*好きだよ、*
家に帰って自分の部屋の電気をつけて、ベッドにダイブする。枕に顔を埋めてさっきまでのことを思い返し、恥ずかしさと嬉しさで叫び出したくなる。
同じ姿勢で泣きじゃくった日曜日の夜が嘘みたい。
日曜日、会いたくて仕方がなかった坂本が屋上に来てくれて、キスされて、心から嬉しくて坂本がすきという気持ちで胸がいっぱいになったのに、直後引き離されて、自分だけだったのかと悔しくて悲しくて、想いと正反対の言葉を坂本にぶつけてしまった。家に帰って後悔と悲しさで涙が止まらず、でも泣けば泣くほど坂本が好きでたまらなくなる。そして火曜の朝告白することを決意したものの坂本の冷たい態度に心が折れてしまった。愛奈の励ましも耳に入らないくらい落ち込んでいたところに、あれ。
坂本に好きだと言われた時、嬉しくて泣きそうだった。キスして、手を繋いで駅まで帰って、一緒にいられることが本当に幸せだなあと思った。
目を閉じると、真っ赤な顔でちょっと目を逸らした坂本が浮かんで、顔が熱くなる。その夜は一人余韻に浸った。
***
翌朝教室に入ると、ニヤニヤして寄ってきた愛奈に、ベランダで報告。愛奈はすごく喜んでくれて、「亜紀にもついに彼氏かー」とまたニヤニヤされて、頬が熱くなる。慌てて愛奈から視線をそらし教室の中を見ると、坂本はいつもみたいに友達と談笑していて、その姿に自然と笑みがこぼれる。「のろけさん授業始まりますよん」と歌うように言って教室に入る愛奈に「もうー」と言ってわたしも続く。するとふと坂本と目が合ってどうしようとどぎまぎしていたら、すぐ目を逸らされてしまった。4時間目までずっとそんな調子で、こんなにも一緒にいたいって思うのはわたしだけなのかなと思ってしまう。
昼休みもすぐ男子とどっか行っちゃって、一緒に食べるのかなとちょっとでも期待した自分がバカみたいに思えた。
なんだか悲しくなって元気がない私を愛奈は心配してくれたけど、こんなことで元気がないなんて恥ずかしくて愛奈にでもとても言えない。でも愛奈は多分分かってて、「自分から行けばいいのに。自信持ちなよ♪」とだけいって他の話題に切り替えてくれた。
「プリンでも買いにいこっか」と笑顔で言う愛奈にあんまり食欲はないけど、心配かけたくなくてついていく。
売店でプリンを買う愛奈を待っていると、健人くんに会ってしまった。この前断ってしまった手前気まずくて焦るわたしに健人くんは普通に「よっ」て挨拶してくれて、「気にすんなよ。これからも友達でよろしくな」って言ってくれて、その優しさが嬉しいけど申し訳なくて、応えようと笑顔で「うん」と答える。
***
教室に戻るともう坂本はいて、目はまたすぐに逸らされる。こんなんじゃ恋人以前に友達にも戻れてないじゃん。昨日のはなんだったのとついふてくされてしまったわたしに愛奈は「亜紀は素直だねー」と呟く。
「え?」
「まああっちもある意味素直かな」
頭の上に?がのっかるわたしに愛奈は
「絶対大丈夫だよ」
と楽しそうに言うと席に戻ってしまった。
***
部活後、「彼氏とご飯なの」と楽しそうに先に帰った愛奈に少し遅れて校門にむかう。すると門の横に寄り掛かって坂本が立っていた。その姿にどきどきする心臓を落ち着かせながら、坂本に近づいた。
坂本はちらっとわたしをみて、ぼそっと「帰ろ」と呟くと歩き出した。嬉しくて「うん!」と言って坂本を追いかける。どきどきしながら隣を歩く坂本を見ると、坂本の顔はほんのり赤くなってて、自分だけじゃないことにすごく嬉しくなる。しばらく沈黙が続いたあと、坂本がはあーと大きく溜め息をついた。
「ごめん」
「え?」
「なんか桜井見ると、緊張する……から今までみたいにうまく話せなくて」
見ると坂本は耳まで真っ赤で、つられて自分の耳も赤くなるのが分かった。
「わ、わたしも……坂本見るとどきどきするよ」
「ほんとに?」
「うん。今すごく……嬉しくてどきどきする」
2人の手の指先がほんの少し触れる。
みつめあった坂本の顔は真っ赤で、すぐに視線は逸らされたけど、手が握られた。
「あ、のさ……」
歩き出した坂本が前を向いて言う。
「名前……で呼んで……くんない?」
名前?雄也て呼べってこと!?4年以上も坂本て呼んできたわたしは恥ずかしすぎて
「無理!今更……恥ずかしい!」と言って頭を横にぶんぶん振った。すると坂本はそっぽをむくと、
「お前、橘のこと名前で呼んでるじゃん…」
と消えそうな声でぼそっと呟いた。
その言葉に驚いてつい足を止める。
「え…」
「だから!お前橘のことは健人くんて呼んでんのになんで俺はだめなんだよっつてんの!」
そう坂本は早口で言うと早足で歩き出した。
もしかして…嫉妬?
繋いだ右手が熱い。嬉しい。
「嫉妬?」
半歩先を歩く坂本に言うと坂本はぱっと振り返って真っ赤な顔で「そーだよわりいかよ!」っと叫んでぱっと手を離すとどんどん歩いていってしまった。
自分の好きの方が坂本の好きより大きいのかと思ってたけど、坂本もそんなふうに思ってくれてるんだ。すごく嬉しくて嬉しくて、思わず走って前を歩く坂本の腕に抱きついて
「好き!……………雄也」と言った。最後は恥ずかしくて消えそうな声で言ったのに、坂本までさらに真っ赤になって、
「俺も……好きだよ、亜紀」と消えそうな声で言った。
自然とみつめあったわたしたちの影は夕焼けの光の中、重なった。
ずっとずっと
好きだよ、
完




