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第1話:妄想と真実の始まり

 プロローグ的なものです。




 ※この物語はフィクションです。現実に則った内容ではありませんのでご注意下さい。





          ***





 ある高校に、1人の男子生徒がいた。


「良し、今日の授業はこれで終わりだ」


 彼の名前は石山芹(いしやませり)

 彼はクラスの学級委員長で、クラス全員をまとめる優等生だった。

 そんな彼は今、苦悩していた。



「さて、どうしたものか……」

「ん?どうしたんだ、(せり)。お前が悩むなんて」

 芹の親友である御形(ごぎょう)が芹に話しかけると、話しかけてくることが分かっていたように(せり)御形(ごぎょう)に意識を向ける。


「あ、ああ……御形か。いや、実は少し悩んでいてね……」

 芹は彼の『悩み』について、話し始めた。

 いや、話し始めたと言っても、一言に過ぎないのだが。


「何で、人って、生き返らないんだ?」

「……ん?」

「何故、ここまで文明が発達して尚、人を生き返らせられないのだろうか」

「……お、おう」

 かなりの熱弁に、御形(ごぎょう)は一歩後ろに引いた。


「アプローチが悪いのか?これではいつまで経っても不幸な死を遂げた人間が報われないじゃないか!!この世界の研究者たちは一体何をやっているんだ!?」

「…………まぁ、色々あるんだろ。俺たち素人には分からんことが」

「……確かに、それはそうなのかもしれない。だが現実問題、このままでは埒があかない」


 ここで(せり)は、真剣な顔で御形(ごぎょう)を見つめた。


「だからね、僕は研究医になろうと思うんだ。全ての不幸な人間を救うために」

「……なるほど。まぁ、頑張るんだな」

「……ただね……できれば直接救う臨床医にもなりたいんだけどね」

「……いやいや……欲張り過ぎるなって……。そもそもお前はこれまでどれだけの人の手助けをしてきたと思ってるんだ?これ以上欲張る方がどうかしてるってもんだろ。お前はお前がやりたいように人を助ければ良いだろ」

「……御形!ああ、絶対にやってみせるさ!!」


 そして芹は、そのままの勢いで教室から去っていった。どこへ向かおうとしているのかは誰にも分からない。


(……人を、生き返らせる、ね……。まぁ、どうせ無理だと分かって諦めるんだろうな)


 この時、御形(ごぎょう)は確かにそう思っていたのだ。

 人を生き返らせるなど、絶対に有り得ない。

 どんなに頑張っても、この世の摂理だけは変えることなどできないのだ。


 ……だが、それを芹には言わない。

 幼いときからの付き合いにより、芹が本気であることが分かるからだ。




 石山芹(いしやませり)と言う男は、『聖人』だ。

 どんな人間であっても、助けようとする。

 それが例え、罪を犯した人間だとしても。

 自分が救える人間は全て救ってきた。

 

 そして、彼には何があっても諦めない『頑固さ』があった。彼は、自分が決めた目標を諦めたことは未だかつて一度もない。

 また、彼の頭脳はかなりのもので、小さな発明もたくさんしてきた。これも、彼の頑固さが助けになっているのだろう。


 しかし、彼は『聖人』であったが、同時に『狂人』でもあった。

 彼の思考は、時に全く感情のないサイコパス、あるいは機械のように、狂うことがあった。これはずっと近くにいる御形(ごぎょう)だけにしか分からないような、一瞬ぞっとする感覚だった。


「はっ……ありえないとは思っても、あいつなら何故かやってくれそうな気がするのは何でなんだろうな」

 御形(ごぎょう)はそう呟いた後、芹と同じように教室から出て行った。

 


 ──だがその一年後、事態は急変した。




          ***




「────おいっ、しっかりしろ!?!!!………(せり)!!!!!」

「…………」


 御形(ごぎょう)は、全身から血を吹き出し、今にも生き絶えそうな(せり)を見て、唖然とする。


「……くそがっ!……早く病院着かねえのか!!」


 救急車の中で、御形(ごぎょう)は歯を噛み砕くほどに硬く噛み締める。


「……(せり)、お前はこんなことで終わって良いようなやつじゃねーだろ!!……クソッ」


 そして、御形は芹の状態を再確認する。


(……何でこうなる……誰よりも人のことを考えて……助けたやつが……)




 これはついさっきのこと。

 高校から2人で帰って来る途中のことだった。


 2人はすぐ近くに住んでおり昔から仲が良く、かつ勉強も同じくらいできたため家に近い同じ高校に通っていた。


 その通学路で、ふと(せり)が反対側の歩道を見た。


「…………あ、そうだ、醤油ともやし買っていかないと」

「そうか、じゃあ俺も何か買って帰るか……って、一人暮らしとはいえ、またもやしだけで済まそうとすんなよ?」

「はは、分かっているよ。もやしは美味しいからね」


 こうして2人は、道の反対側のスーパーへと向かって行った。



 ─スーパーの店内─


「──さてと、じゃあこの辺で帰ろうかな」

「そうだな」


 そろそろ買い物を終えようとした、その時だった。


「キャァァ!!!!!!!!!!!!」

 どこからか、悲鳴ような叫び声が聞こえてきた。


御形(ごぎょう)、行ってみよう!」

「ん?あ、ああ……」


 (せり)は買い物かごをほったらかしにして、叫び声が聞こえた方へと駆けて行く。


「まじかよ……」

 そして、御形(ごぎょう)はその場所に着くなり呟いた。



「オラァァァァ!!!とっとと店の金を出せやクソボケどもがぁぁぁ!!!俺らはこれからてめーら使ってたっぷりと身代金も貰う予定なんだよ!早くしやがれ!!」

 叫び声が聞こえた場所に行くと、銃を持った複数人が店員数人を人質に取り、レジ周辺に立て籠っていたのだ。

 銃を持った人間たちは、汚く、醜い声を撒き散らしていた。


「おい、逃げんじゃねーぞ!!ここから動いたやつは殺す!!!」

 そして周りにいる人たちを男たちが囲っていく。


 芹と御形は念のため大きな棚の後ろに隠れた。

「どうすれば……?」

 芹は呟く。


「……おい、まさかと思うが、銃を持ったやつ相手に戦おうなんて思ってねえよな?」 

 その様子を見て、御形は不安になり芹に小声で尋ねる。


「……え?ま、まさかー……」

「おい……」


(……でも、この状況少しまずいな……。相手はざっと20人ってところか?)


 御形は辺りを見回す。


(……相手が銃を持っている以上、下手すれば撃たれて即死だ。まぁ、それくらいなら何とかならなくはないかもしれないが………人質の命の保証は無くなってしまう。ここは素直に従うしかないか)


「──御形、どうやら警察はもう動いてるらしい。『身代金を渡せばスーパーにいる人々を解放する』、と犯人は言っているようだ。それで今、警察の間でどうするか検討してるらしい。一気に突撃する案も出されているようだが、それだと人質の命が危ないから却下されてる」

「そうか………………いや、何で知ってるんだ?お前もしかして」

「ん?何のことか分からないなーー」


(……堂々とハッキングしてんじゃねーよ)


「まぁ、良い。で、これからどうするんだ?」

「そうだね……とにかく犯人たちを刺激しないようにしないと……」


 芹と御形は、犯人を刺激せずに警察が動くのを待とうという決断をした。一般人である自分たちにできることなど、あまりなかったのだ。



 ────────だったのだが。



「………ん?待て、何か様子がおかしい」


 御形が、芹に注意を促した。


「──あれは…………まずいな」


 2人の視線の先には、犯人グループのリーダーであろう男の前で、泣き出してしまった幼い子供と、中学生くらいと思われるその姉(?)の姿があったのだ。


「……あ゛?何だこのクソボケどもが!!!早くそのガキを黙らせねぇか!!!」

「……は、はい!」


 少女は子供を泣き止まそうとする。

 だが、うまくいかない。

 それはそうだ。子供にはこの場の空気が悪すぎる。



「───はぁ……俺はなぁ、ギャーギャー喚くガキが大嫌いなんだよ。だからよぉ……二度は言わねえぞ!!!!」

『バンッ』


 リーダーと思われる男が、銃を天井に向けて打ったのだ。


「───オラオラ!!!!どうせだったらお前ら全員泣きやがれ!!!!」


 男は、更に天井以外にも銃を乱射する。


「オラァ!!お前ら!!お前らもやれ!!!」


 男の合図で、仲間も銃を乱射し始めた。

 それにより、辺りは悲鳴に包まれる。



 そんな中、その隙に先程の少女が子供を連れてその場から逃げようとした。

 ──だが、そう上手くはいかない。いとも簡単に、近くにいた男に気づかれその場に拘束されてしまった。


「はぁ……?なんだなんだ、お前。頭悪いのかぁ?俺らから逃げられるわけねーだろうがよ!!!!」

「あ゛がっ!?」


(………なっ!?)

 リーダーが、拘束されていた少女の腕を銃で撃ったのである。少女の腕から鮮血が流れた。


「……おいおい、これマジでまずい流れになってきたぞ……どうする芹…………ん?」


 御形は、悪化する事態をどう対処するか芹に意見を求めたのだが……


「おい(せり)!?」


 気づいた時には、(せり)御形(ごぎょう)の隣から消えていた。


「あ、あいつ!?」

 御形の視線の先には、少女の前に立ち塞がる芹の姿があった。


「あ゛?何だてめぇ?」

「……人を銃で撃つなんて、正気か?これ以上続けると言うのなら、容赦はしない!!」


 リーダーの男の前で、芹は言い放った。


「はぁ?」

 それを聞いて男は、しばらくポカンとした表情を浮かべた。

 だが、数秒後に当然というべきか突然嗤い始める。


「ハッハッハッ、あ─、そうかよ。じゃあお望み通り死にやがれ!!!!!」

「───ぐはっ!?」

 そして、男はそのまま芹を銃で撃ったのだ。


「芹!?」

 御形は芹の元へと全速力で向かって行く。


「ぐばっ……ふふっ、ふふふ!残念だが、僕にだって考えくらいあるのだよ!!」

 (せり)は両手を振り上げた。


「…………?………っ!?」

「さぁ、ここから本番だ!!」


 その瞬間、辺りは『闇』に包まれた。


「さてと、取り敢えず」

「…………っ!?………ぐ!?」


 (せり)は、特製の黒い煙幕によって、この場にいる全員の視界を遮ると、そのままリーダーの男へと拳を打ち込んだ。

 今彼の手には、殴った時にかなりのダメージを与えられる装備が施されている。(せり)特製である。

 なお、彼は眼鏡を付けているのだが、これも煙幕の中でも良く見えるように改造されている。


「……ふう!!!」

 芹は、リーダーの男の急所を狙う。


「あ゛がぁぁ!!!?!!!?…………」

 それにより、男は倒れ込む。

 気絶していたようだった。


 そして、煙幕が段々と晴れてくる。


「……よし、後は……。『ピーーーーー!!!!』」


 芹は、懐に忍ばせておいた笛を鳴らした。

 すると急に外から足音が聞こえてくる。


「な、なんだ……!?」

 犯人たちが、ようやく視界が戻ったと思ったら今度はなんだ、とさらに動揺する。



「───警察だ!!!!大人しく武器を捨てて投降しなさい!!!」



          ***




 (せり)の企みが成功し、良いタイミングで警察が突入した。

 それにより、犯人グループは全員拘束されたのだ。



「────やれやれ、危ないところだった。……うっ」

 (せり)は、少しふらふらしながら御形(ごぎょう)に近づいた。


「……お前、何やってんだ!!口から血、吐いてんじゃねーか!!」

「仕方ないだろ、あのままじゃ人が死ぬところだったんだからな」

「だからってな、お前が死んだら本末転倒だろうが……」

「あはは、ごめんごめん。でも、急所は外れてるから大丈夫だよ。多分」


 芹の体の一部から赤黒い血が流れ出ていたのだが、本人はそれほど気にしていないようだった。

 本当に気にしていないようで、御形(ごぎょう)は少し怖くなった。



「あ、あの……ありがとうございました!!……て、大丈夫ですか!?」

 そして、2人が話していると後ろから先程の少女が子供を抱えて走ってきた。


「あー、別に良いですよ。僕は大丈夫なのでお気になさらず。人助けは趣味ですから」

 (せり)は、少し口に血のあとを残しながらも微笑む。


「で、でも!!早く救急車を!?」

「はは、本当に大丈夫ですよ。僕は、大抵のことは気合で何とかなると思っているので。この程度の傷、大したことじゃありません」

「いや、本当に大丈夫なんですか!?」

「ははは」

「ははは、じゃねーよ」


 3人は、早くも打ち解けていた──が、そんな中の出来事だった。


「オラァ!!!どけやっ!!!!!!」

「……!?こ、こら、お前!?」


 犯人グループの1人が、警察を振り払って3人の方へ走ってきたのだ。


「くそがぁ!!!てめぇらのせいで、こっちは台無しなんだ!!」


『バンッ』!!!!!!!!


 犯人は、最後の抵抗とばかりに、銃を放った。

 その弾丸は、真っ直ぐ少女の方へと向かって行った。


 ──だが。


「えっ………?」

「ぐ……はっ……!!………あ゛あ゛あ゛!!!」


 その弾丸を受けたのは、少女ではなく(せり)だった。すんでのところで少女を庇ったのである。


 だがそれにより、芹はちょうど心臓のあたりに、弾丸をもらってしまった。

 当然のように、体からは血が吹き出した。


「あ゛あ゛!!!!」

 しかし(せり)は、血が噴き出すのを無視し、男へ手持ちのカッターを投げつけた。

「……っ!?痛え!!」

 そのカッターは男の手に刺さり、男は銃を落とす。


「……くそが!!」

 その隙に、御形(ごぎょう)は得意の体術で男の動きを止める。そしてその数秒後、再び警察が男を拘束した。




         ***




「───い────おい─────しっかりしろ!」



 どこかから声が聞こえる。


 目が見えない。



 なんだ?


 何がどうなったんだ?



 ──ん?


 何か光のようなものが上の方へと伸びている。

 それはとても優しく、しかしどこか悍ましさを感じる光だ。




          ***




「くそが……早く病院着かねえのか」


 御形は、救急車の中でそう嘆いた。

 親友が死にそうになっているのだ。誰だって焦るだろう。


「──これ……は……」

 救急車の中で、救急救命士がボソッと呟いた。

 モニターに映る数値が、取り返しのつかない段階まで下がってしまっていたのだ。


「…………」

 救命士は、(せり)がこのままでは死ぬことを、経験上悟ってしまっていた。


「……(せり)、お前はこんなことで終わって良いようなやつじゃねーだろ!!……クソッ」


 御形は必死に、芹に語りかける。

 芹は、既に意識を失っていた。



 だがこれが、全ての始まりだったのだ。






「──くそが!!おいせ」

「……なるほど」

 (せり)は、目を開けて、そう言ったのだ。






「り……?」





「まだ確定ではないが、少なくとも、『死後の世界』は──」



「……おい……お前……?」


 ()()、という言葉を、御形は飲み込んだ。

 喋ったのは、間違いなく(せり)だった。しかし、それは御形が『狂人』と表現したもの、そのものだった。



「ああ、御形(ごぎょう)()()!!ついにやりましたよ!!()はこれによってたくさんの人を救えるのかもしれません!!」


 芹は御形に向かって語りかける。

 その瞳は、何故か()()()()()いた。


「君、意識が戻ったのか!?信じられない!!?あっ、もうすぐ病院だから安心──」


 そんな中、急に意識が戻った芹に、救急救命士は困惑する。


「──いえ、もう大丈夫です」

「なっ……!?君、安静にしていないと!!」


 (せり)は、救急車のベッドから起き上がる。 

 それを見て、救急救命士は慌てて止めようとした。



「ああ!すみません。でも、もう本当に大丈夫なんですよ。なぜなら私は────」

「病院に到着しました!!直ちに患者を運んでください!!」


 芹が言い終わるより先に、芹を乗せた救急車は、病院へと到着した。




          ***




 さて。これは後に本当の意味で分かったことなのですが、どうやら私の『妄想』はあながち間違ってはいなかったようです。『妄想』としか言われなかった私の理論も、少しはあてになると分かって安心したと言うべきでしょうか。


 この体験によって、私は新たな扉を開くことができた。それはつまり、私の『妄想』はその日から、『真実』へと変わったことを意味します。


 『神』と同等になった今、私はより多くの存在を救えるようになることでしょう。





 ―第1話 完―

 お読みいただきありがとうございます。

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