少年編その6(ローズ視点)
今回ローズ視点でーす。
私がエクスの肩を壊してしまってから一ヶ月が経つ。それ以降私は一度もエクスと模擬戦をしていない。
エクスは私に気にするなと言ったが、そんな事はできるはずがない。真剣勝負(使ったのは模擬戦用の剣だが)の中で発生した機材の不備。そんなの予想ができるわけが無い。それを理解していても感情が私を許さないのだ。
「………?」
いつも通りの授業が始まり違和感を感じる。その違和感の理由はすぐに判明した。エクスがいないのだ。
―――珍しいという思いよりも先に焦燥感が先にくる。エクスは肩が壊れてしまっても一度たりとも授業に参加しないなんて事は無かった。そのエクスの姿が見えないのだ。
「―――先生。エクスはどうしたんですか?」
授業中とは言え、私相手に一合と打ち会える生徒がエクスしかいなかった関係上、私は先生と打ち合うことになっていた。その打ち合いの最中に先生にエクスの事を尋ねる。
「アイツは一人で練習している。少しでも練習する時間を稼ぎたいんだと」
先生は私の言葉を予想していたのか、すぐに答えてくれた。それを聞いて理解する。エクスの肩を潰してしまった私が言うのもなんだが、確かに実践練習の前にある十文字や、その次の連撃であるアスタリスク修得のための素振りの時間など、今のエクスにとってはあまり意味のない時間となるだろう。………それを考えても実戦の経験は肩を壊す前のようにかなりの実力差が無いわけでもなければ………いや、よく考えれば十文字を使う事のできないエクスでは咄嗟に放たれた十文字で敗北してしまうのだ。実戦だろうとなんだろうとあんまり意味がないというのはあながち間違いでは無いだろうか? それなら―――、
「先生、私も」
「エクスと同じ様に授業を抜けたいって言うんだろ。好きにしろ」
次に続く私の言葉を予想していたことにも驚いたが、すんなりと許可が出されたことにも驚いた。
「なんですんなりと許可が出たかわからないって顔してるな。エクスもそうだったが、まず剣の道は自己責任だ、自分のしたいようにすればいい。実際今までそうやって強くなった剣士もいないわけじゃないし、そうでもなければお前に裏で十文字を教えたりはしねぇよ。それと、ここはあくまでも連撃なんかの基礎を教えるための場所ってだけで、絶対参加なんてルールもねぇ。ぶっちゃけるとここの存在意義なんて無駄に剣士候補生を潰さないようにする為だけだからな」
なる程、確かに剣士候補をこういう風に集めておかないと怪我人が続出するだろう。逆にこういう設備が整っているところでさえ、エクスの様な怪我人が発生するのだ。設備が整っていないところで練習すると、怪我をするか、連撃の練習を対人でできないという結果になるだろう。
「では、失礼します」
そう言って走り出す。
「おいおい、今すぐかよ」
先生の呆れたような声を背後に聞きながら私は教室を飛び出した。
「ふっ! ふっ!」
教室を飛び出してすぐに私は剣を振っているエクスを見つけた。
まぁ、いつも私とエクスが放課後に二人で模擬戦をしていた場所だったからすぐにわかっただけだったのだが。
そのエクスを見つけた瞬間に私は一歩更に踏み込む。
その踏み込みの音で此方に気づいたエクスがギョッとした顔をする。―――まぁ、素振りをしているところにいきなり襲いかかられたらあんな顔になるのも仕方ないか。
しかし、そんな事は関係なく私はそのままエクスに斬りかかる。
唐突すぎた為かエクスが大きく回避する。
「ってめぇ! ローズ! 何のつもりだよ!」
「え? そろそろ実戦練習相手がほしいかなぁと思って」
「何のつもり―――ってかまだ授業の時間だろ!」
エクスのツッコミを無視して私はエクスに向かって剣を向ける。
「ほら、かかってきなよ。ハンデとして私は一閃しか使わないから」
「あ?」
エクスが挑発に乗ったところでエクスに斬りかかる。予想通り、左肩が動かないことで動作の幅も狭まっており、私の攻めをしのぎきれていない。
「ちっ!」
その事にエクスも気づいたのか、一度距離を取る。
「―――らっ!」
今度はエクスから攻めてきた。だけど、左肩が上がらないという事は、右上から左下に流れる様な斬撃は防ぎにくいはず………。
「しっ!」
左手を離して右手だけとはいえ、振り下ろしてる剣を狙うなんてどんだけ………!? でも、これじゃあ振った反動で私に背中を向けている状態になる。隙だらけだ。
「一閃」
その隙を狙って攻撃しようとした私の耳に言霊が入る。
「いっせ―――がはっ!?」
はやっ!? 何でもうそんな所に剣が!? 発動から当たるまでが早すぎる。
結局私の一閃での迎撃は間に合うことなく、エクスの一閃が私の脇腹に突き刺さった。
今まで間に合っていたはずのローズの迎撃がなぜ間に合わなかったかは、次回の主人公パートにて説明が入る予定です。
また、肩が壊れている状態で剣を振ったことなんて(そもそも剣道の経験すら)作者には無い為、バトルシーンで矛盾など感じるかもですが、その辺りはスルーしてくださると幸いです。