預言者~ヨブの覚醒。03
【第三章】
〈 生まれ出ずる星、去り行く星。〉
ロイヤル三世、治世暦三年【AB-03】
《王都エマール~オリゾン河流域。》
《《《ドドドドドーーーーン》》》
火柱をを吹き上げながら燃える、エマール王国艦隊のガロン旗艦。
モクモクと黒煙を靡かせ大型漁船を追尾している。
やがて、徐々に間隔が開き、漁船の姿は岬の陰へ消えて行った。
その様子をオリゾン河を眺望する神像の丘から目で追う 隻眼の男ガリバーが呟い;た。
『見ちゃいられないねぇ…無敵を誇った王都の鉄壁、王国艦隊の成れの果ての姿があれとは』
『優れた指揮官を失うと、こうも違うもんか…ぁ…』
隣に立つ細い眼鏡を掛けたグラマラスな女がそれに答えた。
スリットの入った民族衣装を着る槍術士、カサブランカである。
『中々、やるじゃない……あのポンコツ漁船』
『あの大砲の形状は、二重スリット光子砲によく似ているけれど……』
『まさか漁船に搭載されているとは思えないわ……』
『もしかすると砲術士が乗っているかもしれないわね…』
『漁船だと思い侮ると、痛い目に遭うわ…』
近くの神像の足元に寄りかかり、海を眺めていた、腹の出た頭の薄い大柄男が近付いて来た。
彼の名はポルカ。
国王の命により、門番兵士の役を解かれ、今はカサブランカと共にガリバーの側近となっていた。
民族衣装を着るカサブランカが気に入ったのか、彼女のところへ近付いて来た。
『お、俺はカサブランカの衣装の方が気になるなぁ。』
(((ビューーーツ)))
カサブランカの槍術の腕が冴え渡る。
ポルカは喉元の手前にある、槍の矛先を手で、ゆっくりと払った。
それから、金貨の入った袋を取り出しカサブランカの目の前に出した。
(((ジャラ、ジャラ、ジャラ)))
『お、俺…金持ちだぞ…欲しいものは何でも買えるし、俺の妻にならないか?…』
カサブランカは、槍を収めて、眼鏡を外し、ポルカの肩に手を置いた。
『世の中、お金も大切だけど、それが全てではないということ…覚えておくことね。』
『女だと思って、侮ると痛い目にあうわよ。』
ガリバーは神像の丘の斜面を降りた 。
その様子を目で追うカサブランカとポルカ。
どこから流れ着いたのか、老人が海辺に横たわっていた。
『じいさん!おい!だいじょーぶか!』
老人を抱き起こし、声を掛けるガリバーにカサブランカとポルカの二人が追い付いた。
ポルカが、老人の顔を覗込み言った。
『この、じいさん、どこかでみたことがあるなぁ?』
カサブランカはオリゾン河の対岸にあった時計台が、倒壊していることに気が付いた。
老人は周囲の騒がしさに、意識を取り戻し小声で話し出した。
『わしは、時計台守りのヨブじゃ……』
カサブランカは表情を強張らせて老人を覗き込んだ。
『あの、めくらめっぽうに、辺り構わず、ライフル銃を撃つ名物じぃさんだわ!……怖い。』
カサブランカから、いつもの気勢が消えて震えている。
彼女はポルカの後ろに隠れた。
ポルカがポッリと呟く。
『お、俺 は……あんたの方が、怖い。』
ガリバーはヨブ老人を抱き上げ、神像の丘まで、連れて行った。
近くに停めてあったカナリア号にヨブ老人を乗せ、ベットに横にならせ語り掛けた。
『直ぐに、ホーミン医師に診てもらう段取りをするから、安心して寝てな…じぃさん。』
ヨブに、そう告げると操縦席に座り、カサブランカとポルカに出発の合図を送った。
カサブランカがガリバーを見詰めて、ポルカに呟く。
『ガリバーて…優しいわね、わたし、あんな人に憧れるわ。』
『俺は……?』
ふて腐れ気味のポルカが路上の小石を蹴った。
ポルカが蹴った小石がカナリア号のデッキから機内に転がり込む。
そのまま 四人を乗せたカナリア号は白煙を吹き上げ、急ぎ王城へと向かった。
機内にあるスクリーンに、ロゴス帝国へ伸びる荒野の道の映像が写し出された。
ランチェスター民兵軍(多国籍義勇軍)が、ロゴス帝国の陸戦ドローン部隊と対峙している様子である。
ランチェスター民兵軍を率いるのは、北風の天使と謳われたミストラルと山の巨人と敵から恐れられるモンテニューだった。
『王都の守りは、俺たちに任せてくれ!』
『お前らは、帝国の根城を潰してくれ!』
スクリーンを手で、叩きながら、ガリバーが叫ぶ。
その時、機内の計器が乱れ始めた。
『何かしら……これ?』
ベットに寝かされているヨブ老人の近くで光る小石にカサブランカが気付いた。
その石を手で拾い上げ、光に翳して叫んだ。
『聖なる石よ!』
その時、聖なる石の七色の光が辺りを照らし輝きだした。
衰弱しきっていたヨブ老人が、木の枝を杖がわりにして、ムクリと起き出し何やら呟いた。
ポルカがヨブ老人に近づき話しかける。
『じぃさん……寝てなくていいのか?』
ヨブ老人は、ポルカを押し退けて、叫んだ。
『光石、現れし時、聖なる預言者、地に立つ! 是、諸人に来る主の裁きを伝えん!』
そう言うと、再びベットに横になった。
四人を乗せたカナリア号は、静かに王城の中庭に降りた。
ガリバーはカナリア号のハッチを開き三人を降ろした。
王城へ 歩き出すガリバー。
その後を追って小走りに、後ろからカサブランカが付いていく。
ポルカが老人ヨブに声を掛けた。
『じいさん……どこへ行く気だ?』
ヨブは、何も告げづに、杖を付いて王都の街へ姿を消した。




