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第四章 ケーキを運べ!~パティスリー ララメル 18

 お姉ちゃんが箸を揃えて箸置きに置いたところを、私は間髪入れずに、こっそり冷蔵庫に入れておいた最後のアイテムを取り出した。

「本日はデザート付き! パティスリー・ララメルのプリンアラモードです!」

「あ、あらもおー!」

「言うと思った!」

 ララメルの白山さんは、お土産にといくつかのケーキを持たせてくれた。

 たっぷりの保冷材と共に箱に入れられたケーキは販促も兼ねて職場で配ろうかと思ったのだけど、蟻ヶ崎さんが「誰よりも小花ちゃんが、ゆっくりと味わっていただくべきよ。サンプルは別に調達するから」と言って持ち帰らせてくれたのだ。

 なお、桐林くんの分はあっという間にデイリー課で、「もちろん販促のために」と皆に食べられ「扱いが違う!」と桐林くんが嘆いていた。

 三人分のカップを開けると、甘い香りがテーブルの上に広がった。

 天然着色料を使ったチェリー。一個ずつ丁寧に詰められた、スポンジ、プリン、カットフルーツ。きれいに角の立ったクリーム。

 作るところを見てきただけに、ひときわ尊く見える。

「では、改めていただきます」

 お姉ちゃんがそう言い、スプーンをプリンにさし入れた。

 私は犬若を見て、「カップから出そうか」と訊いた。答は「大過ない」とのことで、またしても舌で器用にプリンをすくった。

「お。これはうまい。この卵寄せにクリームとやらが加わると、味わいが軽くなるな。果実の酸味もあって、次の一口をどう食ったものか迷う。が、どう食ってもうまい」

「卵寄せときた」

「昔は砂糖も貴重でな、こんなに甘いものが食えることはそうそうなかった。そうか、こいつがわざわざ遠出せんでも、その辺りの大店(おおだな)で食えるようになるのか。小花の仕事はやはり大したものだ。それにしても卵がよく効いている」

「いや、私は役に立ったわけじゃ……って、お姉ちゃん?」

 犬若に気を取られて気づかなかったけど、お姉ちゃんの様子が変だった。

 スプーンを持ったまま、目を見開いてプリンを見下ろしている。

「どうしたの? 何か変だった?」

 慌てて、椅子を鳴らして立ち上がる私に、お姉ちゃんが目線を下に落としたまま、頭を横に振った。

「違うの。そうじゃないの。そうだよね、卵が……効いてる」

 お姉ちゃんはそうつぶやいて、プリンをもう一口食べた。

「卵の……味がする」

「さち!」

 犬若が吠えた。

 そして、私にも見えた。

 お姉ちゃんの左肩から、長くにょろりとした縄のようなものが、のたうちながら生えてくるのが。

「わっ!? 何これ!?」

 縄は一本だけではなかった。太さの微妙に異なる三本ほどが、数十センチと伸びてくる。

「動くなよ、さち。うまく噛めん」

 言うが早いか、犬若がその紐――いや、蛇に、三本まとめて噛みついた。

 蛇は痙攣してぐったりとくずおれ、そして、床に落ちる前に崩れて消えた。

「こ……れ……?」

「蛇妖だ。お前に巣食っているうちの、何匹かだ。全滅させたわけではないが、これは長足の進歩と言える」

「やった……」

「え? 小花、やったって、ひゃっ」

 私はテーブルを回り、お姉ちゃんの両肩を掴んだ。

「やった! やったあ!」

 大きな疑問符を表情に貼り付けているお姉ちゃんに構わず、私はその場で飛び跳ねる。

「さち。味が分かるのだな」

「う、うん。昔みたいじゃないけど、でも今までよりは確実に分かる……ような」

「過度に期待させてはいかんと思い、黙っていたことを許せ。よく聞いてくれ」

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