第1話:異世界教育改革①
第2章の続きになります。
少し話が動くので第3章と分割しました。
「──はい、というわけでですね。やはりこの世界には、あれが足りていないと言えます」
「なるほど、教育ですか。流石です」
(こいつ、もう断定してやがる)
御形は、蘿蔔のことが少し苦手だった。
真面目過ぎるというのか、硬すぎるというのか、先読みしすぎというのか。それに彼女は、芹のことを尊敬しているが少し依存的にも見える。
客観的に外から見ていると、蘿蔔の芹への接し方はあまり自然ではない。
しかし……とは言え彼女にとって芹は命の恩人であることは事実だ。彼女の目に光を灯したのはまぎれもなく芹なのだから、依存する気持ちは分からなくはない。
ただそれはそれとして、やはりこの感じは少し苦手だ。
「そう、『教育』です。この世界の人間、特に平民より下の階級の者は、そもそも文字も書くことができないのが現実です。これをどうにかしない限り、この世界に未来はないと言ってもいいでしょう」
大袈裟な、と思うかもしれないが、実際はそこまで大袈裟ではない。教育がろくに行われなかった世界の未来は、本当に悲惨だ。
「……お前のことだから、もう計画を立てているのか?」
「ええ、その通りです、御形くん。私は、この世界に新たに学校を作ろうと思っています」
***
次の日の早朝。
「……建設完了」
病院がある町外れの高原に、芹は自作の栄養ドリンクを飲みながら佇んでいた。
完成したばかりの壁式鉄筋コンクリート造4階建の校舎は、芹が魔法も駆使して1日で建てたものだ。
雰囲気を出すため『石山芹建設』という旗を立てているが、実際には芹しか作業員はいないし、そんな会社はない。
「いやー、頑張ったものですね。異世界に支部を始めて作ってから1日で、今度は学校を作ることになるとは。これだから、旅というのは分かりません」
「え…………芹様!?」
どこか満足げに呟いていた芹だったが、何やら慌てた様子で病院から蘿蔔が出てきた。
「おや、何かありましたか?」
芹は栄養ドリンクを飲むのをやめ、彼女の方へ向かう。
「こんな時間に何をされているのですか!?このような作業、私たちにお任せください!!芹様が倒れるようなことがあっては、私は……」
心配した様子で、蘿蔔は芹と対面する。彼女は本気で芹のことを心配していた。
「大丈夫ですよ。私は疲れませんから問題ありません。蘿蔔君たちはしっかり休んでくださいね」
「し、しかし……」
「貴女たちには無理はさせたくありません。こういう仕事は、私が無理やりやってしまった方がいいですから。人件費の節約にもなりますよ」
「そんなことは……」
蘿蔔はたまに怖くなる。
芹は自らへの心配を一切しない。そして自身が動けなくなるとは、微塵も考えていない。
それは確かに理性的で『正しい』のだが、蘿蔔のように芹を1人の人間として見ている人間には理解できない感覚だった。
「それに私には仲間がいます。ですから大丈夫ですよ。さあ、せっかくです。そろそろ新しい施設の使用について話し合いましょう」
***
「……え?学校、ですか?」
「はい」
この国における最大級の商会である『モード商会』。
日用品から奴隷まで、あらゆる品物をそろえるその組織の頂点である商会長のヘンサの前に、芹はいた。
「そうです。この国には残念ながら一般人が通うことのできる教育機関が存在しません。教育が受けられなければ、咲くはずだった才能や経験が生まれないことになります。ヘンサ商会長、是非今回の計画にご協力いただけないでしょうか?」
「そうですね……」
ヘンサは頭を抱えた。確かに、芹の言っていることは正論であり、ヘンサは馬鹿ではないためそのくらい理解できる。だがそれは、あくまで『正論』でしかない。
実際は、教育とは上流階級のみが得ることのできる一つの『特権』であり、一般市民がその権利を得るなど、上流階級の人間が許すはずもない。
ヘンサは芹に恩があるが、残念ながらこの提案を受け入れることは難しかった。
「……申し訳ありませんが、現実的とは言えないでしょう……」
「そうですか」
「一応、模索はしてみますが、これに関してはあまり期待なさらないようお願いします」
「分かりました」
そう言うと、芹はもう興味がないとばかりにヘンサのもとを後にした。
***
「で、どうするんだ?」
「そうですねー」
病院の一室にて、芹と御形が2人で話していた。
「正直、お金が足りませんね」
「いやそこか」
「いやー、流石に商会長の後ろ盾がないのなら、私も本気を出さざるを得ませんね。資金調達に」
「本気のお前が何をやらかすのか、怖いったらありゃしないんだが……」
最近、また支出が増えて病院の経営が苦しくなりつつあった。奴隷を全員買った上で雇ったことや、その他色々なことが影響している。
「とりあえず、お金がないことには、始まりませんからね。まぁ……最悪商会長を脅しましょう。奴隷商売をやっているような輩はそもそも好きではありませんから」
学校を1つ運営するだけならば、芹がいるだけで十分可能だ。普通の人間の何百倍もの仕事を芹がこなせば良いだけなのだから。
しかし問題は、それをやってもこの世界の発展には繋がらないということ。
芹だけが一時的に頑張っても次世代には続いていかない。この世界の生き物にバトンを繋がなければ、未来は切り拓けない。
「ゆくゆくはこの世界に学校があるのが当たり前にしたいですからね。給料を払って人材育成するのは必須です。ハッピーエンドは、この世代だけのハッピーエンドではダメなのですよ」
「………で、資金のあてはあるのか?」
「ええ。あれをやるんですよ、御形君」
御形は嫌な予感がした。
そしてそれは的中する。
「『意思のない』『被害を出した』魔物を倒す──すなわち、冒険者活動を」
そう言った芹の瞳は、どこかキラキラとしていた。
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