第3話:アルバイト再び②
第3話です。
〜イテラの村〜
「……あれ、今日はみんな少し遅いな」
今日の作業を終えたリーハはいつも通りメルたち狩猟組の帰りを待っていたのだが、いつもならもう帰っている時間にも関わらずまだ遠くの姿すら見えなかった。
(……大丈夫かな?何もなければ良いけど……)
リーハの脳裏に、トラウマがよぎる。
「もしかしてメルたちに何かあったのではないか?」という激しい不安がリーハを襲った。
「……っ」
胸を掴み、ひっぱるようにして心臓の鼓動を抑える。そんなものは気休めにしかならないが、心の動揺はそういうものである。
「ん?……大丈夫か、リーハ!」
「……あ、、お父さん……」
リーハの父が彼女のもとにやってきた。娘が苦しそうにしているのを見たためだ。
「……今日、みんな遅いから……もしかして何か……あったんじゃないかって……」
「そうだったか……確かに少し遅いな。よし、俺が見てくるから、もう今日は部屋で休んでるんだ。リーハは何も心配しなくていいからな」
「うん……ありがとう」
父が村の入口のほうへと向かっていくのを確認すると、少しして、リーハは家に戻る。
「……はあ……いつまでもこんなんじゃ、ダメだよね……」
自室のベッドに寝転がるリーハの右目から涙が零れ落ちた。
(自分が情けない……)
リーハは、盗賊に母が殺されてから、成長するにつれてこの世界の不安定さが怖くなった。
この世界では、戦争・略奪・飢え・差別などは日常茶飯事であり、差別もなく平和を維持しているイテラの村は奇跡に近いものであったのだ。
何かあったら自分の身は自分で守らなければならない。
リーハは宗教を信じていないから、縋るものもない。
お金がないから、病気になっても村の診療所で無理ならあきらめるしかない。
「……頑張らなきゃ……頑張らなきゃ……」
ベッドのシーツは既にかなりの量の水を吸っていた。寝ようにも寝られないような感情のまま、リーハは目を瞑ろうとした。
だが──
「………え?」
突如として鳴り響いた『サイレン』によって、リーハの心臓はさらに早く脈を打つことになった。
***
リーハの父は、村から少し離れた『休憩地点』へとやってきていた。この場所は、普段狩猟に行っている者たちが休むスペースである。
「……遅いと思ったが、ここにもいないのか?」
普段よりも1時間は帰るのが遅いので誰か怪我でもしてここで休んでいるのかと思ったが、誰もいない。
「……嫌な予感がするな」
「──あれ?こんなところに村人さんーん?」
「……っ!?あ゛っ……」
父は背中に鈍い痛みを感じた。
後ろを向くと、男が背中にナイフを突き刺していた。
「何だ……お前……!」
「へー、タフだね。でもね、流石にもう村人はいらないかな。奴隷にしても売れなそうだし」
「……村人……まさかあいつらに……手を出したのか?」
「うん、多分そうだね。じゃあ、これから村に略奪しにいくから、あの世で見守っててよ。じゃーね」
「村に……?リーハ……っが!?」
男は心臓を抉り、リーハの父にトドメを刺した。
父は倒れ、もう起き上がることはなかった。
「さてぇ、村に向かいますかー」
***
リーハがサイレンが気になって外に出た時には、既に村はほぼ占領されていた。
村長は一人の男の前で土下座させられ、男はそれを見て嗤っていた。
「……なに……これ」
「あれれ?まだ女の子が残ってるじゃん?ちゃんと奴隷にしないとダメでしょ」
「……ひっ………ひゃ!?」
リーハは危険を感じてその場から逃げようとしたが、背後から近づいてきたもう1人の男に呆気なく取り押さえられてしまった。
「へへ、大人しくしな。嬢ちゃんは可愛いから、きっと高級奴隷になるぜ」
「奴隷……」
「──よし、大体金になりそうなもんは回収したなー。お前ら、女は丁寧に外にいた連中と同じ馬車に乗せてけよ。傷がついたら安くなるからな。男は労働用だから多少傷ついても構わないから」
「…………」
リーハは、状況が理解できなかった。
目の前で何が起こっているのか、分からないし、知りたくなかった。
(……逃げなきゃ……逃げなきゃ……逃げなきゃ)
恐れは、判断を鈍らせた。何が正解なのか、リーハには分からなかった。
「………あ」
だが、そんな中でもあることを思い出す。
「……お父さんとメルは?」
嫌な予感がして、リーハの顔は真っ青になった。
「おら、行くぞ」
リーハは男に連れられ、村の入り口から出て少し離れた場所にある馬車まで向かった。
そして前方に馬車が見えたくらいのとき、見てしまった。
彼女の道のりに、父が倒れていた。
「…………ぁ」
首と背中から大量の血を流し、父は絶命していた。その表情は、一度見たら忘れられないほどに歪んでいた。
「……い………いやぁぁぁぁぁ!!!」
リーハは、生まれてから一度も発してないような叫びをあげた。
「んー?あー、それ君のお父さんだったの。ご愁傷様」
盗賊の男は、リーハの絶叫に対してほとんど興味をしめさない。盗賊にとってはよくある風景でしかなかった。
「………ああああああああ!!!」
だがリーハにとっては、かけがえのない家族が死んだのである。
リーハは怒りに身を任せて男に殴りかかった。
「……へぇ、動きのセンスはあるね。でも、今までまともに戦ったことなんてないでしょ?すぐ分かるよ」
「……ぶぐっ!?」
男は、リーハの拳を容易くいなすと、そのままリーハを蹴り飛ばした。
「欠陥品にならないように、これでも凄い加減してるんだからさ。大人しくしときな」
リーハは動かない。
いや、動けなかった。
動く体力も、気力も残っていなかった。
「いっそ、このまま死ぬことができたらどんなに幸せだろうか」と思いながら、男の方を見た。
「…………………え?」
その時だった。
男の後ろに、何やら真っ白な服をきた集団がやってきたのだ。
男たちは、集団に気づけなかった。
一瞬にして、場の空気が変わる。
「──あ、こんにちは!盗賊退治に来ました、院長兼冒険者の芹と申します!」
この場にそぐわない、能天気としか言いようのない、けれども全員の耳へとすっと入っていくような、全くブレのない声が響いた。
―第3話 完―
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