらも聞こえないふりをする。
ふーっと息を吐く音が聞こえた。
そして、
「わたし、健人くんに告白されたの」
一昨日の話だと思っていた俺は、突然の告白に手の動きが止まってしまった。
「今日昼休みに返事するつもり」
桜井の声が後ろから遠くに聞こえる。
「坂本、わたしやっぱり…」
桜井の声は教室のドアが開く音と颯太の声に遮られた。
「坂本ー!お前日曜のカラオケ代払え…よ?」
振り向くと颯太が桜井と俺を交互に見て気まずい顔をしていた。
「なんでもねーよ。で、わりぃ、いくらだっけ?」
何事もなかったかのように颯太に話しかける。
颯太はちょっと戸惑って、でもすぐにえーっととかいいながらかばんをあさった。
桜井の視線を感じたが、次に見たときは桜井も自分の席に座ってなにやら書いていた。
やっぱりの続きが気になるが、
告白の返事をすると聞いた後でやっぱり仲直りしたいなんて言われたらまた桜井を傷つけてしまったかもしれないし、これでよかったのだと思う。
授業は耳に入らず、あっというまに昼休みになる。
昼休みは颯太たちとサッカーに打ち込み、余計なことは考えないようにした。
誰かと何かをしていないと、桜井と橘を探して邪魔をしてしまいそうで怖かった。そうしたら結局傷つくのは俺なんだ。
桜井のことになると最近俺は自分を見失ってしまう。
ドッチボールの後も
キスも
そのあとの態度も
素直になれなくて
結局それで桜井を悲しませてしまうんだ。
橘みたいに好意を素直に表に出せたら違っていたのだろうか。
***
放課後
部活が終わり下駄箱に向かう。
すると向こう側から部活を終えたバスケ部がなにやら話しながらやってくる。
「聞いた?健人のこと」
「あぁ。でも俺絶対2人は付き合うと思ったけどなー」
「だよなーなんでだめになったんだろう」
彼らの話を理解するのに数秒かかった
だめになった?
誰が?
橘と…
桜井?
俺は彼らの横をすり抜けてとにかく走った。
すると体育館の前に1人座る橘を見つけた。
「おい!」
橘が俺をみる。
「だめになったって…どういうことだよっ……。もしかしてお前桜井のこと……」
よく考えたら橘は俺のこと知らないはずなのに、息を切らしながらの俺の言葉に橘は一言、
「俺が振られたんだ」
とつぶやくように言った。
「は?」
「なんとなく分かってた。桜井の目は俺になんか向いてなかった。見てたら、分かる」
橘の言葉が理解できずに、思考が停止する。
「好きだって気付いた人がいるって」
桜井が好きな人……
橘以外に?
「嫌われちゃったけど、やっぱりその人じゃなきゃだめみたいって、そう言われたよ」
""「やっぱり…」""
今朝の桜井の声がよみがえる。
嫌われた?
まさか…
まさかその人って……
でもあいつ大嫌いって……
はぁー
橘が大きくため息をつく
そして立ち上がると硬直している俺に背を向けて
「行けば?」
とだけ言うと体育館の裏に消えた。
橘の最後の一言に、頭が混乱する。
桜井が橘の告白を断った…
俺のことが
好きだから……
まさか……
体が熱くなる
無性に桜井に会いたくなった
体育館は空
下駄箱は…
2年1組17番………
上履きが入っていた
「くそ!なんで今日に限って早いんだよ!!」
俺はその上の自分の下駄箱から靴を乱暴に取り出し、無我夢中で駅に向かって走った。
しばらく走ると、前に桜井の後ろ姿が見えた。
桜井の隣には須崎がいて、その上まだ周りにちらほら同じ制服がいたが、
桜井の顔がみたくて、
声が聞きたくて、
自分の想いを伝えたくて、
きづいたら、
桜井の手を取って、
駅とは逆方向に走っていた。
「亜紀!?」という須崎の声、周りの視線なんて
どうでもよかった
桜井も
「ちょっと坂本どうしたの!?」
と戸惑った声を上げたけど、
その後は何も言わずに
手を話さずに付いてきてくれた。
それが嬉しくて
俺はその手をいっそう強く握り、走り続けた。