第20話:まぁ結局、世の中ってお金ですよね。
第20話です。
石山病院戦闘科。この珍しい科は、最初からこの病院にあったわけではない。
石山診療所から現在の石山病院に至るまでの中で、たまたまというべきか、必然というべきか、誕生したのである。
そしてこれは、1棟目の石山病院ができたあたりの話になる。
「御形くん。どうやら、大変なことになってます」
「大変なこと?」
「はい。この前救ったあの世界なのですが、平和にしすぎて戦闘系の人の職がなくなりました」
「えぇ………」
「平和ってそんな弊害があったんですね」
ある世界を支配しようとしていた悪を芹がさらっと倒してしまった際に、世界が平和になりすぎて、ゲームでいう冒険者的な存在も、傭兵も、戦士も皆いらなくなってしまったのである。
しかも、今度は人間倒しで争うことがないよう、丁寧に芹が根回ししたのもあって、余計にその傾向にあった。
「他の仕事に就くことができた人は良いのですが、戦うことしかやってこなかった人たちも一定数いるわけで……」
「まぁ、rpgゲームのクリア後から勇者始めるようなもんだもんな」
「どうしましょう」
芹が責任を感じているように、御形には思えた。今まで自分がやったことは全てある程度良い方へ向かっていただけに、何か思うことがあったのではないか。
「めちゃくちゃに採用しますか」
「……正気か?」
「現状お金以外はなんとかなりそうです」
芹はいつも、御形からすればとんでもないことをさらっと口にする。今度は職を失った人たち全員を雇おうとしているようだ。
「うちは商業施設とかじゃないんだぞ……そもそもそんなに仕事があるのか?」
「仕事は作ります。彼ら彼女らの特性は活かせるはずですから。それよりもお金です」
「そうか……ならまぁ良いか……お金か」
「仕事の幅は非常に広がることでしょう………お金」
2人は遠い目をしていた。ただでさえ、貯金を切り崩す毎日。利益の出ない病院運営。今までは100の仕事を芹1人が1人分の給料でやれば良かったが、今回はそうはいかないのである。
「……そういえば、あの世界と今いる世界の為替レートってどうなってましたっけ」
「あ?………確か……」
御形はpcのようなものを取り出した。この電子機器には、管理する世界に関する重要なデータが入っている。要するに特別仕様である。
「あー…………1000g=1enだな」
gは今回問題が発生した世界の通貨、enは今石山病院がある世界の通貨である。
「……てか、まさか通貨交換しようとしてるのか?」
当然の話だが、通常別の世界の通貨を使用したり、交換することはできない。
ただし、各世界の担当神の許可の元、通貨を交換する権利が神達にはある。
「交換というよりもこっちのお金でそっちの世界のお給料払えないかな、と………皆さん家はそっちの世界に設けるでしょうから」
「こっちの世界の通貨の方が価値があるから、それで何とかしようってことか」
「最初は多分それで何とかなるとは思います。ただ、まぁ色々問題はありますが」
働くのはこちらの世界なのか、それとも別の世界に支部を作るのか。
そもそも何の仕事を任せるのか。
まだ何も決まっていない以上、必要なお金の量も分からない。
「とりあえず、繁縷くんに相談しましょうかね。お金のことは」
「まぁ、そうだな」
結局芹は、石山病院の財務の要である平井繁縷に全てを託すことにしたのだった。
***
「二年経ちましたが、経営は順調です。さすが繁縷くんですね。見事な手腕です」
「ありがとうございます、石山院長」
繁縷がプラン作りをし、芹たちが必死で資金を調達したことで、例の世界の対象の人間どころか、他の世界の人間も採用することが可能になっていた。
平和になった世界でその戦闘力をうまく活かすことができない人間達は、現在石山病院の新しい科──『戦闘科』に集結している。
「あ、そういえば院長。この前入ってきた子、結構面白いですよ」
「面白い、と言いますと?」
「田平子っていう変わった名前の子なんですけど、彼女めちゃくちゃ強いんですよ」
繁縷は芹に資料を手渡した。
芹はそれをじっくり読んだ。
「なるほど。随分と酷い幼少期を過ごされたようだ」
「ですよねー。しかも状況が変わったら用済みなんですから、酷い話ですよ」
「せっかくですから、会いに行ってみましょうかね」
「あ、良いですね。きっと喜びますよ」
芹は繁縷に連れられ、病院の別フロアへと向かった。
「『戦闘科』って堂々と書いてあると少し物騒ですね」
「名前決めたの院長じゃないですか」
「ははは。そうでしたね」
芹が『戦闘科』と書かれたフロアの受付に来ると、あたりがざわついた。
「おや……何かありましたかね」
「院長が来たから皆緊張してるんですよ。上司だし、しかも皆ある程度強いから、分かっちゃいますからね」
「そういうものですか」
「──い、院長……い、いらっしゃいませ!」
受付の女性が、声を震わせて芹を出迎えた。よく見ると、額に冷や汗をかいていた。
「そんなに緊張しなくても良いのですがね……」
「仕方ないですよ」
「……あ、そうです。田平子さんはいらっしゃいますか?」
「た、田平子ですか?今、お呼びいたします!」
受付の女性が診察室2番に入った。するとすぐに、中から身長160cmほどの女性が出てきた。雰囲気は比較的おおらかに見える。
「田平子さんですか?」
「………」
「おや?」
女性──田平子は芹をじっと見つめた。それはまるで獲物を狙う猛獣のような。
「お前がセリか?」
「そうです。失礼、自己紹介がまだでしたね。私が芹です」
「戦え」
「おや?」
「一騎打ちだ。私が勝ったら、軍のトップには私がなる」
―第20話 完―
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