断線血累
今からタルト王、ひいてはタルト王国との間にできた誓約を切断しようと思う。
方法は簡単、誓約に使われている魔法より高度かつ魔力の強い魔法で強引に叩き切る。
この魔法は賢者の洗脳すらほぼ弾いたこの洞窟の魔力濃度で完全に効果を発しているところを視ると相当強力なんだろう。
...もしかしてタルト王国に属する全ての人間に繋がってる?そのせいで魔法としてかなり強力だ。
魔法はそのイメージと魔力の量、密度。それに精度とあと発動している存在の数によって効果の強弱を変える。
この誓約に対する仮説が当たってるとしたら約1億はいるであろう数の人間とその魔法を制御してしまう人間相手に完璧な隠ぺいを行ったうえで完璧な解除をする必要がある。
大元はタルト王だろう、たった1人との魔法的な繋がりを切断するの簡単だけど
今回の場合1人でも切断を回避するものがいたら即座にタルト王に感づかれる。
そうなるとボクに対する救援に来るだろう。
それではつまらない。
1度に全ての繋がりを切断することプラス賢者の魔法的な洗脳が無理やり切断されたことで敵対、または裏切りを連想させる。
魔王に捕まったとかなんとか思わせれば成功かな。
ボクの目的は勇者の皆殺し、元の世界にいる人間すべてを殺すこと。
理由はない。
しいて言うならば憂さ晴らし。意味はない。
感知を使って先ほどの仮説が当たっているかを確かめる。
ボクの右手、右手の甲に薄っすらと周りの魔力に溶け込んでしまいそうなくらい薄い一本の太い糸が根を張っている。
文字通り植物のように根を張っている。
その先を辿り洞窟を出て馬の足跡の残る道を抜け、道を分断する川を超えた先にはタルト王国がある。
王国を覆う巨大な結界があるが問答無用にすり抜ける。
王国の丁度真上、城の天辺から枝分かれする太い魔力の糸。
常に様々な方向に移動する糸はタルト王国の国民の利き手と思われる手の甲に根を張っている。
仮説は間違っていなかった。
『ハル・アカツキの称号欄に【名探偵】が発現しました』
あれま、なかなかに嬉しい称号ゲットだぜ!ぴっぴか......すいません。
何はともあれこの後の作業は簡単で難しい。
分かりやすく言うならば無数のプラグを1度かつどれも壊さないように一瞬で抜くこと。
ミスして壊した方がいいかな?
......うん10個ぐらい壊そう。
壊れると言っても利き手が利き手じゃなくなって片腕状態になるぐらいだと思うよ?うん、きっと多分。
......よし魔法陣でも創るか!
魔法陣作成は簡単である。
テキトーな大きさの円を描き、円の中に何をするか書き込むだけ。以上。
そもそもボクレベルの魔法使いは魔法陣なんて使わないし必要ない。
でも今回は初めてやることかつ失敗=救援が来る=計画の頓挫を意味する。
なら万全を期すほかない。
魔法陣自体はバックアップ、それが魔法陣本来の使い方でもある。
しかし能力の低い、または属性が合わない、魔力が足りない時は魔法陣をバックアップとして使用しない。
それは魔法陣の特性が関係する。
魔法陣には種類や書き込まれた内容によるが周囲の魔力を強制的に吸収する特性がある。
それの特性を利用し無理やり魔法を使う者のことを魔術師と呼ぶ。
ボクは今まで魔法陣をバックアップや魔術師として利用したことが無いので書き込む要領が分からないけど、何とかなるでしょ。
書き込む内容は主に3つ
1つ、誓約に繋がっている魔力の糸を束ねること。
2つ、目測で10本無理矢理破壊すること。
3つ、彼方からの感知の妨害。
自分を中心に半径1メートルの円を描く。
円のに沿うように3か所適当な所に文字同士が触れ合わないようにバックアップしてもらう内容を書き込む。
感知で王国の真上を視る。
準備は完了だ。
周囲に魔力をまき散らす。
その魔力は空気中に分布している魔力を巻き込み魔法陣に沿って円を描く。
まるで台風の目の中みたいな光景だ。
感知によって映し出されている王国の上空にはどんどん収束される糸が視える。
数秒の後10本を除いた全ての魔力の糸が完全に一つにまとめられた光景が映し出される。
まとめられた糸を丁寧にそれでいて一瞬でスパッといい音が鳴るような感じで切り裂く。
...これで誓約の切断は成功。右手には根の張ったような跡はない。
次に残り10本の糸を無造作に切り刻む。
感知の視界の端に何人か座り込む姿が映し出されるが知ったこっちゃない。うん知らない知らない。
何はともあれ作戦は完了かな。
『ハル・アカツキはタルト・ジーク・ヒガンとの誓約を切断しました。』
『タルト国に属するものはハル・アカツキに対する攻撃が可能となります』
お?
『ハル・アカツキの称号欄に【魔術師】【外道】【奇術師】が発現しました』
『ハル・アカツキの技能欄に【強制解除】【魔法陣作成】を追加します』
外道って......褒めるなよ......照れる。
ボクは有言実行の男、宣言通りこの洞窟を攻略?破壊?...こ、攻略する!
焦った、うっかり面倒だからやっぱり破壊して雲隠れしようかとか考えちゃった。
いやいやいや、彼らというか前の世界の人間をすべて殺すことが目的なんだからもっと力を付けないと万が一がある。
ならばやるべきことは1つ。
正直ボクはめんどくさがりだ。
目的ができても今までは理想にかまけていて他にできた目的が碌に達成出来なかった。
しかーし、今のボクは違うのだ。
そう...自分を曝け出している。
ボクは面倒くさがりという名の効率重視のロマン派だ。
そのことを念頭に置き現在の目的、状態、状況を加味し最善の方法を見つけ出す。
とりあえず座って少し考えよう。
この世界において魔力濃度が高いは何かと便利だ。
賢者から聞いたことだけでも利点は4つある。
1つ、原則増えないはずの魔力が増える。
2つ、魔法、魔術の効果、威力の上昇。
3つ、感知の阻害
4つ、身体強化のような肉体の能力に直接効果を及ぼす魔法、魔術を自身に使用した場合、素の身体能力、魔力量増幅の大幅アップが起こる。
正直この4つだけでも相当だ。
しかしメリットには必ずデメリットが存在する。
デメリットは1つ。
肉体の崩壊、これだけ。
これだけなら治癒を使い続ければいいと思うけど実際は痛みに耐えれなかったり、治癒ができない、魔力の消費が上回るなどの理由で基本的に魔力濃度の高い所で魔法、魔術を使うことは禁止されている。
本当に少しだけでも使うことは禁止されている。
しかしそれだけに効果は絶大らしい。
話によれば治癒に特化したどこぞの魔物を、魔力の濃い所で治癒と崩壊を1か月繰り返させたところ、発狂したがその魔力量は元々が1000程度が1000000にまで増加していたとのこと。
内容はそこそこ残酷だけど期待値大だね。
「ふぅ...」
一息つき立ち上がる。
右手を閉じたり開けたりし調子を確認する。
......そこそこなコンディション。
軽くジャンプし念入りに確認する。
......うんうん大丈夫。
「...やるか」
一言呟き気合を入れる。
腹の膀胱の近くに力を入れ魔力をグニグニ回転させ全身に塗り広げる。
魔力が全身に行き渡りッ!
ピチャッ......水の落ちる音が聞こえる。
瞬間足元が崩れる。―――いや足が裂けた?
グゥ...くっそ痛いぞこれ。
治癒だ、治癒で早いとこ直さないと血液不足で死ぬ。
しかし息つく暇はなかった。
スパァン!―――鞭のようなもので地面か何かを叩いたときになるような爽快な音が鳴る。
その音の発生源は...右腕だった。
「ガッ!...これは、ここまでは予想外だった」
痛みはボクの感知を遮るようにその強さを増す。
この傷なら治癒で一瞬で治るだろう。でも痛みまで消すことはできない。
壁に寄りかかれる位置まで転移で移動する。
その瞬間に左足が転移のミスで消し飛ぶがその傷すら治癒で瞬きをするより早く回復する。
ズルズルと壁にもたれかかり地面に座り込む。
今この瞬間にも全身の崩壊は続いている。
魔力は考慮に入れない。
内臓が潰れようが脳が破裂しようが全力で治癒を行使してコンマ数秒で体は左手を欠損した、先ほどまでの姿に元通りになる。
血は飛び散る瞬間に無理やり血管に押し込む。
痛みはすでに感じない。
神経が麻痺したのだろう。
しかしほぼ自動で未来予知に近い形で脳は魔法を行使し治癒を行う。
今のボクは身体強化と治癒に全機能を回している。
―――感知が使えない。
死活問題だ。今が死にかけだけど死活問題だ。
視覚情報は感知で補っているから今のこの状況は非常にまずい。
襲われた場合ワンテンポ迎撃が遅れる。
さっきの感知で敵は周囲に居なかったけど、いつまた戻ってくるかわからない。
それなら身体強化を解けばいいと思うだろう。
しかし今のボクの全機能は身体強化と治癒に回していて......その...止めれない。
正確には今ボクの体の中で魔力が暴れまわってて、さらに周囲の魔力が無理に流れ込んできているから体が崩壊を繰り返していて
その治癒にボクの持つリソースの大半を持っていかれている状態。
簡単なことはできる。けど感知はできない。
.......崩壊が終わるまで待つとするか...それしかできないし。
そして結界でも創ろうかと右手を掲げ、そして振り下ろす。
ボクの周りの地面に【界】【界】【界】と同じ文字が3つ刻まれる。
位置は三角形の頂点に1つずつ。
即席の結界だ。
小休憩しようか。
あ、体洗ってない。
『ハル・アカツキの称号欄に【うっかり】が発現しました』
『ハル・アカツキの技能欄に【未来予知】【巻き戻し】を追加します』




