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兵器創造の領域支配者【2026/1/1〜コミカライズ配信中!】  作者: 飛楽季 【兵器創造 コミカライズ配信!】
4章 死者への哀悼、死者冒涜

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黒騎士と少女、そして柳 7

 ♦︎


「——未来が視えなくなった」


 黒い空間に膝を抱え座る、まだ幼い少女に見えるそれは、その事実にゆっくりと目を細めた。


 未来は決して変わる事がない。

 彼女にとってはそれが当然のことだった。


 行動に違和感があったサポートに気付き、興味をもちその主人の未来を見た。


 そして、その主人に変わる事のない未来の一部を見せた。

 ただ、そうしても未来は変わる事がなかった。


 だが今、その人物の確定した未来が《《無くなった》》。


「……このまま死ぬ?」


 いや、違う。


 本来決まっているはずの未来が、未来視の理から外れた。


「未来が、変わった」


 初めて生じた出来事に、少女は身を震わせる。


「原因は、灰間暁門……それともサポート?」


 少女は薄く笑う。


「面白い。同じ結末を視ているだけはつまらなかった」




 ♦︎




「開いたぞ!」


 破壊された入口から城悟、孝、碧、荻菜が駆け込む。


「暁門! 柳さん!」


 視界に入ったのは、倒れている二人の姿。


 孝がすぐに柳の元へ向かい膝をつく。


「柳さんの息が弱い! 早瀬さん、先にこっちを!」


 碧が駆け寄り、応急処置の準備を始める。


「分かった!」


 城悟は暁門の横に滑り込んだ。


「暁門、大丈夫か!? 一体何が――」


 そのとき。

 暁門の瞼が、わずかに開く。


 暁門のぼやけた視界の中に、仲間の姿が映る。


 柳のそばに集まる碧と孝。

 自分を覗き込む城悟と荻菜。


 目を開けた事に気付いた城悟は暁門をかかえたまま叫ぶ。


「暁門!? おい、何があった!」


 暁門は問いかけに答えようとするが、声にならない。

 そして、そのまま身体の力が抜ける。


 城悟の焦った声を最後に、暁門は再び目を閉じた。



♦︎



 白い天井が、ぼんやりと視界に映った。


 動こうとするも、身体が鉛のように重い。


「ここは……」


 その小さな呟きに、すぐ反応があった。


「……っ」


 椅子が引かれる音。


 足音が近づく。


「暁門さん! 良かった……」


 視線を向けると、碧が立っていた。

 目元は赤く、今にも泣きそうな顔をしている。


 安堵が一気に押し寄せたのか、その場にへたり込むように腰を下ろした。


「本当に……よかった……」


 暁門はゆっくりと瞬きをする。


 記憶が戻る。


 戦闘。

 倒れた自分。

 駆け込んできた仲間たち。


「……爺さんは?」


 短い沈黙が落ちた。


 碧は視線を伏せ、数秒置いてから口を開く。


「一命は取り留めました。傷も、私の『回復促進』で塞がったんですが……」


 その言葉の続きを、暁門は待つ。


 碧は自分の手を見つめた。


 彼女が新たに身につけた能力――『回復促進(ヒーリンググロウ)』。


 傷や体力の回復を早める力。

 使い続けるほどに強まり、今では深い裂傷でも数分で塞ぐことができる。


 今回も、それで命は繋いだのだろう。


 それでも。


「……危ない状態なのか?」


 暁門の問いは静かだった。

 碧は小さく首を振る。


「命の危険は、もうありません。でも……」


 言葉を選ぶように、間を置く。


「まだ意識が戻らないんです。体の傷は治っているのに、目を覚まさなくて……」


 部屋の空気が重くなる。


 暁門は天井を見上げたまま、ゆっくりと息を吐いた。


「……そうか」


 戦闘時の青白い光。

 あれは自らの生命力そのものだった。


 それは恐らく爺さんも同じ。

 

 暁門はわずかに拳を握る。


「俺は、どれくらい寝てた?」


 碧は答える。


「二日です。みんな、交代で付き添ってました」


「……そうか」


 暁門はゆっくりと身体を起こそうとする。


「無理しないでください!」


 碧が慌てて支える。


 その手は、少し震えていた。


「……悪い」


 小さく謝ると、碧は首を振る。


「謝らないでください。生きていてくれただけで……十分です」





 碧に肩を支えられながら、オレは病室を出た。

 足取りはまだ重い。情けないくらいに。


「本当に無理しないでくださいね」


「……大丈夫だ」


 そう答えながらも、壁に手をつきながら歩く。

 だが、扉の前で自然と足が止まった。


 深く息を吸い、扉を開ける。


 そこにはベッドに横たわる爺さんの姿があった。


 顔色が悪い。

 あの豪快に笑っていた姿とは、まるで別人みたいだった。



「……爺さんがこうなったのは、オレが弱かったせいだ」


 気づけば、そう口にしていた。


「そんなこと……」


 碧がすぐに否定する。


 けれどオレは首を振った。


「想定外のこともあった。だが、西区の連中なんて気にせず、さっさと県庁を攻略していれば……こんなことにはならなかった」


 選択を誤った。


 守りきれなかった。


 それだけは事実だ。


 しばらく沈黙が落ちる。


 やがて碧が、静かに聞いた。


「……何が、あったんですか?」


 オレは爺さんから視線を外さないまま答えた。


「城悟たちを呼んでくれ。まとめて話す」





 元の部屋に戻ると、城悟、孝、碧、荻菜が揃った。

 全員の視線がオレに向く。


「——まず、何が起きたかを話す」


 県庁で皆市がやられた後から、順を追って説明した。


 ホープを打ち消す能力を持ったレティー。


 利用された爺さんの孫娘のこと。


 対抗する術になった、青白い光のこと。


 だが『魂乃共鳴』の名は出さない。

 そこだけは、伏せた。


 話し終えると、重い空気が残った。


 最初に口を開いたのは碧だった。


「ジェニスは、“私達”って言ってたんですよね」


「ああ」


「その言い方だと、レティー以外にもいるってことですよね」


「ホープの無効化か……」


 城悟も低く言う。


「しかも俺たちの動きが読まれてた可能性がある」


 孝の言葉にオレは頷いた。


「それと、言ってなかったが――」


 全員の視線が集まる。


 オレは一度、息を整えた。


「オレがホープに目覚めた後、ある夢を見たんだ」


 城悟が眉をひそめる。


「夢?」


「ああ。沙生さんを……オレがこの手で殺める夢だった」


 一瞬、空気が凍る。


「……は?」


 城悟が思わず声を上げる。

 碧の表情が強張り、孝は黙ったままオレを見る。


 だが、オレは続けた。


「あれは今思えば、ホープに目覚めた後、いずれ来る未来の光景だったのかもしれない」


 あの感触。

 あの血の色。


 あまりにも鮮明だった。


「そして、それを見せたのは……恐らくジェニスだと思っている」


 部屋が静まり返る。


「何故ジェニスが干渉してきたのかは分からない。だが、少なくともそういった能力を持つやつがいるのは確かだ」


 未来を視るだけじゃない。

 夢という形で干渉する。

 選択に影響を与える可能性。


 そして監視されている事でいつでも襲われる可能性があること。


 短い沈黙が落ちる。

 誰も軽口を叩かない。


 やがてオレは、ゆっくりと言った。


「そして、孝は“俺達”と言ったが……レティーの発言や夢の状況を考えると、監視されているのは恐らくオレだ」


「何で暁門が?」


「トリセツの行動が原因なのか、それともオレが奴らにとって好ましくない存在なのか……理由は分からない」


 そう言って話を切ったオレに、城悟が口を開く。


「はっ。暁門が狙われてるってんなら、俺たちが守ってやりゃいいだけだろ」


 わざとらしく肩をすくめる。

 いつもの調子だ。


 だが、声の奥に硬さがあるのは分かる。


 孝が静かに続ける。


「暁門が狙われてるってのも、確証はないからな」


 オレは頷く。


「だが、今まで以上に危険なのは間違いない。死ぬ可能性だって、今までの攻略とは遥かに高い」


 はっきり言う。


 曖昧にしていい状況じゃない。


 碧がぎこちなく笑った。


「暁門さんが狙われてるのが事実だとしてもですよ?皆で一緒の方が対抗出来ますよね。ひ、非常に怖いですけど!」


 語尾が少し裏返る。

 無理に明るくしているのが分かる。


 椿がため息混じりに言った。


「灰間以上に強いんなら、私たちじゃ抵抗出来ないからなー」


 荻菜が腕を組む。


「はあ。私たちが仲間に見られてたら手遅れでしょ。考えても無駄よ」


 誰も否定しない。



 オレは全員を見渡した。


 各々の覚悟が伝わってくる。


 皆の言葉が、県庁で弱ったオレの心を揺らす。





『オレは、お前達を誰一人失いたくない』




 そう言いかけて、やめた。


 口にしたら、もう一人では行けない。


 だから、言葉を飲み込んだ。

次で県庁編締めとなります。

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