発見 (8)
「三十年ほど前に第三次世界大戦があっただろ? あぁお前はまだ生まれてないか。
過去のどの戦争より大きかったあれは、当然この国も巻き込んだ。隣国でもない他国の奴らがこの国を荒らして行った。
戦前は真っ当な政治家たちが国を治めていたんだが、戦争の混乱の最中居なくなった。代わりに残ったのは性根が腐った奴ばっか。多分そいつらが有能な人間を消したんだろう」
「それからが本当に酷かった」
「一応俺の村、大戦前は平和に暮らしてたんだよ。疫病は流行らないし、飢饉は起こらない。金は無いけど、ただのんびり農耕してゆったりと暮らしていた。
なのに大戦のあとは、畑は焼け野原。家は炭と灰で、とてもじゃないけど人が住める建物じゃない。まぁ、住む人もかなり減ってたんだけどな。大して裕福でない村を荒らしただけじゃ物足りなくて、火を放ったんだろう。
俺は当時まだガキだったから、この暮らしが当然なんだって思ってた。生まれたときからそんな生活なら、誰だってそう思うだろ。
でも気づいたんだよ。本当の『普通』の暮らしを。きっかけはほんの些細なことだったが」
「ある時に国のエラいヤツが俺の村にやってきた。全ての村を調査のために周ってるとか言って。ヤツは村全体を見て言ったんだ。
『この村はいつまで経っても汚いな』
『どの村よりも復興が進んでいない』
『こんなことなら全員死んじまえばよかったんだ』
その言葉を聞いた村人は全員怒り狂ったようにヤツを殴り殺した。それが引き金になって今までの不満が爆発したんだ。もちろん役人を殺した俺たちを放っとくような国じゃない。近隣の村を巻き込みながら内戦が激化していったんだよ」
モハメドの話を瀬十菜は静かに聞いていた。最後の方は何か隠したい事があるかのような話だった。
モハメドが話し終わってしばらくしてから、瀬十菜は口を開いた。
「話してくれてありがとう」
「お前が聞きたいって言ったんだろ」
長い沈黙が訪れた。
ずっと何かを考えていたようで、やがてモハメドはじっと布越しに傷を見ながら言った。
「あいつは元気か?」
「誰のこと?」
急に聞かれて誰の話か分からない。
「悪魔のガキ」
その言い方に瀬十菜は顔をしかめた。
「彼ならうちで保護してるからなんの心配もない」
返す言葉はつっけんどんになってしまった。瀬十菜の表情を読み取ってモハメドは、一言「すまん」と謝った。
「あいつは俺の近所に住んでるガキだったんだ。よく面倒を見てたんだが、ここ数か月で人が変わったようだな。昔は大人しかったのに、物を壊すだの周りの子供が骨を折られただのよく聞くようになった。まあ女たちが噂していた話はほとんど嘘だがな」
モハメドのテントから出て瀬十菜が向かった先は、兄のところだった。声を掛ける前に雄飛は気付いたようだ。
「何か用?」
「帰ることにした」
「そう」
瀬十菜との会話が無かったかのように、雄飛は瀬十菜の前から立ち消えた。
そして瀬十菜は自分のテントへと歩いていった。
ご無沙汰しておりました。