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黒い奴隷  作者: 渡辺朔矢
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恋愛運最高潮

 午前1時52分。終電を逃して徒歩で帰宅中。

 深夜といっても大道り沿いは車が走っていて、街灯やコンビニの灯りがあるから女1人で歩いていてもあまり怖くはない。


 ハアー、11月も終わりに近づくと夜は凍えるくらい寒いね。

 暴漢や痴漢に襲われる恐怖よりも寒さから足早になってしまう。

 ああ、でも、今の私の心の中はポッカポッカに暖かい。何故なら今日の八手先輩の結婚式の二次会で出会った男性と連絡先の交換をして、尚且つ今度一緒に食事でもと次回会う約束をしたから。


「…フフフフフ…」


 うー、顔の筋肉が緩むぅ。



 2ヶ月前に占い師さんに呪いの話を聞いて、直ぐに教えて貰った神社で厄払いをした。

 祈祷後は何だか爽やかな気分になり肩の力が抜けた気がして、過剰な女磨きを辞めてスケジュールの見直しをしてみた。


 毎日、朝1時間以上かけていたメイクや40分程かかる髪の毛のセットを止めて、化粧30分ヘアースタイル10分に短縮。

 スタイルを整えるため週2のスポーツジム通いと肌を整えるための週1のエステ。美容院は2ヶ月に1回通い、平日の仕事帰りには料理教室にフラワーアレンジメントも習っていた。

 後は週2のコンパに月2のお見合いパーティーへの参加。…まあ…自分でもやり過ぎだとは感じていたこの内容の中から、本当に自分が続けたいものだけを残して、後は思い切って解約。

 そうしたらかなり自由時間が出来て心と身体に余裕が持てるようになった。


 最初は今まで頑張っていた自分を緩くイメチェンするのは、だらしなくなったと思われるのではと周囲の目が怖かったけれど、苣木先輩や八手先輩から『良い雰囲気になったね』『近頃、そよ子可愛くなった』と言ってもらえたので、多分この選択は良かったんだと思う。



 そして今日の八手先輩の結婚披露宴と二次会への出席もあまり力まないように新しいドレスは買わず、今年の初めの友達の結婚式で着用したワンピースドレスとアクセサリーを身に付けた。このドレス姿は八手先輩に見せたことは無かったし、まだ今年買ったばかりだから先輩に恥をかかせる見窄らしさは無い。


 大体今迄、結婚式は出会いの場なんだからと気合いを入れて新品のドレスや靴、アクセサリーで着飾り出席して思わぬアクシデントに会っていたもの。酷い靴擦れや始めて着たドレスが椅子に座った状態だとキツクて食事も会話もままならなかったり、髪をアップに止めていたバレッタが重くて披露宴途中から頭痛を起こしたり…。お化粧も美容院や行きつけの化粧品売場でスタッフにお願いしたら、濃いメイクだったからか男性達に受けなかった。



 今日はメイクもいつもの自分メイクだから特に問題は起きず、周囲の人達とのんびり会話や食事が出来た。気持ちに余裕があったから八手先輩のウエディングドレス姿に感動したし、披露宴での演出や出し物も見られて楽しい結婚式だったなぁ。


 二次会は結婚披露宴をしたホテルのレストラン。雰囲気も落ち着いていて招待客も皆マッタリと会話や立食を楽しんだ。そんな中、二次会用のドレスに着替えて登場した八手先輩が綺麗でウットリと眺めていたら横から急にグラスを渡された。


「シャンパンはお好きですか?」


 その男性の第一印象は優しそうな人。

 眼鏡をかけた背の高い男性。

 彼からグラスを受け取って今日の主役達の話で盛り上がり、二次会の終わりがけにラインの交換と名刺を貰う。

 (かつら)香太(こうた)さん。年齢はまだ聞けていない。

 桂さんは明日の朝早くから仕事があって三次会は欠席だと言う。私は明日は会社は休みだし、まだ八手先輩と話せて無いから三次会は出席することにした。レストランを出て別れ際に


「そよ子さん、都合が良ければ次の休みに食事に行きませんか?」


 桂さんから誘ってくれて


「…あ…はい! 喜んで!」


 食いつき気味に返事した。だって男性から次に会う約束をされたのは初めてだったから嬉しくて。今までは大体私から『美味しいお店知っているんですよ』とか『今度時間がある時に食事しませんか?』とか声をかけていたから。



 あー、23歳にして漸く私の恋愛時間が始まるのね。

 努力や失敗を沢山して来たけれど、やっと報われそうな気配がする。


 バックから部屋の電子キーを出してかざす。

 ピッ。


「えっ!? …まさか…」


 電子キーに付けておいた占い師さんから貰ったミサンガが切れている。

 ミサンガって願いが叶うと切れると聞いた事があるけれど、こんな新品に近い状態の物が切れるということは今日会った桂さんが私の運命の男性なのか?


 きゃっほー!! こんな嬉しい経験したことがないわ!

 まるで新しい人生の扉が開いたみたい!


「たっだいまぁー」


 玄関を勢いよく開けて自分の家に飛び込んだ。



 ザッ! ボォーーーーーーン!!



「ガッ!? ゴボォ…ボオ!!」


 …家に入ったと思ったら…水の中!?


 …え? …何これ?。


「ガッゴボォ…ボオッ… ゴボォ…ボオ…」


 ヤバイ、くるし…い、息…水面に……出ないと…


「ッゴボォ…ボオッ… ゴボォ…ボオッ…」



 …………………………水の上…………………………どこ?


 …上…………………………いき…………………………くるし…


 …………………い…………………………たすけ………………………


 …て…………………………




 ザァ、バァッツ!!




「ゲッホォッ! …ゲホッケホッ…ゴホッツ…」



「大丈夫ですか?」



 凛とした低い男の声。

 酸欠で眩む目に映る銀髪の青い瞳の美男子?

 ーーーーーー混乱する頭の中は真っ白になり私は意識を失った。


















ここまで読んでいただき有難うございました。

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