十三、二十年隠されていた真実
雪華は飛び起きた。
(え?ここは私の部屋?)
痛む頭を押さえながら横を見ると座っている林晨と徐媛の姿があった。
「養父上?養母上?」
「いつまで寝てるのよ、小蘭」
「まさかお前が酒が飲めないとはな」
二人は笑いながら雪華を見ていた。
「私どうやってここまで来たの?」
「翰様が抱きかかえて運んでくれてたわよ。いつもお調子者な感じだったけど、黙っているといい顔の男なのね」
「まぁ、俺には負けるがな」
下品な笑い方をする林晨の頭を徐媛がはたいていた。
「今年の誕辰に第四皇子と婚姻するのでしょう。小蘭ももうそんな歳なのね。しかも、第四皇子とだなんて。いい話ね」
雪華は、うんと返事をしながらもどこか上の空だった。今は翰のことが気になってしょうがなかった。
(あれは事故だから。気にしてはだめ。私は月亮様と婚姻するのだから。翰兄様は兄上だから・・・)
雪華もあの時以来、自分の感情がわからなくなっていた。
慈安寺は馬を飛ばせば劉家からそれほど遠いところではなかったが、山の奥深くにあるため、地図なしではたどり着けそうになかった。
建物は古く、それほど大きくないが、一目でわかるほど手入れが行き届いていた。深い緑色で統一されており、遠目からみると木々に埋もれ、同化しているように見える。門はそれほど大きくはないが、塀の高さが翰の身長の二倍はあった。
翰は力を込めて、門を叩いた。
中からは三十半ばぐらいの僧侶らしき人物が出てきた。背が低く、目は開いているのかわからないくらいの狐目をしていた。
「新年そうそう珍しいですな」
僧侶は穏やかな口調だったが、外に出たら門を閉め、警戒しているような様子だった。
「私は劉翰と申します。莫柔という女性についてお聞きしたいことがあり、伺いました」
「劉翰・・・。あぁ、琳琅様の息子ですね。どうぞ、お入りください」
僧侶は再び門を開け、翰を招き入れた。
僧侶の話だと、この場所は皇族か白き姫の家族以外立ち入ることができないらしい。そのため、皇族と白き姫の家族に関しては名前と年齢を把握している。代々この慈安寺を継いでおり、ここから出ることができないという。ここに嫁いだ娘も一生ここを出ることは許されていない。
翰は座布団が置いてあるだけの何とも寂しい部屋に案内された。妻とみられる女性が茶を持ってきてくれた。
「そうそう、莫柔という女性の話でしたね。二十年前でしたら、父の時代ですので、私はよく知りません。しかし、父は日々の出来事を全て記録してあります。それを見れば、何かわかるかもしれません。ご案内しますよ」
翰が連れられていった部屋には先程の味気ない部屋とは異なり、所狭しと書物が置かれていた。
(すごい書物の量ですね・・・)
僧侶は、これでも一応、整理整頓はしているつもりですよと言いつつ、二十年前の記録を探していた。
「翰様、ありました。ここが二十年前の記録の書かれた書物です」
翰は二十年前の記録の書かれた十二冊の書物を一冊ずつ丁寧に読んでいた。
(ありました。莫柔。ん?母上と叔父上の名前もありますね)
翰はこの書物を読み進めていくうちに、驚くべき事実を知ることとなった。
◇◇◇二十年前◇◇◇
琳琅と濤は慈安寺に向かっていた。
「母上が言っていたの。懇願したいことがある時は慈安寺を訪れなさいと。あの人も戦に出て、帰って来ませんし、毅が生まれて四年も経つのに子ができないわ」
琳琅は家豪が戦に行ってから数か月もの間、帰って来ないことへの不安と、白き姫としての娘を産むどころか子ができないことで焦っていた。
もう少しで慈安寺に着くという時に、道に倒れている女性がいた。
濤が駆け寄り、女性を起こすと身ごもっているようだった。
二人はその女性を馬車に乗せ、そのまま慈安寺に向かった。
「琳琅様、お腹の子は大丈夫そうです。ただ、かなり衰弱されてます。目覚めるまではこちらを口に流してあげてください。お腹の子はあと三月ほどで産まれるでしょう」
慈安寺の僧侶、秀念そう言って、琳琅に水のようなものを渡した。
琳琅は秀念に言われた通り、目が覚めるまで来る日も来る日も与え続けた。
その女性は十日後にようやく目を覚ました。
話しができるようになったのはそれから三日後のことであった。
「琳琅様、濤様、本当に助けていただきありがとうございます。お腹の子も無事でよかったです。私は莫柔と申します」
琳琅は莫柔の両手を握りながら、何があったのか詳しく話してもらえるかしらと問いかけた。
莫柔は悲しい事を思い出したのか表情が曇っていた。大きな深呼吸をして、ここに至るまでの経緯を話しはじめた。




