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第四章 ケーキを運べ!~パティスリー ララメル 19

 そして私たちは、お姉ちゃんに、味覚障害の原因と蛇妖について全て話した。

「そうだったの……。小花のせいだなんて、思うわけないのに」

「それは分かった上でだ。妹心というのも、なかなか複雑なのだろうよ。姉心と同じでな」

「小花、私のことがプレッシャーになったりとかは」

「全然。むしろ、やる気出る。私、目標もなく仕事頑張れるほどストイックじゃないっぽいし」

 私は顔の前で握りこぶしを作った。

「でも私、二人にしてもらうばっかりで、申し訳ないよ。最近ようやく仕事は軌道に乗ってきたけど、収入もまだ、それほど多いわけじゃないし」

「そんなこと気にしないでよ。お姉ちゃんといるの、私楽しいもん」

「待て。さち、お前、最近おれに預金額を教えてくれたことがあったな。人間社会の相場を熟知しているわけではないが、おれの知る限り、今の世の中ではなかなかの金額だと思ったが」

「え。お姉ちゃんそうなの? 知らない間にそんなことに」

「でも、あれくらいじゃ、生涯支出には全然」

「しょ、生涯?」

 ちょっと後で、おおよその額だけでも聞いておきたい。

「さち。俺が、まだ普通の犬だった頃の話だが」

「うん?」

「俺の飼い主は、貧しい商家の子供だった。だが商才があったのか、家を継ぐとみるみる店を発展させた。それでも奴は増長することもなく、終生、元々野良犬のおれとも家族のように過ごした。しかし餌は豪華になったし、犬小屋もえらく立派なものをこしらえてくれた」

 犬若の昔話は、実は珍しい。私たちは、小さくうなずいて先を促した。

「金持ちになったからこそ得られた幸せというのは、確かにあった。だが、さちよ。奴が赤貧だったら、おれは奴と別れた方がよかったと思うか?」

「思わない。もしお金がなくても、その子は犬若といたかったと思うよ」

 それを聞いて、犬若が、穏やかな目をして言った。

「それと同じだ。おれたちは好きでお前の傍らにいる。お前のために力を尽くすことを、許してほしい」

 お姉ちゃんが、小さく息を飲んだ。

 私はこくこくとうなずく。

「私も、今のお姉ちゃん充分好きだけど、できることなら、治せるものは治してほしいと思う」

「私、……舌を治したいとは思ってたよ。でも、今のままでも、私なりに幸せだったのも本当なのに……」

「その更に先があるということだ。努力するのは自由だろう」

 お姉ちゃんが、食べ終わったカレーうどんのどんぶりに、震える指を伸ばした。

 残っていたカレーを人差し指にまとわせて、唇に運ぶ。

 その目から、涙がほろほろと落ちた。

「辛い。おいしい。分かる。分かるよ……」

 お姉ちゃんの頬に、犬若が滴をぬぐうように、自分の大きな頬を優しくすり寄せた。

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