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三話

 初仕事でおじさんの娘を治したあたしは、半透明になって、ゆっくりと他の街まで飛んでいく。

 ルールってわけじゃないけど、あまり同じ街で契約者を探さないほうが良いと習ったもんね。


 数日飛んでいると、丘の上に豪邸(ごうてい)のある街に出た。

 豪邸の中からは、なんだか良質な魂の匂いがする。


 よーし、今度はあそこに行ってみよう。



 豪邸の塀を飛んで越えて、お屋敷の正面玄関の前に来た。

 ちょうど、お屋敷の中に入っていく黒い燕尾服(えんびふく)のおじさんを見つけたから、透明になってこっそりとついていった。

 潜入成功だ。


 おじさんと別れ、赤い絨毯(じゅうたん)の敷かれた豪華な廊下を歩く。

 窓から差し込む月光が廊下を青白く染めていて、ちょっぴり綺麗。


「まったく! 主人の意図も汲(く)めん無能な能無しばかりだな! この屋敷にはクズしかおらんのか!」

「申し訳ございません、旦那様。…犬を、差し向けますか?」


「…だから!!――それも含めて意図を汲めと言っておるのだ!!」


 なんか、すっごい怒鳴り声が聞こえてきた。こっちの部屋かな?


 扉の中の魂の様子を見てみると、二つの魂があった。

 一つは煮えたぎってる感じだけど芯があって質の良い魂。

 もう一つは、こっちも良い感じだけど、なんだかぐんにゃりしてて揺らいでる。


 これは、契約の出番かな?


「もう良い!……ワシの寝室に奴隷のレイナを呼べ。それと、今夜はワシの部屋に誰も寄せ付けるなよ」

「承知しました」


「こんばんはー! お喚(よ)ばれはされてないけど、悪魔のリズリリスだよ!――汝(なんじ)の魂を贄(にえ)として、お願いを叶えるよ。魂の質(しつ)によって叶う範囲はあるけどね!」


 部屋の扉が開いたので、開いたのと同時に挨拶をしながら中に入ってみた。

 部屋の中にいた、頭の上の髪が無いおじさんと、でっかい男の人が驚いた顔をしてる。


「だっ、誰だ貴様は! 曲者(くせもの)か!」


 扉の近くにいたおじさんが、跳び上がるようにあたしから離れていった。あたし、怖くないのにな。

 でっかい人は口を開けたまんまだし、驚かせちゃったなあ。


「曲者じゃなくて、悪魔だよ! 贄とする魂の質に応じて、あなたの願いを叶えるよ?…ほら、悪魔でしょう?」


 魂を見れない人間さんには、どうも一目で信じてもらえないみたい。

 説明しながら、空間のポケットに手を入れて穴から鎌を取り出した。


 あたしの近くにいたでっかい人に、伸ばした鎌の刃を向けてみる。


「――ヒッ」

「分かった!…分かったから、しまえ!」


「そう? 良かったあ。……それで、どうする? 契約する?」


 目をぱちくりとさせた二人の人間さんは、目を合わせた。

 おじさんが、口の端をゆがめて笑い始めた。


「ふは。ふほっはっは! 悪魔か、悪魔が来たか!……おい悪魔。その契約とやらは、何でも叶うのか?」

「うん。魂の質に応じて、何でも!」


 おじさんはなんだか楽しそう。だけど、でっかい人は黙ったまま。んー。

 おじさんが、あたしに向かって近づいてきた。


「おい、それは我が国の国王も殺せるのか?」

「うん、大丈夫だよー」

「ほうほう。贄はそこにいるローランドでも足りるのか?」


 おじさんに指を差された、でっかい人の肩が跳ねた。

 当然、十分足りてるのであたしは笑顔で答える。


「もちろんだよ!」


「そうかそうか。ローランド」

「ヒッ…お、おやめください。旦那様」


 でっかい人の魂が、すっごく揺れてる。


「契約しろ。ローランド。貴様、母の薬が必要だったよな? ワシが貴様を見捨てたら、どうなると思う? なに、心配するな。二人の面倒くらいはワシが見てやる。――分かるよな?」


 でっかい人が、ぶるぶる震えたまま、震える口から、絞り出す感じで返事をした。


「――は、い……」

「ふほははは。良いぞ。それで良いのだ」


「んー? 契約者は、こっちのでっかい人間さんでいいのかな?」


 あたしが聞いてみると、でっかい人はコクリと頷いた。

 ふう。一時はおじさんが契約したいのかと思っちゃった。


「良かったあ。あたしはあなたと契約したくて来たんだ」


「ふぉ」

「…へっ?」


 これでひと安心、だね。


「おじさんも質は高めだけど。さっき外で見たときから、煮えたぎってる感じだけど芯のある魂の、こっちの人間さんの魂のほうが、契約したくて!」


 あたしが笑いかけると、二人ともまた呆然としてる。なんでだろ。

 でも……このままじゃ、美味しくなさそうだなあ。


「ねね、でっかい人間さん? あなたの願いは、なあに?」

「っ! そやつの願いは、この国の国王、ダマラガマスの死で…!」


「ううん、違うよ? それは、おじさんの願いでしょ? あたしは、でっかい人間さんの願いを聞いてるんだよ。あたしは契約者さんを幸せにしたいんだあ」


 うんうん、それが一番だよね。

 喋らなくなってたでっかい人が、口を開いた。


「俺の、願い…」

「そうだよー。なんでも、叶うよ!」

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