三、白き姫が受け継ぐ巻物
最初に楊家に着いたのは楊濤と志偉だった。
幸いにも皇帝が送ったと言っていた軍はまだ来ていなかった。
二人は馬から飛び降り、高瑾の部屋へ急いだ。
濤は思い切り戸を開けた。そこには母と妹と侍女がいた。
「濤、慌ててどうしたの。開けるときは声をかけなさい。心臓に悪いわ」
「無事でよかった・・・」
高瑾たちは何があったのかわからず不思議な顔をしていた。
すると、濤の背後から思わぬ人物が顔を出してきた。
「皇太子殿下・・・どうして・・・」
咄嗟に琳琅を隠そうとしたが、濤に止められた。
「母上、皇太子殿下は母上のことも琳琅の存在も知っています」
高瑾は驚いた表情で濤を見ていた。
「母上、とんでもないことが起こっています」
濤は手短に後宮で皇帝が白き姫の存在を明かしていたこと、この家に皇帝の軍を向かわせていることを話した。
そして、父の剛泰がこちらに向かっていること、家豪がおそらく父の劉将軍を連れてきてくれることも伝えた。
高瑾は何が起ころうとしているのか悟った。
「濤、一刻だけでいいから時間をくれるかしら。琳琅に伝えておかないといけないことがあるの。一刻経ったら、琳琅を連れて逃げて」
初めて聞く母の強い口調に濤は動揺していた。
その口調から自分を犠牲にして琳琅を守ろうしていることを悟った。
濤は高瑾の手を握り、首を横に振った。その目には涙があふれていた。
高瑾は濤の頭をなで、抱きしめた。
濤の耳元で優しく語りかけた。
「濤、お願いだから、母の願いを聞いて。皇上は知っているのはずなの。私がすでに白き姫でないことに」
「えっ?どういうことですか」
「白き姫は娘を産んだ時、その娘が白き姫を受け継ぐの。つまり、琳琅が生まれた時にはすでに白き姫は、琳琅のことなの」
「琳琅が白き姫・・・。ではなぜ母を捕らえようとするのですか?」
「あの皇帝の事だから・・・。一つは私が目障りなのと、もう一つは功績を立てたいのよ。こんなことをおこなっても無意味なだけなのにね。だけど、いずれ琳琅に目が向けられるわ。濤、今の皇帝が亡くなるまでは琳琅の身を隠して。何があっても守るのよ。命に代えてでも。白き姫の血を途絶えさせないで」
(濤、ごめんね・・・。でも琳琅を守れるのはあなただけなの)
「母上、お任せください。あなたの息子楊濤は妹の琳琅を命に代えてでも守ってみせます」
濤は母を安心させるため、満面の笑みで答えていた。
「高瑾様。私も力になります。濤と共に琳琅をお守りします」
「皇太子殿下、感謝申し上げます」
高瑾は頭が床につくほど、深く頭を下げた。
「では、母上、一刻したら戸を開けます」
濤と志偉は、後ろを振り向くことなく出て行った。
琳琅は展開がはやく、何が起こっているのか理解できなかった。
静宜は空気を察し、琳琅が逃げるための準備をするため、琳琅の部屋に行っていた。
高瑾は琳琅の手を優しく握り、
「本当は、あなたが十六になった時に告げないといけなかったのだけど・・・。琳琅、よく聞いて。今から見せる巻物は誰にも見せてはならないわ。濤にも見せてはだめよ。将来、あなたが娘を産んだ時、その子が十六になる歳にあなたも今から私が話すことを話さなきゃならないわ」
高瑾は立ち上がり、置物を順番に動かしはじめた。どうやら龍の置物を小さいものから動かしているようだ。最後にこの部屋で一番大きな龍の置物を回すと壁に描かれた龍の目が開き、中から巻物が出てきた。
驚嘆している琳琅の前に高瑾はその巻物を持ってきて、広げた。
「琳琅、一回しか説明しないからよく聞きなさい」
「はい、母上」
高瑾は琳琅に巻物を見せながら、白き姫の隠された秘密について話していった。
濤と志偉は皇帝の軍を待っていたが、来る気配がなかった。
「妙ですね。もう来てもいい頃ですが・・・。そういえば、皇太子殿下、こちらに来る前、鳩でしたでしょうか?飛ばしていましたよね。もしかして」
「持つべきものは優秀で信頼できる手足だよ。だたし、足止めは長くはもたないだろう。五人だからな」
「五人・・・」
濤は、五人だけでこの時間足止めできる者が背後にいる皇太子を侮れないなと考えていた。
志偉のもとに一羽の鳩が飛んできた。志偉は鳩の足に取り付けられている小さな筒の中から紙を取り出した。
「濤、どうやらお前の父も私の配下の者と戦っているみたいだぞ。しかし、数が多すぎて突破されている。こちらに向かっている皇上の軍が数十人。楊剛泰がその軍を追いかけていると書かれてある」
「母一人だけにどれだけの数を向かわせたんだ」
濤は皇帝に対し、怒りを露わにしていた。
「濤ー」
家豪と劉将軍が合流した。
二人は高瑾と琳琅について話した。何を話しているかは知らないが、とても重要なことであることは伝えた。
「濤、剛泰はまだ来ていないのか」
「はい、足止めをしているようで、こちらに向かってます」
家軍は家豪にお前も濤と一緒にお嬢様を守れと言い残し、剛泰のところへ向かった。
時は一刻を過ぎようとしていた。




