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夜空と魔蒔ボトルとピリ辛マヨ

 夜風が、噴水広場を吹き抜ける。


 都市スターティアの中心部。


 昼間の喧騒が嘘のように、

 広場には張り詰めた空気が漂っていた。


「……なんだよ、ナナミ!」


 白い鎧姿のまま、真宵が苛立った声を上げる。


 その視線の先。


 赤髪の少女――ナナミが、

 冷たい瞳で真宵を睨みつけていた。


「気安く、呼ばないで」


 低い声。


 次の瞬間。


 ゴォッ――!!


 ナナミの周囲へ、赤い魔法陣が展開された。


「うおっ!?」


 放たれた火炎弾が、一直線に真宵へ襲い掛かる。


 だが、真宵も反応した。


「っ!!」


 白いマヨエネルギーを纏った拳を振り抜く。


 ドォンッ!!


 火炎弾が、空中で弾け飛んだ。


 爆炎が、噴水広場を赤く染める。


「なんで攻撃すんねん!?」


 真宵が、爆煙の中から叫ぶ。


「あんたも指示してくれたやろ!」


「……あれは緊急措置よ」


 ナナミは、冷たく言い放つ。


 赤い瞳には、苛立ちと焦りが混ざっていた。


「バカが使えば、暴走して周りにも被害が出るでしょ?」


「それは聞き捨てならんな!」


 真宵が、ムキになって叫ぶ。


「俺は、バカちゃうわ!!」


「そこ否定するの?」


 ナナミが、呆れたように眉をひそめる。


 だが、その右手は止まらない。


 ゴゴゴ…….。


 より巨大な赤い魔法陣が、

 ナナミの背後へ展開されていく。


 空気が、熱を帯び始めた。


「っ……!」


 真宵も、拳を強く握り締める。


 白いマヨエネルギーが、腕装甲へ集まり始めた。


 一触即発。


 その瞬間だった。


「もうっ!!」


 バッ!!


 二人の間へ、マリが勢いよく飛び込んだ。


「二人とも落ち着いてぇぇぇ!!」


「マリ!?」


 ナナミが、ぎょっと目を見開く。


 慌てて魔法陣を解除。


 赤い光が、空中へ霧散していった。


「まったくもう……!」


 マリが、涙目で二人を睨みつける。


「街のど真ん中で何してるんですか!!」


「いや、だってコイツが――」


「真宵さんもです!!」


「うっ」


 真宵が、言葉に詰まる。


 夜風が、静かに吹き抜けた。


 しばしの沈黙。


 やがて真宵は、ナナミを見ながら小さく呟く。


「……ほんま」


 赤い魔法陣の残光。


 空中に残る熱気。


「化け物やな……」


 その瞬間。


 マリの視線が、ギロリと真宵へ突き刺さった。


「真宵さん」


「……はい」


「今の言い方、失礼です」


「すんません……」


 しゅん、と肩を落とす真宵。


 一方。


 ナナミは、ゆっくり真宵へ近づいていく。


 コツ、コツ、と靴音が響く。


「……何すんねん」


 真宵が、少し警戒したように後ずさる。


 だがナナミは答えない。


 そのまま、

 真宵の左腕――黄金の腕輪へ触れた。


 カチッ。


「……あ」


 次の瞬間。


 プシュゥゥゥッ!!


 白い蒸気が吹き出す。


 真宵を包んでいた白い鎧が、

 光の粒となって次々と剥がれていった。


「うおおおっ!?」


 慌てる真宵。


 数秒後。


 そこに立っていたのは、

 いつもの私服姿へ戻った真宵だった。


 ナナミは、静かに腕輪を回収する。


「しばらく没収」


 だが、その瞬間。


 ――キーン!


「っ……!」


 ナナミの身体が、ぐらりと揺れる。


 頭を押さえ、苦しそうによろけた。


「その身体じゃ、無茶やで」


 真宵が、少し真面目な声で呟く。


 だが。


「……私なら、あんな無様な失敗はしないわ」


 ナナミが、鋭く言い返した。


 赤い瞳には、怒りと悔しさが滲んでいる。


「貴方は、本体の人間を取り逃がしたのよ!」


「……どういうことだ?」


 真宵が、眉をひそめる。


 ナナミは、小さく息を吐いた。


「……あの黒狼は、ただの魔物じゃないの」


 夜風が、赤い髪を揺らす。


 ナナミの瞳が、静かに細まった。


「魔神タバスの眷属=魔人によって、“魔蒔ボトル”を埋め込まれた人間の感情暴走エネルギーによって生まれた、“宿主の感情の塊”……それが、さっきの黒狼よ」


「……えっと、なんて?」


 真宵が、ぽかんと呟く。


「だから」


 ナナミは、低く続けた。


「さっき貴方が倒したのは、宿主の感情の一部でしかないってことよ」


 沈黙。


 夜風だけが、静かに噴水広場を吹き抜ける。


「…………」


 真宵は、しばらく固まっていた。


 やがて。


「……えと」


 頭を押さえながら、ふらふらと呟く。


「ワケワカメ過ぎて、頭がCongratulationsなんやが?」


「どういう状態ですかそれ」


 マリが、即座にツッコんだ。


 そして慌てて、二人の間へ割って入る。


「つ、つまり!」


 マリが、ビシッと指を立てた。


「犯人の“魔蒔ボトル”を破壊するのが、

  私たちの目的ってことです!」


「……魔蒔ボトル?」


 真宵が、首を傾げる。


「そうです!」


 マリは、こくこく頷いた。


「そのボトルが、人間の感情を暴走させるんです!」


「なるほど……?」


 真宵は、まだ半分くらいしか理解してなさそうな顔だった。


 そんな真宵を見ながら、ナナミが冷たく言い放つ。


「だから、あの魔物を完全に消すには、魔蒔ボトルを破壊しないといけないってわけ」


 赤い瞳が、真宵を真っ直ぐ見据える。


「……分かったなら、もう私たちと関わらないで」


 そのまま、ナナミは踵を返した。


 赤い髪が、夜風に揺れる。


「ちょ、待てや! ナナミ!」


 真宵が、慌てて呼び止める。


 ナナミは、ぴたりと足を止めた。


「……貴方に、呼び捨てを許可した覚えはないけど」


「まあまあ!」


 真宵が、へらっと笑う。


「細かいことは気にすんなって!」


「気にするわよ」


「で、つまり!」


 真宵が、ビシッと指を立てた。


「あの黒狼生み出した犯人探したらええってわけやな!」


「……貴方に出来るのかしら?」


 ナナミが、呆れたように目を細める。


 だが、真宵はニヤリと笑った。


 そして。


 ポケットから、マヨネーズボトルを取り出す。


「――ああ、出来るさ!」


 夜空へ向かって、勢いよく掲げた。


「このマヨパワーでな!!」


「……」


 ナナミが、無言になる。


 数秒の沈黙。


 やがて。


「……バカと話すのは、時間の無駄ね」


 呆れ果てたように呟き、

 今度こそ歩き出した。


「あっ、待ってよ! ナナちゃん!」


 マリが、慌てて後を追いかける。


 赤髪と銀髪。


 二人の背中が、夜の街へ消えていった。


 噴水広場に、一人残される真宵。


 しばらく静かに立ち尽くした後――。


 真宵は、小さく拳を握った。


「……絶対に、認めさせてやるからな」


 その呟きは、夜風の中へ静かに溶けていった。


 ◆


 薄暗い酒場。


「クソが……!」


 ガラムが、机を叩く。


「なんなんだよ、あの白鎧……!」


 黒狼を倒された焦り。


 胸元の赤黒い光が、不気味に脈打っている。


 その時だった。


 コツ――コツ――。


 静かな靴音が響く。


 酒場の奥。


 一人の男が、ゆっくり姿を現した。


 長い金髪。

 仕立ての良い貴族服。


 そして――獣のように鋭い瞳。


 男は、ガラムを見下ろしながら、

 静かに微笑む。


「随分と、荒れているようだな」


「……あ?」


 ガラムが、ぎろりと睨み返す。


 だが次の瞬間。


 男の瞳が、金色に妖しく輝いた。


「力が欲しいか?」


「……ああ」


 ガラムの口元が、ゆっくりと吊り上がった。


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