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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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②第2のビレア

…う〜ん…ドロドロな関係になります。

 今日はマジョラム国マジョラム5世が王位に着くと共に結婚をする。

 何ヶ月も前から式典の準備が行われ、国中がお祭り騒ぎだった。

 王子の結婚相手は他国から嫁いで来る。マジョラム国隣国の姫君。だが実際、姫君の国は国土は広いが貧しくて弱い国だ。姫君をマジョラム5世に嫁がせる事で姫の国は血を流さずマジョラムに統治される。マジョラムとしては旨味のあまりない国姫だが、国土を広げられる功績欲しさにマジョラム4世はこの婚姻を進めた。


 ーーーもとより、国の為に結婚する立場なのだからーーー


 マジョラム国の結婚衣装に飾られた姫君は知らない城の控え室で初めて会った従者達に囲まれて、王子と会うまでの時を待っていた。姫君を囲む従者達は年嵩の女性3人。見ず知らずの土地で心細い姫に気遣う素振りも無く不愛敬に姫君と一緒に立っている。


 ーーーこれは私が受け入れるべき運命なのよーーー


 マジョラムの城は姫が育った城よりも遥かに大きく荘厳で豪華だった。姫は初めて見た自分の嫁ぐ国の力に圧倒され、しかも城から付いて来てくれた乳母や従者と離されて、この先の自分の未来の重圧と不安に押し潰されそうになるのを必死に耐えている。


 年嵩の従者に弱いところを見せない様に今にも震えそうになる体に力を入れて、意識を少し遠くへ飛ばす。


 ーーーこの大国の雰囲気に飲まれない様にーーー


 大きな掃き出し窓の外へ視線を移した。

 窓の外は小さな中庭になっていて大きな木が少し植えてあるだけ。その侘しい庭には今日の祝賀は関係ないようで、ひっそりと落ち着いていた。自分がいる場所とはまるで違う世界に見える。


 ーーーフーーー、少し気が静まってきたわーーーッ!!ーーー


 不意に中庭にある大きな木の下に長身の男性がいる事に気が付いた。

 木の暗い陰に浮かび上がって見える長く流れる銀髪に青く輝く瞳の男。


 ーーーなんて美しいーーー


 その男は熱のこもった視線で姫君を見つめている。

 彼の眼差しに姫君は恍惚とし自分を忘れ美麗な男に魅入ってしまった。



「……ひめ……姫さま……ノウゼンカ様!」


 従者の吃声にようやく我にかえる。


 ーーーしまったわ! 何て事かしら!

 私、夫となる王子よりも前に知らない男性に花嫁姿を見られてしまったわ!ーーー


 この国では位の高い姫の花嫁姿は、花婿に捧げるもので花婿以外の男に先に見せてしまうのは花婿へ対する大きな裏切りと考えられている。


 ーーーこの事が公になれば結婚は破断!

 もしかしたら私の国は力尽くでマジョラム国に奪われるかもしれないーーー


 ノウゼンカ姫君は結婚前に自分は大失態をしたと思ったが、素直に従者に男に花嫁姿を見られたと話してしまっては、自分の国に迷惑をかけてしまうと瞬時に考え年嵩の従者の顔を見渡した。しかし、姫の心配は杞憂だと直ぐに分かった。

 年嵩の女性達はノウゼンカ姫君が窓の外の男性に見惚れていたのに全く気が付いていない。というか3人共姫君にあまり感心を持っておらず、行事のみを注視していた。


 ノウゼンカ姫君は内心で助かったと深く息を吐き、年嵩の従者達へ幼き頃より叩き込まれた魅惑の微笑みを作った。王族だって人間。失敗しないはずはなく、そいう時には美しい笑みを見せる事により多少の失態は許される。

 ノウゼンカ姫君の笑顔に年嵩の従者は息を呑んだ。


「ンンッ…ノウゼンカ姫様、大変お待たせ致しました。

 婚姻の儀が整いましたので移動致します。

 足元にお気を付けて、私めについて来てくださいまし」


 年高の女達は先程まで愛想が無かった態度を改め、先導の従者、姫様の手を引く従者、後ろへつく従者がシッカリと姫に寄り添い歩き出した。姫君の手を取る従者が言う。


「ノウゼンカ姫様、それほど緊張なさらなくても大丈夫でございますよ。

 マジョラム国民は皆、美しい姫君を王妃様に迎えられたと喜んでおりますから」


 姫君は手を握る従者に伝わるほど心臓が跳ねていた。


 ーーーこの胸の高鳴りは結婚への緊張のせいではないわ。

 先程見たの美しい男性のせい…こんな…よりにもよって結婚式に恋を知るなんて。

 コレは絶対に他人に知られてはいけない気持ちだわ。

 私は王女で国の為に今から結婚をするのよ。私の婚姻には国の民の生活がかかっている。

 生まれた時から背負ってきた私の王女としての定めよーーー


 ノウゼンカ姫は自分を労って声をかけてくれた従者へ小さく頷き、自分の激しい鼓動は不安と緊張のせいだと年嵩の女性には思わせた。


 ーーーたった一目見ただけ。

 王妃になれば…きっともう彼に会う事はないし…時が経てばあの男性の事は思い出に変わるわーーー


 先導の従者が扉を開けて姫君を誘導する。部屋の中には男性が1人、片足を忙しく動かし苛ついていた。ブラウンの癖毛を後ろに流し深い緑の瞳で中肉中背。見目が良いといえば良いが神経質そうな男性。


「王子様、お待たせーー」


「遅い!! いつまで俺を待たせる気だ!」


 先導の従者の言葉を遮り怒鳴る王子。ヒッと年嵩の従者達は息を飲んで怯えた。

 苛立ったまま王子は姫を横目に見て


「全く女というのは着飾る事に熱心で周囲に気を使う事が出来ないものだな。

 俺の即位式も今日の結婚式と同時に行うのは知っているだろうに、姫君の準備だけでコレ程時間を取られては予定通り事が進まぬわ」


 ノウゼンカ姫を責めた。

 姫君は、年嵩の従者達と王子の装束の支度が出来上がるのを中庭が見える廊下でずっと立って待っていたのだが、王子はノウゼンカ姫君の着替えが遅かったと言う。


 ーーーどちらの状況が真実かーーー王子と言い争っても無駄でしょうねーーー


 ノウゼンカ姫は王子に礼の姿勢を取り謝った。


「お待たせしてしまい申し訳ありません」


 姫の動きはとても優雅で品があり、年嵩の従者達は姫の王子と争わない態度に安堵した。

 王子も姫の素直に自分に非があると認めた対応に気を納め


「ふん。さあ、時間がないのだ。行くぞ」


 と姫の手も取らずに1人でサッサと歩き出す。

 年嵩の従者が姫君と一緒にと王子に声をかけようか迷っているうちに、姫は長いドレスの裾を自分で摘み、早歩きで王子の後ろを追った。


 ーーー私達は政略結婚ですもの。

 最初から思い遣りや優しさを夫になる人に求めてはいけないーーー


 ノウゼンカ姫は嫁ぐ前に母君から教わっていた。


 ーーーお母様の教えのお陰で王子の態度に必要以上に傷つかないわーーー


 姫君は自分を1度も振り返らない王子の背中を見て


 ーーーああ…私は何故こんな時に、結婚相手ではない名も知らない男への想いを胸の中に抱えてしまったのだろう…消してしまいたいのに想いは膨らむばかり…

 …マジョラム国の王子を私は愛せないかもしれない…

 なんて事を考えるの! 私は…これから…どうかこれから先…恋や愛の感情が王子へ湧かなくてもせめてこの王子(ひと)に私の出来る限りの優しさをもって尽くそう。

 そうして過ごせば、結婚していつの日にか王子と私、気持ちが通じる日がくるわ。

 それでも2人気持ちを寄せ会えなければ、せめて王子には私が王妃として王の隣に立つ事を許して欲しい。私は王妃としてのどんな苦難も受け止めマジョラム国に忠誠を誓うから。

 私の結婚生活には国民の命がかかっている。

 だから私は自分の心に蓋をかぶせて、絶対にマジョラム5世と添い遂げなければいけないーーー


 ノウゼンカ姫は思いもしない場所で夫以外の男に恋に落ちてしまった事に動揺し、さらに夫となる王子の姫への無関心さが姫の心を憂慮させていた。マジョラム国国王5世は即位式も結婚式もノウゼンカ姫に気を配らず、彼女を貴族や国民の前で王妃として大事に扱わなかった。













ここまで読んでいただき有難うございました。

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