第二次オリゾン河海戦、王国艦隊、撃沈す!(パピヨン.ハート~隻眼のガリバーの勇躍。)03
ロイヤル三世、治世暦、三年【AB-03】
《ロレンソ湾~オリゾン河》
ロレンソ湾から、オリゾン河へ入って来た、大型漁船。
ドクロに牛の角を、あしらった旗印がマストに、たなびく。
漁船には、似つかわしくない大きな大砲が目をひく。
『じっちゃん、そろそろ、海賊家業、やめたらどう?』
パピヨンが祖父のドンキーに語り掛けた。
『ばかもん! 何度、言ったら分かるんじゃ!』
『海賊じゃない!義賊じゃ!』
パピヨンはドンキーの言葉を受け流し更に続けた。
『義賊は、牛や豚を勝手に略奪たりしないしー!』
『じっちゃんは、やってる事と、言ってることが違うー!』
ドンキーは顔を真っ赤にして怒った。
『あれは、略奪でない!』
『戦争で死んだ家畜の処分をして、街の衛生管理に貢献しておるのじゃー!』
パピヨンは呆れ顔で返事を返した。
『じゃー誰かに頼まれたわけ?』
ドンキーは胸を張って答えた。
『ボランティアとかいうもんじゃ!』
『言われてからやるような奴は、偽善者じや!』
パピヨンは沖合いから、近付いて来る戦艦を指差しドンキーに訊ねた。
『じゃあ、どうして、王国艦隊に追いかけられるわけー?』
ドンキーは双眼鏡をパピヨンに手渡した。
『あの戦艦の旗印を、よく見てよ!』
パピヨンが呟く。
『趣味悪いー! 金貨の山の紋章』
バルトが舵を大きく切って、砲口をガロンの艦隊に向けた。
『悪徳将軍!ガロンじゃ!』
『奴こそが、大悪党じやー!』
『パピヨン! 砲台に着け!』
『お前の砲術学校、首席の腕前、わしに見せてくれ!』
パピヨンが顔を脹らませて答えた。
『こんな事のために、技術習得したんじゃないのにー!』
『もう、いやだー!』
《《《ドドドドドーーーーン》》》
漁船の両側に高い波しぶきが上がる。
『奴ら、撃ってきゃがったー!』
『正当防衛じゃ!、パピヨン』
『遠慮することないぞ! 、撃ち返すんじゃー!』
『何をしておる?、早く撃つんじや!』
砲台に着いたパピヨンがドンキーの方を向き直りトリガーに手を置いた。
『砲撃指示、待ってるんだけど~』
ドンキーは、ズルッと足を滑らせて答えた。
『ここは、砲術学校じゃない!』
『実戦じゃー!』
『う、う、撃てーー!!』
パピヨンは、砲撃指示に従い発砲した。
《《《ドドドドドーーーーン》》》
砲弾がガロン艦隊の、かなり手前に着弾したのを確認したパピヨンは、標準を合わせた。
『じっちゃん!今度は外さないよー!』
『砲術師パピヨンの本領、見せて上げる!』
慎重にガロン将軍が乗る旗艦にターゲットを絞る。
パピヨンは再度、トリガーを引いた。
白線を引いて、弾頭はガロンの乗る旗艦の砲台に着弾した。
《《《 ガガガガーーーーン》》》
ガロン旗艦に搭載されている砲台が木っ端微塵に砕け散った。
看板から火柱が上がり、右往左往する兵士達が消火に奔走する姿が見える。
ドンキーが、その様子を見てパピヨンに呟いた。
『お前も、義賊の頭領になる資質、十分有りと見た!』
消火を終えた、ガロンの艦隊が再度、漁船に追撃を開始した。
パピヨンが大砲のトリガーを艦隊目掛けて引く。
(((カチッ…カチッ)))
『え?……もう、玉切れー!!』
ドンキーは羽根帽子を深く被り直して、叫んだ。
『全速前進!、王都、エマールへ!!』
パピヨンは呆れ顔でドンキーに呟いた。
『逃げるのかぁ~』
…………………………………………………………☆
《数週間が過ぎた或る日……》
『親方 ~3足鴉の群が巣から出てき ましたよ 』
王都エマールを臨むオリゾン河の沖合いに浮かぶ、真理の言葉帝国の巨大空母プロパガンダ。
直接援護機、通称、三足鴉の編隊が次々飛び立つ。
『親方ではない ガ ン指揮官様と呼ぶのだ!』
細く長い口髭を上に反らしながら王国艦隊指揮官に昇進したガロン将軍が胸を張った。。。
『どうでもいいけどーここは先制攻撃したもん勝ち です。』
『速く大砲、ぶっぱなしちゃい ましょうよ !』
砲術学校を、主席で卒業したばかり の女砲術士官、パピ ンの論談が 始まった。
彼女は、亡くなったエマール王国の第三王子、アランドール子爵の葬儀で、哀悼の砲を空に放つ役目を王妃フランソワから賜っていた。
その縁が切っ掛けとなり、士官の道が開かれたのである。
その後、彼女の、軒並み外れた砲術の腕が見込まれ、王国艦隊副官としての任へ国母ソフィアの推奨により就いていた。
しかし、本来の目的は、王妃の依頼を受け、ガロン指揮官が帝国と通じているとの情報が、本当か、否かを確かめるために同乗していた。
『いや 、まだだ!』
『 もう少し、三足鴉を引き付 けてから砲撃した方がよい! 』
『パピ ンとか言ったな ……砲術学 校を主席で卒業したそうだが実戦 は、まだ経験がないのであろ う! 』
『ワシの指揮ぶりを見て、後学の基 礎とせよ !』
パピヨンは、横目づかいでガロン指揮官を見て呟いた。
『王妃様の言った通りだ……メッチャ怪しすぎー!、このオヤジ……』
『何か、言ったか?』
ガロンが首をパピヨンに少し傾け睨んだ。
『別にーーー!』
しらを通し、空を見上げるパピヨン。
『どうにも、気に入りない娘だ!』
『目上の者への、礼儀かが、なつておらん!!』
『軍人は、規律を重んじなくてはならん!』
パピヨンは顔を真っ赤にして怒鳴るガロンに呆れて、主砲の上に腰かける。
『起立!!』『着席!!』『礼!!』
『これぐらい、学校でならってるしー!』
…………………………
『もう!』
『三足鴉が餌に飛び付きたくてウズウズしてるよ!』
『頭領!、三足鴉が、横に広がったよー!』
『襲ってくるー餌にされちゃうよー!』
『ここは、セオリー通り、艦隊を横展開から方円に変更した方が安全では?』
三足鴉の思惑を見抜いたパピヨンが ガロン指揮官に助言した。
『頭領ではない!』
『 指揮官様と呼べ と言っておる!! 』
『何度、同じことを言わせるの だ!! 』
パピヨンが、ガロンの言葉に左目を上にして考え込んだ…………
『たしか……同じことを以前、誰かに言われたー!』
戦いの進展を見守るように 一隻の大型漁 船が神像の丘を見上げる岬に停泊 してた。
漁船の広い甲板には赤い戦闘機と隻眼の火の鳥ガリバーの姿があった。
気品のある紳士と、その横には不釣り合いな傭兵の姿。
『国王陛下、おっぱじまります よ! 』
『約束の礼金の方は、頼みました よ!』
『 婚礼を控えているもの で、何かと物要りでしてね! 』
国王ロイヤル三世は、少し顔を曇らせてた。
『陛下……どうかしましたか?』
『まさか、金欠とかですか……』
ロイヤル三世はガリバーに、袋が張ち切れんばかりに金貨の入った袋を手渡した。
『そうではない…この戦が落ち着いたら、お前に話さなくてはならないことがある……』
『今は、目の前の敵の撃破に集中してくれ!』
『航空戦力のないエマール国にとって、お前は貴重な存在だ!』
『隻眼 の火の鳥ガリバー よ!』
『大いに期待して おるぞ! 』
『俺は傭兵です!陛下。』
『金さえ貰えたら何でもやり ますよ!』
『早速一鳴きしてきましょう かー!』
カナリア号へ歩き出すガリバーの前を遮るロイヤル三世。
『いや暫く様子を見るこ としょう…… 』
傭兵ガリバーは国王の出撃命令を 待った。
(((ドド ン ドド ン ドド ンーーーー!))
三足鴉のドローンミサイルが王国艦隊に 次々と炸裂する。
『なんでー?』
『防御シールドは、常識でしょーう!』
『大指揮官さまー!』
『これじゃー反撃しない内に、全艦、撃沈されちゃうよー! 』
『この、オヤジ……頭、いかれてる』
『だめだー!』
『この戦、負け率……』
『100パーセントーーーっ!!』
空を自由自在に飛び回困、艦隊目掛けてミサイルを放つ三足鴉に惑の表情を見せるパピヨン。
見計らったように、ガロン指揮官が砲撃命令を下す。
『目標 !』
『帝国空母 !』
『全艦 砲撃 準備! 』
パピヨンはガロン呆れ顔でを見 た。
『はぁ?……砲撃準備してなかったのー!』
『大指揮官さまー!』
『この距離で砲弾は、三足鴉の巣に届きませんよー! 』
『少女、ラパンちゃんでも、わかるのに……なんでー?』
『それに…お家芸の四段スリット光子砲は、どこへ持っていったわけ?』
『何を、ゴチャゴチャと言っておる!!』
『小娘は、 黙って儂の神業を見ておればよいのだー! 』
パピヨンの助言に、全く耳を貸さないガロン指揮官は全艦に命を下した。
『砲撃開始 !』
『撃てーーー! 』
空砲にも似た白煙が空に虚しく線を引いた。
横一列に並ぶ王国艦隊は、 一隻、また一隻と、甲板に三足鴉からのミサイル攻撃を受け火の手を上げて撃沈されてゆく。。。
その光景に、肩を落としてパピヨンが叫ぶ。
『わ た しは、もう、大指揮官さまーにお付き合いできないー!』
『救命ボートを一 隻、お借りします!』
『 では……グッとラック! 』
『お前!…… どこへ 行くつもりだー!』
『まだ戦 は終わっておらぬぞ! 』
ガロン指揮官の呼び声を背にパピヨンは救命ボートでで神像の岬を目指した。
激しく燃え上がり、傾き掛ける艦船の列。
王国艦隊はガロン指揮官の旗艦を残し全て撃沈されていた。
敗軍の将軍には、相応しくない含み笑いを浮かべるガロン指揮官。
彼も、護衛の兵士に囲まれながら救命ボートへ乗り込む。
神像の岬とは、反対方向へとボートを漕ぎ出す。
三足鴉の群れはガロンが旗艦から離れたことを確認すると上空からミサイル集中攻撃を残りの艦船に加えた。
大陸に有名を馳せた王国無敵艦隊。
ガロンの帝国への内通という裏切りにより呆気のない最後となった。
神像の岬に停泊する大型漁船の横を救命ボートで通り過ぎるパピヨン。
国王ロイヤル三世と隻眼の火の鳥ガリバ ーが甲板に立ち沈み行く艦隊に目を凝らす。
パピヨンは、甲板に立つ二人と視線を交わして敬礼し、その後、神像の丘へと撤退した。
国王ロイヤル三世は、凱歌の雄叫びを上げて帰投する三世鴉の母船、巨大空母プロパガンダを、ゆっくりと指差しガリバーに告げた。
『隻眼の火の鳥、ガリバーよ!!』
『あの三足鴉の巣を粉微塵にして、王都エマールの危機を救ってくれ!!』
隻眼のガリバー親指を立てて応、国王にえて見せた。
『いくぜ 火の鳥、カナリアーー!!』
走りだしカナリア号へと、素早く乗り込むガリバーの最中に国王が呟いた。
『火の鳥!』
『咆哮の時、来たりー!!』




