五、覚悟を決めた者たち
高瑾は皇帝の前に立っていた。
皇帝は勝ち誇ったかのような顔で高瑾を見ていた。
「お久しぶりでございます、皇上」
「やはり、いつ見ても美しいな。朕も勿体ないことをした」
皇帝は笑っていたが、高瑾はその笑い方に虫唾が走っていた。
「瑾、朕は実にいいことを思いついたと思わないか。お前のような美しく、この国にとって神のような存在が増えるのだぞ」
「お言葉ですが、皇上。皇上もご存じですよね。私にはもう子が産めません。そんなことをしても無意味であることを。私と交わらせようとしたところで、何も産み出せません。本来ならば、私と皇上は協力関係でなければなりません。それでこそ、この国の平和は保たれるのです。過去の皇上たちもそのようにしておられました」
「それは先帝たちが巻物の言葉を鵜呑みにしているだけだ。やったことがないからだ。でも、朕は考えたのだ。他の者と交われば子が宿るかもしれない。それは不可能だと言い切れるか?それはわからないだろう?」
高瑾はこの皇帝には何を話しても無駄だということを理解した。
「そうですか。では最後に一言だけ」
高瑾の穏やかな表情が一変し、琥珀色の瞳が輝きを増し、白き姫というより、白き鬼のようだった。
「皇帝趙志強。あなたはまだ自分の愚かさを理解していないのですか?この国の平和を望むなら、もっと民に目を向けるべきです。あなたの時代にどれだけの民が苦しい思いをしているか知らないでしょう。私が平和の象徴ならば、皇上、あなたは戦争、混乱、貧困の象徴です」
皇帝は高瑾の言葉に怯んでいた。腰を抜かしながら、震えていた。
「黙れ!黙れ!黙れ!朕に向かって何という口の利き方だ。誰か!」
皇帝の叫び声を聞き、二、三人の宦官が部屋に入ってきた。
「お前ら、この女をあの部屋へ連れていけ!」
高瑾は宦官たちの手を振り払い、ついていきますと宦官に案内させた。
「瑾、お前は所詮、私の手のひらで転がることしかできないのだ。せいぜい、楽しめ」
皇帝はそう言うと下卑た笑いをしていた。
高瑾は一切振り向かずに、部屋を出た。
楊家の門を叩く音がしていた。
従者の者が行こうとしたが白狼が止めて、門へ向かった。
家軍は部屋から出て、門からこちらへ向かってくる白狼を見ていた。
白狼は一人の少年を連れて来ていた。歳は十二、三ぐらいだろうか。見るからに物乞いの少年だった。
「狼、その子供は何だ?」
「劉将軍、この少年が門を叩いていて、話を聞いたら、見知らぬ者に紙を渡され、この屋敷の者に渡してほしいと頼まれたと」
少年は一枚の紙を渡してきた。
家軍がその紙を見ると、衝撃のあまり、紙を握り潰してしまった。
「劉将軍、どうしたのですか?」
「高瑾が・・・」
「将軍様、その紙を渡した人が皇太子殿下にも伝えろと言っていました」
少年は淡々としていた。
「あぁ、わかった」
家軍は少年に銀子を渡し、これで飯をいっぱい食えと頭をなで、帰した。
家軍がどうすべきか悩んでいたら、後ろから戸が開いた。
「家軍、瑾を助けに行くぞ」
白狼は剛泰に駆け寄り、まだ安静にしないとと言ったが、聞く耳をもたなかった。
家軍も剛泰の気持ち理解し、
「よし、剛泰、後宮へ乗り込むぞ。狼、濤にこの紙に書いてあることを伝えろ」
渡された紙はしわだらけで読みにくくなっていたが、何とか解読できそうだった。
「劉将軍、旦那様。濤様に鳩を飛ばし、私も後を追いかけます」
家軍は首を振りながら、
「お前は来るな。まだお前は若い。狼、後宮の方角にこの花火が上がったら、後宮に向かえ。その時はお前から濤たちに伝えてほしいことがある。わかったな」
家軍の眼差しの奥に息子の家豪を見ているように感じた。
(まさか、二人とも死ぬ気なのでは・・・)
「家軍、行くぞ」
「あぁ」
二人は後宮に向けて馬で駆けていった。
白狼は紙に書かれていたことと、剛泰と家軍は死ぬ覚悟であることを綴った文を鳩に託した。
「上手くいったか?」
「はい、大丈夫です。銀子をもらってしまいました。私はそれほど物乞いに見えますか?」
「一番見えるからお前にしたんだよ」
先程の少年は仲間らしき者たちと合流していた。
「暗軍はいつでも攻める準備はできてる。しかし、あの方の指示がないと動けないな」
「大丈夫ですよ。おそらくもう向かっているはずですよ。あの方は皇帝になるべき方です。きっと終わらせてくださいますよ」
少年を含む五人の男たちは笑顔で頷いていた。
「では胡風、ここは頼むぞ。皇太子殿下と合流したら知らせてくれ。私たちはそれぞれ配置につく」
五人の若者はそれぞれ散っていった。




