一、白き姫ー悲劇の始まり
◇◇◇二十五年前◇◇◇
楊剛泰は朝から後宮へ向かう準備をしていた。代々楊家は尚書であり、剛泰も父の跡を継いだ。
しかし、現皇帝趙志強の傲慢さに辟易していた。
「あなた今日は急にどうしたの?」
妻の高瑾は声をかけながら、剛泰の着替えを手伝っていた。
「さぁ、また皇上の気まぐれだろ。あちこちで戦が起こっていて、この国は攻め込まれている。しかし、皇上は何もしようとしない。あの、劉将軍もお手上げ状態だよ。今は君のおかげでこの国が持っているようなものだ。このままだとこの国の未来はないな。せめて皇太子が皇帝になれば・・・」
剛泰はため息をついて、高瑾に同意を求める顔をしていた。
「そもそも君は皇族と婚姻しないといけない立場だったなのにな。私としては瑾と婚姻できたからよかったのだがな」
それを聞いた高瑾はうれしそうに微笑んでいた。
「濤はどうした?どうせまた劉将軍の息子の家豪と遊んでいるんだろ。あいつも十八だ。いつまでも子供っぽくて困ったものだ。まだ、琳琅の方がしっかりしてるぞ」
「あなた、濤は家豪から剣術を学んでいるのですよ。琳琅を守るために習得すると言っていましたよ。あなたには黙っててと言われましたが、濤の名誉のために。濤には私が話したことは内緒ですよ」
「濤のやつ・・・」
剛泰は隠しきれない笑みがこぼれていた。
剛泰が家を出て、しばらくすると琳琅が起きてきた。
琳琅は目をこすりながら、父上は?と尋ねた。
高瑾が後宮へ行ったことを伝えると残念そうに朝餉を食べていた。
琳琅は朝餉が終わると、歴史、教養、礼儀作法などを学ぶ。
高瑾の先祖は代々、皇族と婚姻する家系である。高瑾もそのように育てられた。
しかし、皇帝が皇太子時代、高瑾との婚姻を拒否し、代わりに楊剛泰に嫁がせた。実は言うと、高瑾も皇帝と婚姻したくなかったため、望んでいた結末だった。
現皇太子の趙志偉は婚姻しているため、嫁ぐ可能性があるのは弟の趙志明である。
高瑾は琳琅を趙志明に嫁がせたくないと思っている。趙志明は性格が皇帝と似ており、傲慢で、尊大、粗暴である。そんなところに嫁いだ琳琅の将来は考えなくて見える。
白狼と白竜が庭で木刀を使い、模擬戦をしていた。いつもなら、二人は家豪の兄、家景の門下生であるため、家にいないのだが、この日は休暇日だったため、家にいた。
琳琅と二人の母で高瑾の侍女静宜は応援しながら見守っていた。
こんな時間がいつまでも続く。誰もがそう思っていた。
「皇太子殿下、この前怒られたばかりですよね?」
「私たちも父上にこっぴどく叱られましたよ」
「皇太子殿下、皇太子妃が懐妊されたとか。親になるのですよ」
「わかっている。だからだよ。もうお前たち遊ぶのも難しくなってくる。最後だと思え。濤、家豪、ついてこい」
二人は、またかと呆れながらも最後なら仕方がないと志偉についていった。
皇太子趙志偉、楊濤、劉家豪はそれぞれ父親が、皇帝、尚書、将軍ということもあり、幼い頃から顔を合わせることが多かった。歳も近いこともあり、三人はよく遊ぶようになった。
大抵は志偉の無茶な行動に付き合わされ、結果父親に怒られる。それでも、志偉はこの国を変えたいと思っており、濤と家豪はその志に共感し、志偉を皇帝にしたいと考えていた。
志偉には弟の志明がおり、皇帝は自分と考えが似ている志明を皇帝にしたいと考えていることを知っていた。
三人は玉座の間につながる隠し通路にいた。
「皇太子殿下、よくこんな通路見つけましたね」
「そうだろう」
「どうせ皇太子殿下のことです。適当に後宮内をいじっていたら、見つけたのでしょう」
家豪の言葉に反応した志偉の顔は図星のようだった。
志偉は、話し声が聞こえると二人に静かにするように言った。
皇帝により五人の者が集められていた。
羅国三大家族の当主の一人、薛嘉、大司馬の傅恒、宰相補佐の陸良、尚書の楊剛泰、将軍の劉家軍だった。
なぜこの五人が集められわからないまま不思議な空気が流れていた。
しかし、楊剛泰と劉家軍の二人は嫌な予感しかしていなかった。
「皆に集まってもらったのは他でもない。皆にはいつも助けてもらっている。そこで皆に褒美をやろうと思う」
五人は皇帝に向けて跪き、感謝の言葉を述べた。
皇帝は満足げな顔をしながら、こう切り出した。
「皆は白き姫を知っているか」
楊剛泰はものすごい形相で皇帝を睨みつけていた。




