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二十三話

「いたたた…。いきなりなにー?」


 殴り飛ばされたあたしは、背中をさすりながら立ち上がった。背中、赤くなっちゃったかも。

 実体化を解除したと思ったんだけど、不思議だなあ。


 あたしの体に付いたバラバラになった壁の破片を振るい落としていると、トゲの塊が飛んできたので避ける。


「――お前、相変わらず吞気ね。でも、吞気にしてられるのも今日までよ!」

「んー。あたしのこと、知ってるの?」


 あたしの目の前には、トゲトゲのメイスを持った女の子の人間さんがいた。

 初めて見る子だと思うんだけど、違うみたい。


 契約履行の妨害行為、だね。魂は熱く燃え滾っていて、結構質が良いから回収させてもらおうかな?


「リズリリス、この短い間で私のことを忘れるなんて流石は悪魔ね。脳みそ空っぽなんじゃないの?」

「むむむ。あたしは悪魔学園の首席卒業生だよ?」

「じゃあなに! わざと煽ろうとしてるの!? 大成功よ!!――お前に魂を奪われたパパの仇。ぶっ殺す!!」


 あたしを睨みつけてメイスを振りかぶる人間さん。そのまま振り下ろしてきたから、後ろに跳んで躱した。

 あたしを狙うメイスが更に何度か追撃してくるから、また後ろに跳んで躱していく。


 あのメイス、たぶん対悪魔加護が施されてるみたいだけど、かなり珍しいものじゃないかなあ。


「ご主人ちゃん、一番最初の契約の娘でございますよ」

「うーん……。あっ! 病気を治した人間さんの娘?」


 メイスが加護で光り出した。あたしも空間のポケットから鎌を取り出す。


「今更思い出したの?…そうよ。私はサイオンの娘、サラ。お前を殺すためだけに、あれからずっと鍛えて、生きてきた。だから、死んで?」


 光ってるメイスをあたし目がけて振り回す人間さん。鎌でメイスを弾き飛ばしたら、人間さんごと飛んでっちゃった。

 どうしようかな。あんなに熱くてグツグツしてる魂はあんまり見ない。


 なんだかとっても素敵で、回収するなら幸せにしてから回収して食べたいな。

 地面に倒れてる人間さんの上まで飛んだ。


「く…。ま…だ、まだよ。私はまだ、死んでない」

「ねー。人間さん、あたしが憎いの?……でも、悪魔に挑むなんて無謀だよう。そんなに憎いのなら、契約する? 今のあなたの魂なら結構質が良いから、契約すればあたしの小指くらいなら消せるよ?」

「……は」


 あたしが話しかけると、人間さんがぽかんとしてる。よく聞こえなかったのかな?

 わ、立ち上がった。ケガして血が出てるけど、大丈夫かな。


「お前はっ、どこまでっ!!…いらないわ!!――リズリリスを殺すためだけに、生きてきた! 何度も死にかけて、ここまできた! 私のこれまでを、お前が、評価するなああああ!!!」


 メイスの加護がもっと強く光ってる。魂が、ぐにゃんぐにゃんしてるのに、燃えてるみたい。瞳が真っすぐあたしを見てる。

 なんだろう、真っすぐで熱くて、綺麗。


「ふーん。…うん、嬉しいな。ねえ、やっぱり契約しない?」

「黙れ!!…もう、喋るなあああっ!!」


 光ってるメイスが振り下ろされて、光があたしに飛んできた。

 鎌で切り裂いたけれど、ちょっぴり硬くて重たくて、こんなの初めて。でも人間さん、もう足がプルプルだ。


「はあっ…。はあっ…!」

「すごいね、あなた。でも悪魔とやり合うなんて、あなたのお父さんも、あなたが死んじゃったら悲しむんじゃないかなあ」

「…前にも。……前にも、言った。お前が私のパパを語るな。私は、私が生きている限り、お前を許さない」


 人間さん、もう限界みたいだけど、もしかして生かしておいたら次はもっと質の良い魂になって来てくれるのかな。


「うん、分かったよ。頑張ってね!」

「…は?」

「それじゃ、またねー!」


 人間さんの前にオカネを入れた小袋を置いて、あたしは伸ばした手を頭の上で振った。


「…金貨?……あ、ああああああああああ!!!……後悔させてやる後悔させてやる後悔させてやる!!――覚えてろおおおお!!!」


 次は契約しないかなあ?



△▼△▼△▼△▼△


 宵闇の落ちる路地を、丸い天然パーマの頭をした男が走る。息を切らしながらも、足を止めずに走り続けた。


「ふぅっ…。はぁっ…。なん…でだ。なん、でだよ。世の中不公平で…理不尽だ。…くそっ。なんで、借金取りまでっ!」


 息が続かなくなった男は、壁に手を当てて体重をかける。そのまま、背中を預けて路地に座り込んだ。


「ぐっ…。あれから…何日経ったんだ?――ここまで来れば…大丈夫、だろうか。僕はいつまで、逃げ続ければいいんだ…」


 ひんやりと冷たい壁にもたれて、胸を膨らませ萎(しぼ)めてを繰り返し必死に呼吸を整える。

 何度目かの呼吸で膨らんだ胸から、鎌の先端が突き出した。


「えっ…」

「逃がさないって、言ったよね?」


 男が背中を預けていた壁から、リズリリスの上半身が出てきた。


「はは、僕の人生、これで終わりなのか。……ああ、もっと頑張ってたら…こうはならなかった、のかな」


 鎌が胸から抜き取られると、その先端には男の魂が刺さっている。男の肉体が路地に倒れた。



 んー。逃げられないのに、なんで逃げちゃったんだろー?

 抜き取った魂を見てみると、冷たくてぐにょんぐにょんになってる。これは、もったいなけど魔界に納品かなあ。


 失敗しちゃった。せっかく楽しんでたのに、最後まで楽しんでくれてたら違ったのかな。人間さんって、難しい。


「ご主人ちゃん、次の契約に行くでございます?」

「うん、そうしよー。あたしを殺したい素敵な人間さん、また来てくれるかな。来て欲しいな」


 素敵な人間さんにまた会うのが、楽しみ。

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