二、白き姫に迫る危機
楊剛泰は皇帝が何を言い出すか、想像もつかなかったが、間違いなくとんでもないことを企んでいることは理解した。
白き姫とは自分の妻高瑾以外考えられなかった。剛泰は詳しくは知らないがこの国にとって皇帝と並ぶほどの地位があることは知っていた。皇帝が高瑾のことを目障りだと思っていることも薄々感じていた。
「皆に一つ秘密を教えてやろう。白き姫はこの国の平和をもたらす言わば神のような存在だ。琥珀色の瞳に絹のように美しい白髪。お前らも一度見たら、一瞬にして心を奪われることだろう。しかし、朕は思った。この国にもっと白き姫を増やせないかと。皆は知らないだろうが、剛泰には濤の他にもう一人娘がいる」
剛泰は眉間にしわを寄せ、歯を食いしばり、皇帝に対し恐ろしいほど怒りに満ちた顔をしていた。
親しかった劉家軍でさえ娘の存在は知らなかった。
皆、驚いた表情で剛泰を見ていた。
その様子を来ていた、志偉と家豪も驚いて、濤に本当なのか尋ねていた。
「あぁ、本当のことです。名は琳琅といいます。今は十四になります。このことを知っている者は楊家の屋敷の者と皇帝だけです」
「まさかその妹も・・・」
「はい、皇太子殿下。妹の瞳の色も琥珀色で、美しい白髪です。兄の私でさえ、息を飲むほどの美しさです」
長年、三人は一緒にいることが多かったが、それでも志偉と家豪は濤の妹の存在は知らなかった。
「皇太子殿下、家豪、私は嫌な予感がしています。母上と妹に危険が迫っているような、そんな気がしてならないのです」
「濤、何のための皇太子だと思っているんだ。いざとなったら頼れ。父上に歯向かってでも助けてやる。そうだよな、家豪」
家豪も、当たり前ですよと言って濤の背中を叩いた。
濤は、感謝しますと涙をこらえていた。
「しかし、その娘はまだ子供だ。それゆえ、手を出すことはできない。ならば、剛泰の妻高瑾がいるではないか。高瑾を捕らえて、白き姫を作ろうではないか」
剛泰は耐えきれなくなり、必死に皇帝に訴えた。
「皇上、何をおっしゃているのですか?瑾はもう子をなせないと言っております。皇上がやろうとしていることは無意味なことです。どうか、考え直してください」
皇帝は薄ら笑いをしながら、
「剛泰、高瑾が言っているだけだろう。他の者と交われば子をなせるかもしれない。朕はこの国を思って言っているのだぞ。決定は変えない」
それを聞くや否や剛泰は飛び出して行った。
皇帝は笑いながら、
「無駄なことを。朕の軍がすでに楊家に向かってる。お前らは朕が用意した部屋に行くといい。おい、案内しろ。もちろん、親族の男どもは歓迎するぞ」
他の三人はどこかうれしそうな顔をしていたが、家軍はどう対処すべきか必死に考えていた。
剛泰が部屋を出たのと同時に隠れていた三人も楊家に向かうことにした。
家豪は途中で立ち止まり、先に行ってくださいと皇帝たちがいる場所へ向かって行った。
志偉と濤は急いで馬を走らせた。
「皇太子殿下、近道を行きます。道は悪いですが、早く着きます」
「かまわぬ。急げ」
二人は道といえないようなところを必死に駆け抜けた。
(どうか、間に合ってくれ!)
その頃家豪は皇帝の前に跪き、挨拶をしていた。
「家軍の息子か。どうした」
「はい、皇上。母が高熱を出し意識が朦朧としております。母は父の名前を呼んでおります。僭越ながら、どうか、父を家に帰していただきたいと思い参りました」
家軍も焦った様子で家豪の体をゆすりながら、大丈夫なのかと何度も聞いていた。
その様子を見た皇帝は、
「家軍、戻って看病してやれ。もし、必要なら太医を遣わすぞ」
二人は、感謝申し上げますと跪き、急いで部屋を出て行った。
「助かったぞ。家豪。また、皇太子殿下のところに来てたのか。もしかして、皇太子殿下と濤が向かってるのか」
「はい、父上、もう楊家に向かってます。おそらく、近道で行くので早く着くはずです」
「家豪、その道で私たちも行くぞ」
将軍の家軍でさえ苦戦するような道を平然と進む息子に、今はそんなことを考えるべきではないと思いながらも家軍は息子の成長を感じていた。




