第八話 噂話
レイは今日も学院内の調査を始めた。真っ先に学院の裏手へと向かったが、何の手がかりも見つからなかった。正直ここばかり調べていても時間の無駄だ。そう思い別の場所へ移動しようとしていたその時、
「あなたは確か、レイ・ワーグナーでしたよね」
突然声をかけられた。振り返るとウィズリー先生が立っていた。
「こ、こんにちは」
「こんな時間にどうしたんですか?」
「えっとぉ、少し道に迷ってしまって…」
咄嗟に言い訳した。さすがに調査だとは言えない。
「そうでしたか。確かあなたは編入生でしたよね。はじめは慣れませんよね。ちなみにどこへ行く予定だったんですか?」
「えっとぉ…図書館です」
「図書館ならこのまままっすぐ行って、右に曲がればすぐですよ」
「あ、ありがとうございます」
調査していることがばれないか、終始冷や汗をかいていた。しかしばれた様子はなかったらしい。それにしても、教員に名前を覚えられているとは。あまり名前を覚えてもらえることのないレイにとっては、素直に嬉しかった。
自室に戻ったレイはコーヒーを淹れた。コーヒーはレイにとって数少ない楽しみの一つだ。もちろんブラックである。甘いものはあまり得意ではない。コーヒーをちびちびと飲みながら、今日の成果をまとめた。今日もどっと疲れた。授業では炎属性魔法が使えるということにした。今後はほかの魔法は控えるべきだろう。
「にしてもウィズリー先生に名前を覚えてもらってたなんて、嬉しいな」
まだ悦に浸っていた。
数日後、レイはいつも通りエリナに連れられて昼食をとっていた。
「そろそろ学院にも慣れてきたころじゃない?」
「そうだね。やっと迷子にもならなくなってきたよ」
「なにそれ」
エリナはくすくすと笑った。
「そういえば知ってる?最近図書館のあたりで、なんか変な感じがするって言ってた子がいたんだけど」
「変な感じ?」
「うん、なんか方向感覚がおかしくなったとか、気分が悪くなったとか。まあ噂程度の話なんだけどね」
「そっか」
「気にしすぎかしらね。私はそんな感じしなかったけど」
エリナはそう言ってサラダをほおばった。
そんな他愛のない会話をしていたその時、レイはふと気がついた。
(もしや…)
レイはしばらく黙り込んだ。




