四、最後に伝えた言葉
濤はゆっくりと戸を開けた。
そこには離れたくないと泣きながら高瑾にすがりついている琳琅の姿があった。
高瑾の目にも大粒の涙がこぼれていた。
「濤、琳琅を連れて出て行って」
そう言うと高瑾は琳琅を無理やり引きはがし、濤の託した。
「皇太子殿下、家豪、琳琅を頼みます」
濤と琳琅はこれが母との最後に別れになると感じていた。
静宜が琳琅の荷物も持ち、高瑾に涙ながら、跪き、深々と頭を下げていた。
「奥様、身重な私を侍女にしてくださり、その上、息子たちも立派に成長させてくださりました。この御恩は一生忘れません。息子共々、琳琅お嬢様をお守りします」
「静宜、頼むわよ」
高瑾は最後に静宜を温かく抱きしめた。
「狼と竜が裏に馬車を用意しております。急いでください」
静宜は琳琅の頭に布をかぶせ、首元で縛った。母上と叫ぶ琳琅の手を無理やり引っ張り、裏手門へ走った。濤、志偉、家豪も後をついていった。
琳琅と静宜は馬車乗り込み、他の者は馬車の周りを馬に乗り囲んだ。
「では、行きます」
白竜は勢いよく馬車を走らせた。
その頃皇帝の軍は楊家の近くまで迫っていた。
家軍も剛泰に合流し、戦っていた。
「家軍、あの者たちは何者だ?敵ではないと思うが」
「私も知らぬ。でも味方であることは確かだ。ここで私たちを助けるとは。頭のおかしいやつらだろ」
「間違いないな」
二人は皇太子の配下の者とは知らずに共に戦っていた。
「家軍、お前もただでは済まされないぞ。今からでも遅くない、手を引け」
「もう遅いさ。尚書のお前にこの軍を相手できるわけないだろ。将軍の私に頼れ。それにお前にも私にも跡を継ぐ立派な息子がいる。そして、この国を良い国にしたいと考えておられる皇太子殿下もいらっしゃる。最悪、私たちが散っても、息子たちが腐ったこの国をきっと変えてくれるはずだ」
剛泰は家軍の言葉を聞き、高笑いした。
「家軍、お前の言うとおりだ」
一人の皇帝の軍の者が叫びはじめた。
「白き姫が後宮へ向かうとおっしゃった。そして、その代わりに、夫の楊剛泰、将軍劉家軍、楊家の護衛の者たちには一切手出ししないようにとのことだ」
剛泰は手の力が抜け、剣が地面に落ちた。
家軍は呆然と立ち尽くしていた。
剛泰は瑾の名を叫びながら家に向かって走っていった。家軍も後につづいた。
家の前では馬車に乗せられる高瑾の姿があった。
皇帝の軍が槍で塞いでおり、高瑾に近づくことはできなかった。
高瑾は馬車に乗り込む前に剛泰を見つめ、一礼をし、こう言った。
「あなた、愛しています」
剛泰は槍が刺さっても気づいていないのか、前に進もうと必死になっていた。
見かねた家軍が剛泰を捕まえ、力づくで止めた。
「離せ、家軍!離せ!」
高瑾を乗せた馬車は無情にも去っていった。
「くそっ!くそっ!」
剛泰は手から流血するほど拳で地面を殴っていた。
急に剛泰の手が止まったかと思ったら、次の瞬間倒れた。
家軍が名前を呼びながら、呼吸を確認したら、息はあった。
意識を失っただけのようだった。
皇帝の軍が引き上げた頃、一人の男が家軍の目の前に現れた。
「お前は確か、狼と竜のどっちかだよな」
「はい、狼です。旦那様の手当てをします。屋敷に一緒に運んでいただけますか?」
二人は剛泰を抱えて、屋敷へ運んだ。
屋敷内には数人の侍女と従者が残っていた。他の者は高瑾の指示の下、先に屋敷を出ていた。
剛泰の手当てが終わると、白狼は琳琅たちについて話しはじめた。
「劉将軍、お嬢様は私の母の静宜と共にこの屋敷を出ました。お嬢様の護衛として、濤様、皇太子殿下、家豪様がついております。私はこちらに残って濤様と情報のやり取りをおこないます」
「わかった。狼、後宮の状況を調べることはできるか」
「その件は皇太子殿下がすでに手はずは整えているとおっしゃていました。こちらに直接情報を提供すると。誰かが来るのか、どんな方法なのかは存じません」
「そうか・・・」
(情報が来るまで待つしかないか。しかし、あの皇太子は状況判断が優れている。今までそんな気配すら感じたことはなかった。今のいままで隠していたのか。末恐ろしい皇太子だ)
家軍は剛泰が目を覚ますことを祈りつつ、後宮の情報を待った。




