十八、争奪戦の序章
新年を迎えるまであと七日ほどになった。
家豪と琳琅は皇帝から呼ばれ、後宮へ赴いていた。
他の者たちも家を空けており、屋敷内にいたのは雪華と冰夏と護衛の者たちだけだった。
「勇敢、お嬢様の事は諦めろ。あの第四皇子が相手だぞ。それに翰様だっている。勝てるわけないだろ」
「孫さん、私は諦めませんよ。というか翰様は実の兄だからだめでしょう。誰が何と言おうと、お嬢様への気持ちは変わりません」
勇敢と孫磊の話は、雪華に丸聞こえだった。
(本人に聞こえる声で話さないで)
雪華は何も聞こえてないと自分に言い聞かせて、寝台に寝転がりながら、歴史書に集中した。
読んでた『羅国の歴史』の書も先帝の時代に入っていた。
雪華はある記述を見て、思わず起き上がり、眉をひそめながら真剣に読んだ。
そこにはこのように書かれてあった。
『皇帝趙志強の時代、突然、白き姫と呼ばれる者が現れた。皇帝は宣言した。白き姫を手に入れた者、天下をとり、この国の平和が保たれる。皇帝は、慈悲深くも、皆にその権限を与えた。白き姫を手に入れるため、多くの者が争った。しかし、白き姫は忽然と姿を消した。同時に、皇帝も崩御された。後にも先にも白き姫はこの者だけだった。名も容姿もわからぬまま。知った者は皆、散ってしまった』
(この白き姫って、祖母の事だよね。どういうこと?)
雪華はその後の記述も読んだが、祖母に関して書かれたのはこの箇所だけだった。
(これは母上に聞かないとわからないみたいね。この時何があったの?)
男は息を殺し、聞き耳を立てていた。
「そうか、金子を渡した価値はあったな。劉家も油断しているだろう。まさか、生き残りがいたとは夢にも思うまい。よし、私たちも行くぞ」
(一刻も早く急がないと!)
男は気付かれないように走り去っていった。
雪華は妙な気配を感じた。
(あれ?そういえば勇敢たちの声が聞こえなくなった)
雪華は嫌な予感がし、ゆっくりと戸に近づいていった。
すると、勢いよく戸が開いた。
「驚いた。冰夏、急に開けないでよ」
「お嬢様、逃げてください。皆の様子が・・・」
冰夏の後ろには一人の男が立っており、にやりと笑いながら手に握っていた粉をぶちまけた。
(何?)
咄嗟に口と鼻を塞いだが、めまいがしてきた。目に前では冰夏が倒れていた。
「冰夏・・・」
薄れゆく意識の中、雪華は男に抱きかかえられた。
(月亮様、翰兄様・・・助けて・・・)
「冰夏、冰夏!」
冰夏は身体をゆすられようやく目が覚めた。
「お嬢様はどうした!」
冰夏は慌てて起き上がり、周りを見渡したが雪華の姿はどこにもなかった。外を見てみると、勇敢と孫磊が倒れていた。
(この粉は催眠粉?こんなものを用意していたとは)
「冰夏、護衛を叩き起こして、家豪将軍に報告するように伝えてくれますか。私は第四皇子と翰のところに行きます。あと、家豪将軍にはこの場所に来てくださいと伝えてください」
冰夏は地図を受け取った。ある場所には大きく✕印がつけられていた。
「お嬢様は大丈夫でしょうか?」
「安心してください。大丈夫です。誰がやったのかもわかっていますし、どこへ向かっているのかもわかります。金で釣らせているだけで、大したことのないやつらですから。冰夏、あとは頼みます」
「はい、万昌様」
万昌は優しく微笑みながら頷き、足早に去っていった。
(父上、あなたの思うようにはさせません)




