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第2話:アルバイト再び①

 第2話です。

 前回投稿が2022年で衝撃を受けています。



 冒険者活動(アルバイト)

 それは、資金が尽きた(せり)の最終手段である。


「まさかまたやることになるとは……人生何が起こるか分かったものではありません。」

「普通はこんなやり方しないんだがな……」


 活動をはじめたての頃に、病院の運営資金を稼いだ時以来であろう。


 さて、アルバイトの内容は単純明快。

 長い間被害が出ていながらも、その世界の人間では対抗できなかった上位存在・悪党を、倒すなり説得するなりして、無理やり高額の賞金を得ようとする活動だ。



「──というわけで今回はですね。長年村人や子供、女性を誘拐し、奴隷として売買したり殺したりきた『テロリスト集団』を捕まえたいと思います。どうやら近くの村に現れたらしく、現在その周辺を縄張りにしているとか。悪党なので晴れやかな気持ちで懸賞金をがっぽり稼ぎましょう」

「言い方」


「お金ですよ、御形(ごぎょう)くん。……こんな感じのセリフ誰かが言ってませんでしたか?」

「…………多分違うぞ」

 やはり、こいつはもうダメかもしれない。

 こいつは誰よりも欲深い。


「それはともかく、早く行きましょう。捕らえられている人がいるかもしれません」

「まあそうだな」

 御形(おれ)(せり)は、病院を出発すると、すぐさまテロリスト集団がいるであろう村へと向かった。




     ***




 ──数日前。


 石山病院異世界支部より南東に約50kmの場所。

 モード王国の端部に、かなりの田舎ながら50人程度の人間、そしてエルフを抱える村があった。


 村の名前は『イテラ』と言い、この世界では珍しい、人間とエルフ族が対等な立場で共存している村である。


「あ、お父さん、いい感じに実ってきたよ!」

 その村に、まだ12歳の少女がいた。名はリーハといい、人間族で、幼い時から父と母の農作業を手伝って生きてきた。


「……おお!これなら、今年も何とかなりそうだな。冬に備えてしっかり食料を蓄えておかんとな」


 リーハの父は明るく元気で、仕事もできる。

 村の人からは尊敬されている人間だ。

 そんな父が彼女は大好きだった。


「──あ、いた!!あんた、たまには農作業じゃなくて私の方も付き合いなさいよ!!!」


 そして少女がもう1人。

 彼女はエルフ族で、この村では珍しく、農作業ではなく『狩り』で生計を立てている家の者だ。名はメルという。


「えー、やだよ」

「ちょ、今日くらい付き合いなさいよ!」

「嫌なものはいやー」


 メルの勧誘を断固として拒否したリーハは、そのまま農具を持って彼女の家へと戻ってしまった。


「もうっ……少しくらい付き合ってくれたって良いじゃない!」

 メルが頬をむっくりと膨れ上がらせた。


 それを見て、リーハの父親がメルに近づいた。


「ごめんな、メルちゃん。あいつ、やっぱりあのときのことを引きずってるんだ。無理もないんだ。あいつには、才能があるから、余計な……」

「……むぅ」


 四年前のある日。リーハの母親は、森へ狩りに行った際に盗賊に襲われて、惨殺された。

 その後遺体が発見され、村人の手によって村へと帰ってきたが、遺体はほとんど『原型』を留めていなかった。


 その盗賊は捕まらず、今もどこかで殺人略奪を繰り返しているらしい。


 父親はもちろん娘に遺体を直接見せることはなかったが、それでも外の世界への恐怖、トラウマとして、今でもリーハの脳裏に焼き付いているだろうと、後悔していた。


「……じゃあ行ってくるわ」

「気をつけてな」


 リーハの父が見送る中、メルは森へと駆けていった。




      ***




(……もう、ほんとリーハったら……)


 数人の大人たちと共に、メルは森に潜む。

 前の道を通る小型魔物を待っているのだ。


(……本当に辛いのは分かってる。けど、私だってまたリーハの元気な所が見たいのよ。私知ってるんだからね、いつも笑顔を見せてるけど、あれは貴女の本当の笑顔じゃないってことぐらい!!)


 実は、リーハは元々小さい頃から親と一緒によく狩りに行くほど、狩りが得意だった。母親の見様見真似で戦いを身につけ、同世代のメルよりも遙に多くの魔物を狩ってきた。

 だが、母親が盗賊になす術もなく殺されたと知った時に、リーハは外の世界の恐ろしさを、自身の才能故に感じてしまった。

 それ以来、リーハはずっと父親と共に農作物を村で栽培することに専念していたのだ。


 メルは、トラウマを押し潰しているリーハに、実際に狩りに行って、外の世界へのトラウマを吹き飛ばして欲しかった。


 それが正しいやり方かはまだ子供のメルには分からない。しかし、少なくともリーハのためを思ってやっていることではあった。



(……あ、来たわね!)

 メルが道を通る魔物を発見した。

 弓を慎重に引くと、勢いよく矢を放った。


「よしっ!」


 メルの矢は魔物の脳天に直撃し、魔物はそのまま動かなくなった。

 メルは、その魔物を回収するため、大人一人と道へと出た。


「おー!これは食料にもってこいだ。でかしたぞメル!」

「えへへ」

 父親に褒められて、メルは年相応の笑顔を浮かべた。



 そして数時間後。


「──よしっ、これで今月の分は大丈夫そうだな!そろそろ撤収しよう!」

 大人たちとメルは、ノルマ分の狩りを終えた。

 荷物を纏めてその場を立ち去ろうとした時、誰かが異変に気づいた。


「…………っ、気をつけろ!!」

 一人が叫んだ。


「へえ?よく気付いたじゃん」

「……っ!?何を……ぐあ゛っ!!!」

 だが、別の誰かの声が聞こえたかと思うと、叫んだ村人の腹から鮮血が飛び散った。


「なんだてめえ!」

「盗賊か!?」

 突然の出来事に場は混乱した。

 だが、その混乱すら長くは続かない。


「────へいへいへい。というわけで、我々『黒の盗賊』が皆さんイテラの皆さんから財産を奪いに来ましたぁ!!」

 村人の前に男が現れると、続けて男の仲間と思われる者たち30名ほどが村人を囲んだ。

 盗賊たちの手には、高価な武器が大量に握られている。


「……ひっ」

 メルは恐怖の感情に支配された。まだ12歳の子供ならば仕方のないことだ。


「つーわけで、皆さんには奴隷になってもらうのでよろ」

 盗賊は舌を出して愉快に嗤っていた。



 ──そして時を同じくして、イテラの村にも盗賊の魔の手が伸びようとしていた。



 -第2話 完-

 お読みいただきありがとうございます。

 不定期ですが、お気に入りの作品なので続けていきます。

 ちなみに、13話は割と早く投稿できそうです。

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