二十六、命を懸けて守った者
琳琅は雪華が戻るのを今か今かと心待ちにしていた。隣で一緒に待っている冰夏も落ち着きのない様子だった。
琳琅が皇帝との話が終わり、部屋を出て待っていたのは、何恩だった。
何恩は琳琅に雪華は誘拐されたことを伝えた。
琳琅はその場で崩れ落ち、再び雪華のいない悲しみを経験するかと思うと胸が張り裂けそうになっていた。
何恩が、今回は敵地がわかっているようですし、旦那様が向かわれていますから安心してくださいと言ったが、琳琅は不安でたまらなかった。
白竜が琳琅に向って走ってきた。
「奥様、雪華お嬢様が帰られました。裏門にいます」
琳琅は裏門へ急ぎ足で行った。琳琅を追いかけるように冰夏もついていった。
裏門が勢いよく開き、雪華が琳琅を目がけて走ってきた。その勢いで、おそらく頭を隠していただろう布が飛ばされていた。
「母上ー」
雪華は勢いよく琳琅の胸に飛びこんだ。
「母上、心配かけてごめんなさい。とても怖かったです。でも、忠兄様からもらった笛を吹いたら、翰兄様と月亮様も助けに来てくださりました。無事戻れました」
琳琅は、よく顔を見せてと言って両手で雪華の頬を優しく包み、安心した顔で見ていた。
琳琅は雪華を抱きしめ、雪華、ごめんね・・・と謝りながら涙を流していた。その隣で冰夏は、お嬢様が無事でよかったですと、鼻水を垂らしながら言っていた。
雪華は母がなぜ謝っているのかわからなかったが、もう一度強く抱きしめた。
雪華の後ろからは毅がゆっくりとついてきていた。
「毅もありがとう。雪華を助けてくれて」
毅は少し悲しげな顔をしながら、首を横に振った。
「母上、私は何もしておりませんよ。父上と敵地に乗り込みましたが、私は何もできませんでしたから。雪華を助けたのは翰と忠、それと第四皇子ですよ」
琳琅は、十分立派よと毅の肩に優しく触れた。
琳琅が雪華から少し離れた隙に、冰夏は鼻水を垂らしながら、雪華に抱きつき泣いていた。
雪華は、鼻水がつくと言いながらもうれしそうにしていた。
「毅、翰と忠はどうしたの?」
「翰は第四皇子と後宮へ行きました。送ったらこちらに来るそうです。忠は生かしておいた敵を護衛にあずけて、またどこか行きました」
「そう・・・」
琳琅は悲しげな顔をしながらつぶやいた。
(翰が戻ったら、万暁東が言っていたことを話して、母上に尋ねるか決めよう。父上は大丈夫だろうか。万昌はどうなったのだろうか。翰にはあの事を謝らないとな)
毅は考えることが多く、思わず大きなため息をついてしまった。
翰は劉家に戻ったらすぐに忠が捕らえた男の拷問をはじめた。
男は、ただでさえ手足が折られているのに、その上、両手両足に短剣が刺さっていた。声を出す気力もなくなっていた。
様子を見に来た呉昭は、相変わらずの翰の拷問に引いていた。
(翰様は雪華お嬢様のこととなると容赦がないからな)
必要な情報は聞き出せたのだろう。
呉昭を見ると、
「私が知りたいことは聞けました。あとは呉昭さんに任せます」
呉昭は正直、気が進まなかったが断る選択肢はなかった。
「御意」
呉昭はため息をついて、男の方を向いた。
その瞬間、地下の床は男の血で赤く染まっていた。
その後すぐ、翰は毅の部屋に行った。
毅は翰に万暁東が言っていたこと全てそのまま話した。
翰は怒りに燃え、毅を斬りかかりそうなほどだった。
「先程あの男から聞いた話とほぼ同じですね・・・。兄上が万暁東の口調も真似て話すから、思わず剣で斬りそうでした。私なら制止を振り切って斬っていましたね。雪華と子をなすなど言語道断です。」
毅は、興奮している翰に、落ち着けとなだめながら、翰が敵地に乗り込まなく本当によかったとつくづく思った。おそらく雪華の名前がでただけで殺していただろう。
二人は母親に祖母について聞くという意見で一致していた。
「翰、万昌はどうなったのか」
珍しく翰が言葉を濁していた。
「もしかして・・・」
翰は黙って頷いた。
「そうか・・・」
毅は万昌が死を覚悟していることは感じていた。おそらく自分の命と引き換えてでも雪華を守ろうとしていたのだろう。
(万昌、命を懸けて妹を守ってくれてありがとう)
毅は黙って下を向いていた。
ふと、あることを思い出した。
「あっ、翰それとあの件だが・・・」
「今回は大丈夫ですよ。それどころじゃなかったでしょう」
小言の一つや二つ言われるかと思っていたが、案外あっさりしていたので安心した。
二人は琳琅の部屋に向かった。




